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血院  作者: 辰野ぱふ
13/36

ラル (1)

「え? 話はここで終わりなの?」

 とぼくはたまらずに聞いた。それは、あまりに悲しい終わりで、ぼくは胸がしめつけられたまま、どうすることもできなかった。

「そうです」

「じゃあ、もう血院はないということなの?」

「いえ。このお話の場所は、トゥミハラヤではないということなのです」

 ぼくはさっぱり意味がわからなかった。

「この先のことが書かれた本はないのだけれど、話はまだ続くのです。このお話から今のトゥミハラヤに続く話があるのです」

「どういうこと?」

「だって、今も血院はあるのです。それに、今は三階建ての建物ではありません」

「どういう話が続くの?」

「さあ」

 話の途中で夕飯になり、またそのあとに、ルイポとタライの話を聞いて、ぼくはもうへとへとになってしまっていた。だって今日、サルーパに着いたばかりなのだ。それなのに、明日の朝早くにジャミハラヤに行くバスに乗らなければならない。ぼくは、ラルさんのことを考えずに深いため息をついた。

 ため息をついたとたん、ラルさんに悪いことをしたな、と思った。でも、その時、ぼくのため息にかぶさるように父さんが帰って来たので、ぼくはラルさんに何も言わず(どうせ言う言葉なんか思いつかなかったけど)なんとなくホッとした。

 ラルさんは、父さんにていねいにあいさつをすると、帰って行った。

「どう、何かわかったかい?」

 と父さんがのん気に聞いた。

「ぜんぜん」とぼくは答えた。「夕飯は食べたの?」と父さんに聞いた。

「ああ、シャイアが届けてくれたよ」

 父さんはカラカラと笑って答えた。この人は強い。ぼくは母さんの血を継いだのかな、とときどき思う。父さんのようになんでも笑い飛ばすような強さがぼくには足りない。

「血院の話はどうだった? おもしろかった?」

 なんだか、人ごとみたいに言う父さんに腹が立ってきた。

「いったい、どこが兄さんとつながるのか、さっぱりわからなかった! だいいち、話が昔すぎる!」

 もう、すぐにでも布団に入って眠りたい気分だった。

「まあ、珍しい場所だし、トゥミハラヤに行くのは悪くないと思うよ」

 と、父さんがまたのんきに言った。

「だって! なんだかよくわからないのに、ジャミハラヤから三日も山の中を歩いて行くのなんて、ぼく、いやだよ!」

「まあ、いいじゃないか、ラルにつきあってやれ」

「え?」

「ラルは、ずっと気にしているんだ。ラルがススムと二人で縁日に出かけて、その日、ススムは迷子になったまま帰って来なかった。さらわれたのかもしれない。それから、母さんはとても弱い人になって、病気がちになり、ぼくとうまくいかなくなった。そういうことすべてに、ラルは責任を感じているんだよ。ずっと。

アユムと母さんは一緒に日本に帰った。でも母さんは帰ったあとも十年続けて何か月かはこちらに来て、がんばってススムを探した。もちろん、ぼくも探した。でも、どこをどうやって探したらいいのか見当もつかなかった。ビラを配ってみたり、サルーパのラジオに出て、探してくれるようにとぼくの声を流したこともある。ススムのような少年を見かけたという情報があれば、その村に出かけて行き捜索もした。祈祷師や占い師に頼ってみたこともある。だけど見つからなかった。年々希望は薄くなり、母さんは見る間にやつれ、暗く沈んでいくようだった。

ススムのいなくなった日は、寺の祭りで人が大ぜいたし、ラルはまだ十四歳だった。ラルだってどうしようもできなかったんだ。気が付いたらススムがいなっかったのだから。

母さんはラルをずっと責めている。口には出して言わないけれど、ラルに対する態度はまるで違ってしまった。ラルはあのことで、自分に自信がなくなってしまった。それからススムをずっと探し続けている」

「だって、兄さんは本当は死んだのではないの? 日本でお葬式をしたのを覚えているよ」

「けじめをつけたんだ。この国では子どもが亡くなることは珍しいことではないのだよ。警察がススムだと言って持って来た遺体を、ぼくはススムだということにした。いなくなって十年も経っていた。見つかった遺体はもう白骨化していた。ちゃんと確認する方法はなかった。ススムの歯形もなかったし、今のように遺伝子がどうこうという時代ではなかったし、中央病院でもできることは限られていた。この国では道ばたでも人が亡くなるのだ。

ぼくはしょうがないと思っている。でもぼくのそういう気持ちがどんどん母さんを傷つけてしまったのだ」

「じゃあ、ぼくはどうしたらいいの?」

「だから…、ラルにつきあって、ラルのいいようにしてやってくれ。ラルは血院を信じている。それは説明してもらっても、わかるようなことではないのだ。この国に生まれて暮らしていると信じられることがあるのだろう。

 それに山の中と言ったって、ずっと登って行くわけではない。道は険しいだろうが、山を回って行くような感じで、急な登り斜面は少ない。途中では雪が残っている道もあるだろうが、トゥミハラヤ自体は一年を通じて温暖な土地だと聞いている。夏はここよりずっと暑いが、今はここよりも過ごしやすいと思う」

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