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血院  作者: 辰野ぱふ
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六日目の朝 (1)

 まだ暗いうちから、子どもが外で騒いでいた。

 ラルさん、ラミルさん、ナジャイさんはもうすっかり帰る用意ができていて、ぼくのいる所に来るまでに、子どもたちに取り囲まれてしまい、苦笑いしていた。

キューイポさんが言うには、お客様が帰るのがわかるので、それを送りに来ているということだった。

「ここにお客さまが来るのは子どもたちのいちばんの楽しみだからね」

 とキューイポさんがひとしきり笑い、そしてぼくに頭を差し出した。

「髪の毛を抜くようにと、言っています」

 とラルさんが、言った。キューイポさんはずっと笑いながら下を向いている。ぼくはキューイポさんの頭を見てぎょっとした。頭にも傷がある。それはキューイポさんの血帳にも図が描いてあったから、知っていたけれど、実際に見ると痛々しい。もう痛みはないのだろうが、触るのがこわかった。髪の根本の皮膚はうすピンク色に近い。白髪が多く、黒い髪の毛はなんだかゴワゴワしている。白髪よりは黒い髪をもらった方がいいような気がして、ぼくは注意深く、ドキドキしながら黒い髪の毛を引っ張った。そして、用意してあったビニール袋に入れた。その間も、ずっとキューイポさんはヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッと笑いをこらえながらも、こらえきれずに音をもらしていた。

「ここに来るためにからだの調子が悪くなって、そして、ここで良くなって帰るだけだね。こんな私の髪の毛をもらうために! まあ、髪の毛はからだの一部だから、何かわかるのかな」

 そう言いながら、キューイポさんはもうおかしくておかしくて仕方がない、という風に笑い続けるのだった。

 たしかに…。キューイポさんの髪をビニール袋に入れながら、いったいこんなもので、何がわかるのだろうと、ぼくもなんだかシラけた気分になっていた。

 キューイポさんはまたぼくに手を差し出して、手首をつかむように言った。

「なにかわかるかい?」

 ぼくはリューイポさんがやっていたように、脈をとるようにキューイポさんの手首をつかんだ。

「なにも…。やっぱり、ただ鼓動がわかるだけ」

 キューイポさんは笑いながら

「それは君も同じだ。君の心臓も動いている。皮膚が湿っている感じがしないか? 身体も液に包まれているのだ」

「うーん。まあ、乾いたような感じはしませんが…。わかりません」

「なんだか、鼓動が大きいね。指が震えているね」

 と言い、キューイポさんはまたおかしくてうずくまってしまった。

 意味がわからない。でも、ただそれを見ているしかない。

ぼくたちが外に出ると、昨日と同じように子どもたちが、ぼくたちを取り囲んだ。ぼくのからだや荷物に小さい手で触れてくる。下からおもしろそうに、ぼくの方を見上げてニコニコしている。そして皆でお経のような、抑揚のない歌を歌っている。


人が行く

人が行く

ロバが一頭、おとなが四人

静かに出て行く

歌を残して


 ラルさんが歌詞を教えてくれたけれど、「歌ってなんだろう?」とぼくは声に出して言った。

「さあ」

 ラルさんが首をかしげると、

「歌というか、物語というか、同じようなものさ。物語に節がついたのが歌だからね」

 リューイポさんが言った。

 キューイポさんが笑いながら、ぼくを抱きしめた。

「わたしはどうでもかまわないよ。君の兄さんでも、リューイポの犬でもね」

 キューイポさんの身体は硬かった。笑っていると、むくむく動いている。暖かい。

「いろいろありがとうございました」

「この水薬を、夜、山で眠るときに飲むといい。そうすると、よく眠れるだろう。ジャミハラヤに着けば、あとはバスに乗るだけだし、マンドゥリに着けば病院があるのだから、少しくらいまた調子が悪くなっても、どうということはないよ」

 リューイポさんが小さいガラスのびんを三つくれた。中には白い水が入っている。

 子どもたちは、血院の村の入り口、石塔の横に立ってずっとぼくたちを見ていた。ぼくは何度も振り返り手を振った。そしてその姿がすっかり見えなくなってから、ぼくはラルさんに話しかけた。

「ラルさんは、どう思ったのですか? キューイポさんを見て、ススム兄さんの面影がありましたか?」

 ラルさんは、困ったような顔をしていた。そして…、

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