小さな変化と大きな始まりと
ここから物語が少しばかり加速します。
うん、長かった。
「…で…どうすれば、いいのだろう」
寮の中、自室。
ミントは悩んでいた。
昨日の夜、決意したこと。
――全力で生きる。
「…どう、全力で生きるのだろう」
決して勢いで言ったわけじゃない。
そもそも彼女は勢いで何かをする性格ではない。
数分後、悩んでいた彼女は一つの真理に辿り着く。
「…そっか…『何かやりたいこと見つける』のも、生きることか」
とは言っても、別にこれ一つだけが真理ではない。
真理なんて人によって千差万別。
無限にある。
己の信じたこと、真理・信念を貫けるか、はその人次第である。
「…うん!…行こう、真夜」
自身の心の中を再確認し、唯一の相棒である真夜を呼ぶ。
呼ばれた真夜は、キュッ、と返事を返して何時もの場所である彼女の肩に飛び乗る。
真夜が肩に着地する際に衝撃を吸収するためにさりげなく肩を下げたりしつつ、そのままミントは自室を出た。
★
ゆったりとマイペースな足取りで教室に入ったミントは、自分の席の場所を思い出そうとして、強制的に止められた。
むぎゅ
「だ~れだっ!」
後ろから目隠しされたからである。
衣服越しの肌の感覚からして、女性。
目隠しをするくらいに知り合いの女性は3人
その中で、このようなことをするのは…
「…ネル」
「ありゃ、やっぱりバレた?」
目隠しをした本人――ネルが、笑いながら目を隠していた手を離す。
視界は良好になり、同時にミントは自らの席を思い出す。
「子供か、っつの…」
これも聞きなれた声。もちろんアルトである。
「ぬわぁんですとぉ!もっかいいってみなぁ!」
「ああ!?子供っぽいっつってんだろ!?」
このやり取りももはや慣れたものである。何時ものようにミントは流そうとする。
「ああ!また二人は喧嘩して!止めてください!」
だが、これもまた何時ものこと。カレンが止めに入る。
「アルトが大人ぶってるだけじゃないの!」
「んなわきゃねーだろ!テメーが子供過ぎんだよ馬鹿!」
ネルが何時ものように無茶を言い、
アルトがそれに返す。だが今回はネルの返しが少し違った。
「馬鹿!?馬鹿って言ったね!?これでも入学成績アルトより上なんだよ!」
「んだと!?まさか…カレン、ホントか?」
ミントも、有り得ない。そんな顔でカレンを見る。
だが、カレンは『残念ながら…』と言いたげに首を振りながら、
「……本当です、アルト…」
瞬間、その場の空気、更には周りで立ち聞きしていたクラスメートも全てが凍ったように停止した。
アルトは、信じられない…と言いながら頭を抱えだす。
ただ一人、ネルだけはふんぞり返ってアルトを見下しているが、それすらも頭を抱えたアルトの目には入らない。
その凍った空気を最初に破ったのは、ミントだった。
「…ふふ」
最初は小さく。
「…あはっ!」
それはだんだん大きくなり、
「あははははははっ!」
それはまるで、玩具で遊ぶ子供のように。
最初に興味を持ったことがこんな事とは。更に笑いは止まらなくなる。
その笑いが大分収まってきて、ミントはカレンに話しかける。
「ふふ…ねぇカレン。今の話、詳しく聞いていい…かな?」
「え?うん、いいよ?…あれ、ミント…雰囲気変わった?それともコレが普通?」
昨日と別人のように変わったミントを見てそう質問するカレン。
「…秘密、だよ」
その後、カレンから詳しく話を聞く。
どうやらネルは、実技だけでなく、筆記試験も受けたらしい。
元々筆記も中の下程度あったので、筆記と実技で合わせた平均による結果が出され、それは実技だけのアルトとは差があった。
偶々カレンから話を聞いたネルは、アルトに秘密で受験し、こうして驚かせるために二つ受験したのだという。
といっても、アルトに勝っただけで、成績はさして良くは無い訳だが。
彼女の判断基準の中心にはアルトが既に存在していることに本人は気付いているのだろうか。
「なんだか、アルトには悪いことしちゃったわね…」
そう言いながら話を締めるカレン。
「あはは~アルトのほうがダメで馬鹿だー…ってアレ?アルト?何処行くの!?」
アルトはネルの手を跳ね除けながら体勢を直し、廊下と駆け出す。
「うぉぉぉぉぉ!!!負けてられっかよぉぉぉぉぉぉ!!」そう言いながら教室を飛び出す
そして、
「俺は!勉強するぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そうシャウトした。
そのまま、何処かへ消えていった。
おそらくだが、登校している全生徒に聞こえただろう。
「…言っちゃった…ど、どうしよう。変なスイッチ押しちゃった」
ネルが先ほどとは違い、むしろ引きつった顔でそう言った。
「…まぁ、アルトだから大丈夫か!」
勝手に完結し、そのまま自身の席に戻っていった。
あっけにとられていたミントは、再び笑いそうになる心を抑え、前を向いた。
「…はい、皆さんは、今のアルト君みたいに変なスイッチ…そうですね、『やる気スイッチ』とでもいいましょうか。そのスイッチを入れてしまって叫ぶような人にならないようにしましょうね。それではSHR始めましょうか…」
同じようにドン引きして何時ものノリが何処かに消えうせてしまったジェイ先生がそう言って、静かに『アルト:無断欠席』とその手の中の手帳に書き込んだ。
…まだミントの一日が始まって数時間も経っていないうちに起きた、いわばイベントだった。
だが、これはまだ始まりどころか序章にすらならなかった。
本当の序章は。
「…目障りな奴らめ。消してやろうか。何か良い手段は…ん?」
そしてミントに目が行く
「あいつは最近来た…ミント、とか言ったか…容姿は…かなり良いな…」
そしてミントを嘗め回すが如く見つめる男。
名前をフォルデ・コル・ギルバスと言う。
彼はそのまま、誰にも聞こえない声で呟き続ける。
「どうやら平民のようだし、第一位貴族である私を差し置いて、とでも言えば従うだろう。」
そのままニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「名目上、決闘によるやり取りをしなくてはならないが…まぁ、友人らしいあの3人のうち一人でも誘拐して脅せば簡単だろう。くく…」
そして彼は近くにいた手下を呼び寄せる。
そのまま何かを指示すると、教室を出て行った。
…これこそが、本当の序章である。
キミの!やる気スイッチ~♪
何か思い出したのでネタ化。おかげで本題がちょっとしか書けなかった。
フォルデはただのロリコンと思っていいです。
追記:指摘があったのでとある文を削除。
でも相変わらずのロリコンっぷり。・・・といっても軽めの症状なので放置しても大丈夫でしょう。とは医者の診断。
そのつもりだったのに。だったのにぃいぃぃぃ!!!