セーレと12の悪魔
どうやら12人ほどの悪魔が、何かを取り囲んでいるようだ。
悪魔同士がつまらないことで争うのはいつものことなので、それだけであれば気に留めなかったであろうが、多対1であればやりすぎだろうと思い、彼らの行動を留めるべく、セーレは愛馬(但し翼付き)で急下降を速めた。
「見回り、ご苦労様」
地面に一切の衝撃を与えることなく着地しつつ声をかける。
「それで皆で集まるほど何かあったのかい?」
セーレのというより、上位の悪魔、魔神達の人柄(人ではないが)については皆良く知っている。
気に食わない、というだけでむしゃくしゃして殺った、反省はしていないという輩ばかりなので、何が逆鱗になるのか知っておかないと冥界では生きていけない。
セーレはそんな中では温厚で誠実なほうではあったが、卑怯なことなどは嫌うのだ。
まったく持って度し難いが、あくまで悪魔なのである。
「こここ、これはセーレ殿!ととと特別なことは何も」
1人の下級悪魔がこちらに振り向きセーレに気づくなり、鶏のようになりながら答える。
手を突き出し、顔を左右に振りながらの返答は顔を滴る汗の裏切りにより、無駄となる。
その悪魔の動作で他の悪魔達も気づいたのだろう、彼らもこちらに向き直るなり、同様に手を突き出し顔を左右に振る。
シンクロ率400%か!
セーレはなんとか口に出すのを堪えたが、思わずつっこんでしまうほど彼らの動きは揃っていた…あ、1人だけ揺れが逆だった。
「これだけ君達が顔を揃えて何もないということはあるまい。何を隠している?見せてみろ」
そういって彼らのシンクロを乱すようにかき分けようとすれば、
12人の悪魔は必死になって抵抗しようとしてくる。
それは異常だった。
悪魔にとっては爵位、いや実力が非常に重視される。
下級の悪魔なぞ上級の悪魔にしてみれば有象無象の存在であり、ましてや魔神にとってはもはや塵芥のようなものである。
その魔神に対して抵抗を試みる…それは命がけとすらいえない蛮勇であった。
一方で同時に集団リンチのようなものではないらしいとセーレは安心しもしたのだ。
魔神の逆鱗に触れて消滅することを恐れたのなら、このように消滅を覚悟で抵抗するはずもないからだ。
彼らは罰することはしていまい、と思いつつも何が彼らを駆り立てるのか気になったセーレは一層の力を込めて彼らをかき分けた。
下級悪魔達の必死の抵抗もむなしく、開けた視界の先に見えたのは
こちらを見てキャッキャッと笑う幼女だった。
風にさらわれる金糸は、いつか見た夕焼け照らされる小麦畑のように煌き、瞳は森の木々を透けて降り注ぐ陽の光のような透き通った碧だ。
将来が楽しみな---この幼さでそれは異常ですらある---美貌はもちろんだが、何よりセーレが釘付けになったのは彼らに向けられた笑みであった。
セーレがいかに王子然りの容姿、性格であったとは言え、だが悪魔だ。
しつこいようだが、それは呪詛のようなもので、
悪魔であると知られれば、整った外見ですらも、
”魅了し魂を奪おうとしている”と認識され、忌避され疎まれるのが常であったのだ。
今、幼女がセーレに見せた一切の汚れ無き笑みは、彼らの心をキュンとさせるのには十分過ぎる破壊力だった。
「なぁ、セーレ様なら他の方々よりマシじゃねぇか?」
そんな声が聞こえてくる。
「確かに。他の方々に知れたら容赦なくぶっ殺されちまいそうだもんな」
「セーレ様」
始めに俺に話しかけてきたやつが真剣な目で俺を見据えてくる。
「本日担当区域を見回っておりましたところ、声が聞こえてきまして様子を見に来たところ、」
「天使を発見しました」
いやいや、俺ら悪魔だからな!天使は天敵だから!!
……言いたいことはわかるけれども。
「警戒しつつも確認したところ、一撃で重症を負い、身動きできなくなりました、時間になっても戻らぬ我らに気づき、交代の班も出撃。交代班も同様に重症を負い、身動きできず現状に至ります」
言っておくが彼らに怪我などは一切無い。
過去の古傷の痕がせいぜいあるくらいだ。
確かソロモンの居た世界で言うところの『ろり魂』だったか。
こいつら重症だ。
セーレ自身頭痛を感じ始めていた。
「セーレ様、他の方々に見つかればどうなるかわかりません。セーレ様がお預かりくださいませんか?」
「は?」
とても配下に聞かせるようなものではない発言をセーレはしてしまっていた。
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