サルーパ (4)
ぼくがほとんど食べ終わったころになって、やっと父さんが帰って来た。父さんとラルさんが席に着いた。
「シャイアもここで食べたら?」
と、父さんがラルさんのお母さんに言った。
「いえいえ。わたしは、ウチいく。ミユキと食べる」
ラルさんのお母さんの日本語はカタカタした感じ。でもこちらで言うことはちゃんとわかっている。父さんとラルさんが食べ始めると、ラルさんのお母さんはいろいろ片付けたり、みそ汁を用意したり、ぼくには果物やらお菓子やらを出してくれて、なにかと世話をやいてくれた。
「お昼を食べたら、またすぐに病院に帰らなければならない」
父さんが言った。
「アユムと話ができるのは夜だな。それまでにラルにいろいろこれからのことを聞いておいてくれ」
食べ終わったとたんに父さんは立ち上がって、ぼくの肩をトントンと軽くたたくと「じゃ」と言って行ってしまった。なんだかあわただしいな、とぼくは思った。
つい十日ほど前、ぼくは日本で父さんに会った。高校の卒業式に来てくれたのだ。でも、その時も話す時間なんてなかった。父さんは走るようにサルーパに帰って行った。
ぼくがサルーパに来る計画も、サルーパからジャミハラヤという村にバスで行く計画もラルさんとメールでやりとりして立てたのだ。
「じゃあ、血院の歴史を勉強しようか」
と、ラルさんが子ども向きの絵本やいくつかの本を持って来た。どれもけっこう厚い。絵本もだ。サルーパ語で書かれているから、ぼくには読めない。
「お父さんが働いているマンドゥリ中央病院のある所に、昔は血院という病院のようなものがあったのです。ぼくのおばあさんのお母さんは、子どもの時に行ったことがあるということです。血院は今はトゥミハラヤにあります。ジャミハラヤにバスで行ってから、山の中を歩いて行かなければなりません。おばあさんは、動けなくなる前にトゥミハラヤに行きたいと言っています」
「その、血院にススム兄さんがいるというのですね?」
「そうです」ときっぱり言うと、ラルさんは話し始めた。