そう、ここは学園。
Q.名前が何故DQNネームなのか。
A.作者が打ち込みやすいから
人、時にこれを御都合主義万歳と叫ぶ。
テルト・フェアル学園。
それが今、眠人の前に見える巨大な建物の名前である。
かなりの高さはあるようで、霧で上の階層は見えなくなっている。
よく見ると、彼が先ほどくぐった門にもしっかり『テルト・フェアル』とある。
この学園の持つ目標は『あらゆる戦場において多大なる戦果を挙げる学園兵の育成』である。
そもそもこの学園の歴史はまだまだ浅く、出来てからまだ7年である。
フェアル王国が運営するこの学園は、10年前から始まる、ギリーズ帝国との戦争の最中に作られた。
…ここまで話せば分かるのだが。
ここは、完璧に地球ではなかった。
さて、そんな事情を一切知らない眠人はというと。
門を無事に抜け、綺麗に舗装された石畳の道路を進み、真っ直ぐに進んでいた。
まだ半分は寝ているであろう彼の単純な脳の中には、『いつか目的地に着くだろう』そんな発想しかなかった
もちろん、そんな単純な発想でたどり着けるはずもなく。
しかも学園は兵を育成する場所、しっかり警戒がある。
「そこのお前!止まれっ!!」
いきなり目の前にまるで瞬間移動をしたかのように人が現れる。
軽装ではあるが鎧を身に纏い、手にはハルバードを持ち、眠人に向けている。
ヘルメットで顔は見えないが、声色から男と判断する。
「…ん」
だが、コレくらいでは彼は全く動じない。
むしろそれが当たり前のように受け止め、素直に止まる。
「隊とレベル、名前を名乗れ!」
ここでいう隊とは、学園に5つある兵科のようなモノのことで、レベルとは、その隊での自身のランクである。
その質問に対し、彼は答える。
「…えと、×××高校の……3年、来栖眠人。入学しに来た。」
「…は?」
その質問と、用件を聞いた男は、その内容の意味不明さに、思わず聞き返す。
しかし返答もまた男にとっておかしなものだった。
「…眠い」
「…え」
だが、眠人は眠くなってきており、答えない。
それもそのはず、彼は数時間に及び歩き続け、ここまで来たのだ。
それが普通の人間ならばここまで眠くなることも無いが、彼は『眠り姫』である。
既に寝る準備は完璧である。後は寝るだけ。
「じゃ、じゃあ…」男は慌てだす。
「………すぅ…」
だが眠人は立ったまま眠る。もたれる壁や柱はここに無い。
すなわち――――
バタ、と彼はそのまま地面に倒れる。
「――って、おい!大丈夫か!」
男は慌てて持っていたハルバードを下ろし、ベルトの左側にある立方体のキューブのような物を取り出す。
そのキューブの表面をトトンと指で押し、耳に当てる。
『こちら通信科。どうぞ。』
キューブから声が聞こえる。
「こちらホワイトイーグル隊、レベル『ライト・ナイト』のティールだ!侵入者が突然倒れた!とりあえず支援兵科衛生種を呼んでくれ!」
男は用件を端的に伝える。
『…侵入者が倒れた?だとしても何故手当てが必要なのだ?』
しかし、答えは遠まわしのノー。
だが、男は食い下がる。
「侵入者だがまだ目的が分からんだろう!とりあえず保護して話だけでも聞いてみなくては!」
直後のため息を付く声からしばらく後、返事が返ってくる
『了解、近くの人間を手配した。教師からはとりあえずソイツには手錠を掛けておけ、とのことだ。』
「ありがたい。」
了承の許可を貰い、男は安堵する。だが…
「…にしてもコイツ、どっから入ってきたんだ……魔法結界が壊れていたわけじゃなさそうだし…」
そう呟き、ため息を零した。
★
目が覚めた眠人の視界に入ったのは、知らない天井。
知っていても意味は無い。
睡眠に慣れた彼の感覚が、今が最高のコンディションであると告げる。
頭の感覚は、目覚めたばかりながらもスッキリと冴えている……ような気がする。
かなり長いこと寝ていたようだ、そうでもないとここまで調子は良くは無い。
今寝ている場所は先ほどの石畳の道の上ではなく、少し硬いが気にならないレベルのベッドの上だということも気づく。
「おや、や~っと目が覚めたのかい?」
自身の感覚を確かめていた眠人に、軽い口調の声がかかる。
いつもなら眠くてスルーしてしまうが、今はそんなことは無い。彼はゆっくりと声の主の方向を向いた。
「まさか、完璧に寝ているとはね…持病かマナに当てられたか、そう思っていたよ。この衛生医のカルマ、一生の不覚と言っていいね。」
呆れているような声でこちらに話しかけているのは、30代後半くらいのぼさぼさな髪があらゆる方向に跳ねているのが特徴の、だがそれでいて違和感が無い男だった。
「あの、あなたは……」
眠くなって意識を落としたところまでは覚えている。
そして今、ベッドの上と言う事は、誰かがここに運んできてくれたという事。
問いかけた後、そのことに気付き、まずは礼を言う事にする。
「えと、ここまで運んできてくれた……んですよね?ありがとうございます。」
その言葉にカルマは嬉しそうな顔をし、そして話をする。
「あー、確かに運んできたのは俺だけれども、そもそも俺を呼んだのはティール君だよ。侵入者だが保護しなくては、なんて言ってたのは彼だし。あ、ティールってのはキミが倒れる前に話してた人ね。」
いやまあ、俺もしっかり仕事したから感謝されて当然なんだけどね、等と独り言のように語り始めたカルマ。
ガラッ!
突然、扉が開く音が聞こえた直後、誰かが入ってくる音が聞こえた。
「カルマ、その子の様子はどう……目が覚めたのか!」
「ああ、さっきね。ほら、この人が助けてくれたティール君だよ。」
入ってきた人は、確かにあのときのハルバードの男だった。
その男に対し、「ありがとう、ございます」と言う。
「え、あ、ああ。ティール・バートだ。大丈夫なのか?」
ティールが質問した内容に、カルマが眠人の代わりに答える。
「ああ、ただの睡眠不足だったよ。…丸一日も眠るなんて、一体どれくらい時間を掛けてここまで来たんだろうね。」
実際には数時間程度だが、眠人の一日の睡眠時間は基本的に30時間。それも、5時間寝て一時間過ごす、というもののため、何時間も歩き続ければ睡眠の時間はどんどん増えていくのだろう。
「それで、キミの名前は?」とカルマが言う。
「…来栖、眠人。」
「クルス・ミント?ミントなんて苗字あったかな?」カルマの疑問の声。
「…違う、来栖が苗字で、眠人が名前。」
だとしても、とティールが続けた
「だが、そんな苗字も無かったはずだ。失礼かもしれないが、キミの出身を聞いても?」
「日本の、東京」
その言葉を聴いて、尚更彼らは困惑する。
「そんな名前の国なんて、あったか…?」
「いや、無かったはずだよ………ん?もしかして……クルス君、マナとかフェアル王国とかギリーズ帝国とか、聞き覚えはある?」
「…?なに、それ。」
「やっぱり………ティール、彼女は異界の旅人だよ…」
「な!まさか…いやでも、有り得るか……?」
そんな会話を続ける。眠人は途中からあまり聞いていないが、ある言葉だけは不思議と良く聞こえていた。
「あの……僕、男…だよ?」
疑問系ではあるが、真実だった。
…少なくとも、彼にとっては。
フル編集完了。
さあ。何時になるかな。学園入学。
ティール君がホワイトイーグル隊所属になり、レベルも
ライト・ナイトに。
改訂内容の主はこれくらい。