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血院  作者: 辰野ぱふ
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血院 (2)

マジャイナ王の古いお城のなごりは、今のマンドゥリ中央病院の建物に見られる。柱の装飾や天井、壁などの装飾も昔の宮殿の造りと同じなのだそうだ。


何年もの間、王様とその家族のために、特別なあつかいを受けていた血院がなくなるというのは、それは大きな変化だった。あまりにもあっけなくその決断は下り、容赦がなかった。サルーパの人びとも、血院に暮らしていた人びとも、永遠にそのままの生活が続くものと思っていたから、特に血院では大騒ぎになった。

マンドゥリにあった血院では千人もの人が働いていたのだ。新しい病院になることになって、下働きをしていた何人かはそのまま新しい病院で仕事をすることになり、何人かは町に下り占いなどをして暮らすことになり、何人かは他の仕事を見つけてマンドゥリに残った。でも、今まで血院で良い暮らしをしていた血師たちは、そうはいかなかった。これからはちゃんと試験を受けて、資格のある医者にならなければマンドゥリ中央病院では医者として働くことができないのだ。今さらほかの仕事をすることはできない、という血師がたくさんいた。また、血院を信じ治療をしていた病人たちやその家族も血院の取り壊しには反対した。だが新しい病院を作るという動きの方が大きかった。その動きに押し流されるように、反対する人たちはマンドゥリを離れることになった。この人たちは集まって、皆でマンドゥリを出、新たに住む場所を探すことになったのだ。

この時、血師と、血師に着いていてマンドゥリを離れることになった人の数は三~五百人ほどと言われている。そのたくさんの人が二カ月ほどもかかって、長い行列を作り、次に住む場所を探し歩いたということだ。

 血院で使われていた薬は、草花や、木々、土、石、動物の身体や角、骨を乾かしくだいたものなど、自然の中にあるもの、漢方の薬のようなもので、大きな薬の部屋にたくさん置かれていた。それも全部運んでいくことになった。また、病人一人一人に、血帳というノートが作られて、その人のことが記録されていた。今の病院で言えば、カルテのようなものだろう。この血帳もすべて、荷車に積んで、いくつもいくつも引いて、山道を歩いて移って行った。

 その頃のマンドゥリには、自動車やバスなんてなかったのだ。馬やロバを使う者もいたが、ほとんどの人は野宿をしたり通りがかりの民家に寄り、治療をする代わりに食料を恵んでもらいながら、歩いて行った。それでもまだマンドゥリに近いと言われ、役人に追い立てられて、もっと山奥まで移動することになった。

 今血院のあるトゥミハラヤの「ハラヤ」とは天上人ということ。ハラヤ地方はヒマラヤに続く山岳地帯で、天上人の住む場所と言われている。ハラヤ山のふもとで、各地からの中継地点となっている、ジャミハラヤの「ジャミ」は入り口という意味。トゥミハラヤの「トゥミ」とは静かな場所という意味だそうだ。血院の人たちが移り住む前、そこは人が死に絶えた村だったそうで、それで「静かな」と呼ばれるようになったという。そして、そこをそのまま今でも「血院」と呼ぶ人もいる。というのは、血師たちはここで粗末な診療施設を建てて診断を始め、血師に着いてきた人、患者とその家族たちもそのままそこに住み着いたからだ。血師の子孫たちは今もこの地におり、まだ血の流れを中心とした体液の流れを診ることで生活している。一緒に着いて移動した人たちや患者たちの子孫はほかの仕事を作り、その周辺に住んでいる。

でも、サルーパの若い人の間では、血院のことを知る人も少なくなってきている。今、血院にやって来るのは、物語として残っている血院の話を信じて、病気を治してもらおうという人。また、年老いて最後に血院で静かに暮らしたいという人だという。

 気が弱くなり、自分の最後を感じる人の心に、ふとむかしの血院お話がよみがえる。そうやって、ほそぼそとこのお話が残っているのは、血師が人に信頼され、確かな仕事を残してきたからだろう。


 ラルさんが読みだした子どもむけの血院の絵本は、マンドゥリを追われた血師たちが、行列を作って、山間の村にたどり着く所から始まった。

 物語の最初の主人公はその時血院をまとめていた年老いた血師、サイパだった。

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