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血院  作者: 辰野ぱふ
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四日目の朝 (1)

 アユムはまだ眠っていた。キューイポもいつもだったらまだベッドの中にいる頃だったが、今日はアユムのことが気になり早くから目が覚めていた。まず、キューイポはアユムの手を取り、少し血の様子を見てキトパにそれを書かせてから、外に出ることにした。

外といっても、一人ではあまり遠くまで歩いてはいけない。だからただ扉の前に立つだけなのだが…、太陽がかくれているうちはキーンと、冷たい風が通り抜けることがある。キューイポはその風が大好きだった。風の中にいると、なにか自分の中から広がって行くものを感じる。自分の身体が空気に溶けて行くような、粒になっていくような感覚だ。それは空気と自分の堺がなくなってしまうような、うっとりする感覚だった。そうやって、キューイポは風に身をまかせて、しばらく立ち尽くしていた。

 外では子どもが集まり始めており、ざわめきがこちらに近づいて来るのがわかった。

「いかん、いかん」と言うと、キューイポは思い切り怖い顔をしてみた。だが、どうしてもおかしくなる。よそ者が見れば、そのキューイポの顔だけで怖がるところだが、ここの子どもたちにはもう正体が知れているから、笑っていたら言うことを聞くわけがない。だが、怒ることもできなかった。どうしたものかと、キューイポは首をかしげた。

「子どもたちはわたしが連れて行くよ」

 シャーイパの手を引いて、リューイポがキューイポの後ろから出てきた。

「朝食はここに運ばせよう。君は今日は血院回りの仕事はしなくていい。旅人にずっと付き添っていてくれ」

 子どもたちが近づいて来る前に、リューイポはこちらから近づいて行って、何やら言って、子どもたちをまとめて食堂の方に下りて行った。

「なんだって、リューイポの言うことは聞くのかな」

 そして、キューイポは扉の前でまず朝の一笑を済ませた。それからしばらく、扉の前に立ち、山の方を見ていた。


 食堂の人が、キューイポとキトパ、アユムの朝食を運んできた。

 アユムはまだ起きなかったのでそのままにして、リューイポとキトパは暖炉の前で朝食を済ませた。

 食事のあと、暖かさが気持ちよく、キューイポもキトパもしばらく居眠りをした。そうやっているうちに、もう午後になろうとしていた。ふっと目を覚まして、アユムの方を確かめるとまだ寝ている。

「ずいぶんと良く眠っているな」キューイポが言うと、

「夜もずいぶんと良く眠っていたよ」キトパが言い、キューイポはおかしくなり、笑いながら「せっかく、壁になったのに、何も起こらなかったというわけか」と、またしばらく笑った。

「また、外にいるよ」

 キューイポはまた扉の外に立ち、風を感じた。もうだいぶ暖まってきている。山と空の感じはわかる。だがその中に ふっと、ゆれるものがぼんやり映った。それは、赤い。たぶん、空にただようタコだろう。そして、そのタコが、だんだん、こちらに近づいてきた。

「また子どもがもどってきたのか?」

 キューイポが目をこらすと

「いやあ、おはようございます。と言ってももうお昼です。昼ご飯を持って来ました」

 と、タコをあげながら、ラルが言った。そのうしろから、ラミルが食事を運んで、着いてきていた。

「ヒュッヒュッヒュッ…、子どもかと思ったら、おとな二人して、そんなもので遊んでいるのか」

 キューイポは笑いながら、二人をまねき入れた。ラミルが間に入って、ラルとキューイポが話を始めた。

 今日は天気が良く、今は暖炉のそばに立つとむっと暑いくらいだった。

 アユムはまだ、寝息をたてていた。その様子をじっとキトパが見つめていた。

「もう昼ごはんだと」

キューイポがクククとこらえるように笑い、「あなたがたは、食べたのですか?」と聞くと、ラミルが伝え、「ええ」とラルが言った。

「アユムの様子はどうです?」

 と、ラルが聞いた。

「だいぶ、おだやかになって、血も同じ間隔で流れ出し、澄んできている。横になったままなら、もう、今日は話もできるだろう」

「あなたは? なにか思い出しましたか?」

「いや、なーんにも」

 ククククク…、二人に悪いと思ったのか、キューイポは二人に背をむけて、笑いをこらえた。でも、こらえきれないらしく、ヒュッヒュッヒュッヒュッと声ももれていた。

「なにがそんなにおかしいんです?」ラミルが言うと、

「なにもかもさ」と、キューイポは、またひとしきり笑った。

 人の話す声で、アユムが目をあけた。ぼんやりしているが、顔色はほんのり赤くなってきていた。キトパは何も言わず、もうしきりに何かを血帳に書きつけていた。

 キューイポの顔は、もちろん、昼でも鬼のようだ。アユムは、かなりびっくりした。でもそのうしろにラルもラミルもいたので、すぐに笑顔にもどった。それは弱弱しい笑いだった。

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