第2話
銀行の預金残高が上限いっぱいになっていることには驚きを通り越してただあきれた。海の水と同量の黄金を所有すると言うのはこういうことか。
笑いをこらえつつこれからどうしようか考えながら通帳をしまってから部屋を出て、居間でテレビを見ると根本慎二と言う男がC半島10か所に従軍慰安婦への謝罪の像を建てており、最後の一つの像の除幕式が行われると言うニュースが流れている。
彼は除幕式をするたびにK国語でそのことを詫びながら土下座すると言うことで多くのK国人が見物に来ていたが除幕式が行われても彼は土下座をする様子はない。
どういうことかと辺りがざわめきだしたとき、根本は口を開いた。
「反日教育と貧困。それにより負の感情を極限まで高めた哀れな半島人よ。その念を魔王クリフォトに捧げよ」
「ブルギット・ザルート!!」
恵美が急にそう叫び、そちらに意識をやると妹はかつてない程の憎悪を表情にたたえていた。
「やられた。想定できることだったのに」
どういうことかと再びテレビに目をやるとあれだけいたK国人が大量の衣服を残して消え去っているじゃないか。
一体何があったんだろう。その場にいるのは根本慎二と言う日本人とマスコミだけだ。
「あの像が魔王を召喚するための魔法陣だったなんて」
魔法陣って幾何学模様の図形のことだろうか。
違う。セフィロトの樹を反転させたクリフォトの樹を再現できればそれは図形でも像でも構わない。
魂に宿ったセフィロトの樹が俺にそう教えてくれるのが解る。
「魔王が降り立ちますね」
曇天から現れたそれは巨人。その顔はあまりにもいかめしく全身に無数の人間の顔が浮かび怨嗟の声を上げている。でもなんで根本とマスコミは平気なんだ。
「日本人だからでしょ。彼らには反日教育も貧困も対岸の火事だもの」
それもそうか。とは言え現場は混乱しているようだ。
だがどこの局のカメラマンも少しでも長く巨人を映そうと躍起になっているのが解る。
あ、一人の女性キャスターが根本って日本人のところにインタビューに行った。勇気あるなあ。
「これは一体どういうことなんでしょうか。あの大勢のK国人たちは一体どこへ……」
「決まっているだろう。魔王の腹の中だ。表面に出ている者もいるがな」
と言うことは魔王の体に浮かんでいる顔は取り込まれたK国人たちのそれか。
すると巨人は口から蒼い光を放ち町を破壊していく。
「……どうなってるんだ。一体」
状況の理解はできる。だか現実と認めたくはない。
「ネットは大盛り上がりです」
御厨はそう言って自分のスマホを見せてくれた。2ちゃ○ねるを見ていたらしい。
K国終了のお知らせとか根本を賛美するAAもいっぱい書き込まれていた。ネットって本当に嫌Kが多いんだなあ。
それを見た恵美は日本もただごとじゃすまないって言うのにと頭を抱えている。
御厨はと言えば。
「今から私とC半島へ行くことキボンヌ。神が現れていない今なら何とかなるかも知れません」
とか相変わらずの無表情でそんなことを言ってきた。その言葉は俺のコンプレックスだからやめろ。それより恵美、あの男をブルギット・ザルートと呼んでいたが何者か知っているのかと聞くと話したくないの一点張りだ。
「体裁を取り繕ってる場合じゃありませんよ。フィーア・アリオン」
「あなた。何でそれを」
「私はサン・ジェルマン卿の従者でしたから」
それを聞くとメグミはそう言われれば見覚えがある気がすると呟いた。
すまん。俺にも分かるように説明してくれ。
「ま。それはおいおいということで。それより行きますよ、キボーさん!恵美さん!」
「まれもちだ!」
山本希望。それが俺の名前。親は女の子が欲しくてメグミとノゾミと言う名前を考えてたから男が生まれ、慌ててこの名前を考えたらしい。男女両方を想定してほしかったよ。
「兄貴はその名前のせいでキボンヌだの餅はまれにしか食えないだのと散々いじられてきてるから名前をいじるのはその辺にしてあげて」
妹よ。その言葉はありがたいけど嫌なこと思い出させんなよ。
「分かりました。じゃあ行きますよ。出来れば神が降臨する前に魔王を仕留めないと大変なことになります」
俺は恵美と頷き合うとC半島へ向かって飛び立った。
てゆうか俺もお前も道具使わずに飛べるんだな。それを常識としてとらえている自分に軽くひくぞ。