五日目の朝 (3)
「火事を見つけたのは、シャーイパの名を継いだ少年でした。サリがやけどをして、ころがっているのを見て、『ぼくじゃない、ぼくじゃない』と言って、走って燃え盛る火に飛び込んでしまったそうです。その少年を追って、タライの甥のターリャイも一緒に火に飛び込んでしまい、その二人は助からなかったそうです。それはどういう意味なのか? ぼくが火をつけたのではないということなのか、その少年が、ほかの人を見たのか、ターリャイが何をしたのか…。ターリャイこそが火をつけた本人ではないかと言われていますが、本当のところはよくわかっていません。
今、ここにいる、リューイポのおじいさんのルイポはこの地にこの場所を建ててから、一つ前の血院で起こったことだけを、自分の記憶として、、新しい自分の血帳に記録したそうです。そして、火事について、いろいろ探るのはやめようと言ったそうです。
そのルイポはサリとその家族、ルイポに従うものたちと、血院を離れてここに来たのです。サリはやけどを負ってからは言葉を話すことはなかったということです。でも血帳師として働き、新しい血帳師を指導して、亡くなるまで穏やかにここで過ごしました。とてもやさしい人だったそうです。
このリューイポが生まれる前に、おじいさんのルイポは亡くなったそうです。今は、リューイポのおじさんが、今のルイポだそうです。ここに来てから生まれたズーライの弟です。さっき、病室にいたらしいけれど、わからなかったですね」
「え?」と声をあげそうになって、ぼくはこらえた。ここらへんは、同じ名前で、なんだかよくわからなくなってくる。あとでノートに書いて整理してみよう。
「おじいさんのルイポは石で建物を作りました。燃えにくいように。それに、この村はもともとルイポが生まれた村だったそうで、土台は石でできた家だったそうです。家の上の方はなくなっていたそうですが、土台の残っていたところには、その土台をまねて石を積んだそうです。田畑の後だった所に田畑を作ったということです」
「その前の血院は? 焼けてしまった血院はどうなったのですか?」
「ジャミハラヤから、違う道を上り数日歩くとまだ跡があるそうですが…、そこはタライが継ぎました。その後のことはよくわからないそうです。また火事があって、建物は残っていません。ここまでは絵本にありましたね。
タライも火事で死んでしまったのではないか、ということです。
その火事の後に生き残った人が、何人かは三代目のルイポを探して、ここに来たそうです。その人たちが言うには、サリの燃えた火事のことは、火をつけること自体、タライが甥のターリャイに命じ、仕組んだとうわさされていたそうです。でも、まさか血帳が全部燃えるほどの火事になるとは思っていなかっただろうと…。タライはただサリに罪を着せるだけの、小さい火事を起こそうと思ったのだろうと…。血帳の部屋は水がめの置き場に近かったし、消し止められると思っていたのかもしれません。サリは死にかけましたが、それも計算違いだったろうと言われています。もしサリが亡くなったりしたら、火事のことは徹底的に追及されたでしょうから。
それに血帳は血院の財産でしたから、それが燃え尽きてしまったのは、タライにも痛手だったろうと。三代目のルイポが血院を離れてからは、タライは自分の部屋にひきこもって、人にあまり会わなくなったそうです。血院全体の雰囲気も暗く、活気がなくなってしまったということです。最後の火事の時は、タライの家から火が出たということです。
ルイポを探してここに来た人たちは、ここに住んで、今もその家族がいます。それぞれの話はそれぞれの新しい血帳に書かれています。今でも、一年に一度、その火事があった日には、皆で元あった血院の方を向いてお祈りするそうです」
ラルさんが言っていた、「昔の血院からトゥミハラヤに続く話」は、これで一応はつながったのかな、と思った。
「それで…。キューイポさんのことなのですが」
ぼくの「キューイポ」と言ったひびきで、キューイポさんがこちらをギロリとにらんだような気がした。笑っていても、目がとても怖い。
「では、キューイポの血帳を見てもらおう」
とリューイポさんが言って、ぼくの血帳よりも大きい、たてが九十センチくらいもある、皮の背表紙の血帳がテーブルの真ん中にドカンと置かれた。
ローマ字とも違う、絵のような文字が、もようのように並んでいる。そこに、キューイポさんのからだの絵も描かれていた。からだは、傷におおわれていた。
「キューイポの昔の物語は、なにもわからない、と書いてあるよ」
ラミルさんが、横から文字を読んで、ラルさんに説明していた。
「キューイポはジャミハラヤの市場にいたそうです。その時のことは血帳にも書いてありますが、リューイポが話します。リューイポとキトパがキューイポを見つけたのです」




