タライとルイポ (1)
前のサイパが旅に出ていた間に、新しいサイパには三人目の子どもが生まれており、この男の子は、血師の役目を選び、ターリャイという名前をもらっていた。これもだいだい続いた、まとめ役の血師の名前だ。亡くなったサイパが見つけてきた赤ん坊はちょうど同じくらいに成長していた。
「ターリャイとリューイポは、兄弟のように乳を分けあって育つといい」
血院の皆がそう思った。
ターリャイの大人の名前は、タライ。三代目のサイパが血院に戻り着いた時には二代目タライは病床にあった。そして、サイパの後を追うように亡くなった。それで赤んぼうのターリャイは三代目のタライを名乗るようになり、それに合わせて、リューイポもルイポと呼ばれることになった。赤んぼうは二人とも、もう、三代目のタライ、ルイポという大人の名前を継ぐことになったのだ。
タライには兄と姉が一人ずついたが、この二人は血師ではなかったので、ルイポとタライは血師として、ほんとうの兄弟のように育った。
それから十年くらいの間は、仲が良く、けんかすることがあってもすぐに仲なおりして、はげましあって、大きくなった。
いつ頃からだろう、何かにつけてルイポの方が良い成績を出すことが多く、ルイポはいつもほめられた。自分の本当の子どもだからといって、サイパはタライをひいきすることはなかった。血師になった以上、もう自分の子もなにもない。あとはその血師の役目を引き継いで行くだけだ。
血院にたずね来る人に気づくのも、いつもルイポの方が先だったし、どんな人がやってくるのかがわかるのも、いつもルイポのほうだった。
この頃にはもう二人は診断も始めており、病人について、ぴたりと診断して、治していくのも、ルイポのほうがじょうずだった。
ルイポはそれを鼻にかけたことはなかった。ルイポにとっては、それはあたりまえのことで、自然にわかることだった。
青年に向かうにつれて、タライは、ルイポばかりがほめられることに、むしゃくしゃするようになり、じっさい、自分の診断がはずれたり、治療がうまくいかないときには、もっと腹が立った。タライは、いつも、ルイポよりほめられ、ルイポよりうまく診断して治すことばかり願うようになっていった。だがいつもうまくいかないのだった。
これは血師の間ではよく言い伝えられていたことだが、診断や治療の力は、あせったり、力が入りすぎるとうまくいかないことがある。タライのあせりは、ほんとうに持っている自分の力を押さえてしまっているのだった。悲しいかな、タライ本人にはそれがわからない。だから、タライとルイポの診断・治療の力は、どんどん引きはなされていった。
血院では、血師の物語が伝えられていく。それは血帳にも書かれ、残されていく。ルイポが山のそのまた山の奥の、死に絶えた部落の生まれであること。そこを通りかかった三代目サイパが赤んぼうのルイポを見つけて、この血院に連れて帰ってきたことは、お話としておもしろく、子どもたちにくりかし、語りつがれていた。
それに比べると、血院で生まれ育ったタライの物語は、たんたんとしたもので、サイパの子どもとして生まれ、幸せに、大切にされて育ったというだけで、お話としては、盛り上がりも、驚きもなかった。自然、子どもたちは、ルイポの物語を好むようになった。タライの物語は忘れられ、語られることもあまりなかった。そうやって何もかもがルイポをたたえるように進んで行った。タライは自分がのけ者にされ、皆からうとまれているように感じるのだった。
「おれが、この血院で生まれたのに。ルイポなんか、よそ者だったくせに」
タライは、そんなことまで、くやしく思うようになり、むしゃくしゃとすることが多くなっていた。そしておもしろくないことがおこるたびに、タライはルイポを恨み、憎んでいった。
血院のまとめ役をしている、タライの父、四代目サイパは心やさしい人で、ゆったりと二人のゆくすえをながめるつもりでいた。タライのことは、もちろんかわいいと思っていたが、ルイポのこともかわいいと思い、ともにりっぱな血師になってほしいと願っていた。
サイパはからだが弱く、からだが弱くなるにつれて、診断の力も弱くなっていた。
タライとルイポが青年になったころ、サイパはずうっと寝たままの生活になって、静かに息をひきとった。
次に血院をまとめたのは三代目クイポだった。この人は四代目サイパの弟だったが、だれがみても診断の力はルイポのほうが優れていた。だから、血院の人たちは、クイポは老人になる前に旅に出て、ルイポに血院をまとめさせるだろう、と噂していた。もちろんこの噂は、タライの耳にも届いていた。
血院は、タライにとっては生まれ育った家と同じものだ。
「どうして、ルイポがまとめる血院でなんか、やっていけるものか」
タライは歯ぎしりした。それに、もっと悪いことには、二人は同じ少女に恋をした。