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・・・あさーん、おかあさーん!
どうしたの?エレナ。
あのねえ、おとうさんがおかあさんのことすごくすきなんだって。
うまれかわっても、おかあさんといっしょにいたいっていってたよ。
ええ!?それは嬉しいわ!
だからはやくあいたいな。はやくおとうさんとおかあさんにあいたい。
そうね。私も早く会いたいわ。・・・・・・・ん?おとうさんって?
やだなあ、おとうさんだよー、おかあさんのすきなひとでしょ?
・・・誰?
もう、おとうさんはカインでしょ!?
「―――はっ!?」
目が覚めると、部屋は明るくなっていた。
メルダはきょろきょろとあたりを見回す。どうやら夢を見ていたらしい。
「・・・夢か・・・。妙にリアルな夢・・・」
はあ、と大きなため息をついて、メルダは布団から起き上がった。
ここはクルール王国の城下町。メルダはこの町の宿屋の娘である。
メルダは魔王を討伐した勇者グランとは幼馴染だった。メルダは密かにグランの事が好きだったが、グランはこの国の王女と結婚する事になっていた。自分の気持ちも伝えられず落ち込んでいたメルダだが、ある人物に助けられる。
「おはよう、メルダ!また俺の大きな声で起こしてしまったか?」
その人物とは、朝早くに外の掃除をしながら声を張り上げる男、カインである。
「・・・おはよう。今日はちょっと変な夢を見ちゃってね」
カインはグランと共に魔王討伐をした仲間の一人だった。
が、ひょんなことから住み込みで働いている。
「変な夢?なんだ?」
「それは・・・」
メルダはカインをちらりと見る。
・・・言える訳ないじゃん。
カインの夢を見てたなんて。
「どうした?」
「な、なんでもない!」
るりは慌てて目を逸らした。
「変な奴だなぁ、顔真っ赤だぞ?」
そう言うと、メルダの頭をポンポンと軽く叩いた。
カインは背も高く、少しワイルドだけれど外見は申し分ない。もちろんモテないはずはなく、町の女性達にとても人気があった。今日も朝早くからカインと会う為に、宿屋の前を何人かの女性が通っては楽しそうに話をしている。
「おはよう、カイン。今日も精が出るわね」
その女性達の中でも、武器屋の娘であるサリルはどうやら本気でカインの事が好きなようで、毎朝のようにこの宿屋に来ていた。
「おうサリル。なんかいい武器入った?」
「明日入る予定よ。もし良かったら見にいらして?明日は剣を中心に入ってくるはずだから、何かお気に入りのものが見つかるかも」
「いいね、見に行くよ」
カインも戦士として戦っていたからか、サリルとは話が合うようで楽しく会話している。
話に入っていけず、自分の髪を弄っているメルダをサリルはちらっと見る。
「あら、ごめんなさい。メルダさんもいたのね。挨拶もしないでごめんなさいね?」
と少し棘のある言い方をしてきた。少しむっとしてしまう。
「いいえ、別にお構いなく」
メルダはそう言うと宿屋の中へと入った。
なにあれ!
めちゃくちゃ感じ悪い!!!
サリルはこの町では美人と有名で、男性に人気のある女性だった。
メルダよりも2歳若く、知識も豊富。
いたって平均的な顔の大した知識もないメルダとは、えらい違いだ。
「どうしたメルダ。突然中に入って」
カインは慌てたように中に入ってくる。
「お邪魔かと思っていなくなっただけよ」
少しむすくれながらメルダは答えると、受付での仕事の準備をし始める。
「イライラしてんのか?カルシウムは大事だぞ?」
カインはメルダがなぜ怒っているのかわかっていないようだった。
ふんだ!なにさ、この宿の婿になってもいいとか言っておいてさ。
結局男なんて美人に行っちゃうのよね!
カインとサリルが一緒に立っている姿は、絵になるほど様になっている。
メルダはそれがなんとも羨ましくもあり、悔しくもあり。
自分でも困ってしまうほど、心の中は複雑だ。
さてこのクルールの城下町では、毎年お祭りがこの時期に開かれる。
メインのイベントは城から上がる花火。
それを好きな人と見ると、思いが通じて一緒になれるといった定番のジンクスがある。
しかし、メルダの宿屋は毎年そのお祭りに参加する客の対応で忙しく、参加することが出来なかった。
今年も参加できないと、はなから諦めていたのだが・・・。
「メルダ、今年は祭りに参加していいぞ。いっぱい遊んできなさい」
そう言ってくれたのは、父のクルドだ。
「え?だって忙しいでしょう?」
「大丈夫よ、私達でなんとかするから!ね、メルダ、カインを誘って行ってきなさいよ」
と母のイリムが強引に祭りに参加させようとしてくる。
二人の言葉にメルダは何が言いたいのかわかってしまった。
「・・・もしかして、花火をカインと一緒に見て来いと言いたいの?」
「理解が早いね、メルダ。そうだ。花火のジンクスの力で早く一緒になりなさい。彼はこの宿屋の次期店主に相応しい!」
「そうよ~、メルダ。早くカインをお婿さんにしちゃいなさいよ。早く私達の息子になって欲しいわ」
「・・・・」
父と母の暴走にメルダは言葉をなくす。
勝手な事ばかり、言ってるけどさぁ・・・。
私の気持ちだってまだ不確かなのに。
しかもカインだって本当はどう思ってるかわからないじゃん。
メルダは部屋で布団をかぶりながらもんもんとしていた。
自分の気持ちもわからないのに、誘ってもいいの?
誘ったらカインは一緒に来てくれるの?
それで本当に結婚しちゃったら?
ふと朝の夢を思い出す。
"おとうさんがおかあさんのことすごくすきなんだって。
うまれかわっても、おかあさんといっしょにいたいっていってたよ。"
・・・あれは私とカインの子供・・・?
「ああああああ!もう!!!」
勢いよく布団から起き上がった。
ただのジンクスよね!本当にそうなるとは限らないし!!
カインはなんにも知らないんだから、ただ誘えばいいだけよ!
「もう、やけよ!やけ!誘ってやるわよ!」
メルダはそう言うと、カインのいる部屋に向かった。