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第14話

放課後。俺は気配を辺りに同化させて物陰にひそみ、アーサーが体育館の裏に行くと黒髪で前髪をぱっつんにしている可愛らしい雰囲気を持っている少女が既に一人で待っていた。


「ええっと……この手紙をくれたのは、君でいいのかな?」


「はい。その手紙を出したのは、愛子です」


一人称が自分の名前っていうのは、マイナスポイントだな。


「あの……愛子は、アーサーさんのことが好きです!お付き合いして下さい!!」


そう言って、ぺこりと頭を下げる桜井にアーサーは戸惑いの表情を見せている。どうして自分を好きになったのか分からないということらしい。そうだな。はっきり言って、俺にも分からん。


彼女の話によると、去年しつこい男に絡まれていたところを助けてもらい、いろんな友達と仲良くしている様を見て憧れに近い感情を抱いたんだとか。アーサーがバカなのは承知の上だというのなら、俺には言うべきことはない。最早監視する必要もないことだし、帰るとするか。辺りと気配を同化させながらこの場を離れようとしたとき、妙な気配がした。


「アーサー!あんた何やって……」


邪魔しようとジークリットが走り寄ってきたため、バムアに止めさせようとするも奴の塗り壁に阻まれた。

アーサーのファミリアであるアイリーンとか言うウンディーネは言うと、熊に取り押さえられている。

誰のファミリアだ、あれ?


それは考えるまでもなく、桜井のファミリアだった。その証拠に彼女は、アーサーに口づけをしているのだ。

すまない。展開が全く分からないのだが。


「やっぱり、英雄を増やすのが目的だったんですね」


初音はそう言ってバールを彼女に振り下ろすも、桜井はアーサーを殴ろうとしていたジークリットの体を盾にして防御。アーサーは、魂の変性を迎えるため眠りについたようだ。


「アーサー君が好きなのは、本当だよ。それに、アーサー君が英雄に変性すればアーサー王になるかもしれないでしょ」


その理屈で言えば、俺は鬼一法眼きいちほうげんになるはずだが何でミダース王なんだろうな。


「賢者の石である私と、英雄に覚醒したまれまれを敵に回すつもりですか?桜井さん」


「まさか。私を、根本なんかと一緒にしないで」


英雄は不老不死だから、好きな男の子を不老不死にしただけだと彼女は言う。

成程。要は、初音の同類か。


「自分の都合で他人を不老不死にするなんて、自分勝手にも程があるわ」


お前にその言葉を言う資格はねえぞ、初音。


「初音。お前、自分の胸に手を当てて今のセリフをもう一度言ってみろ」


「まれまれのえっち」


「そうじゃねえ!!一人だけ不老不死なのは寂しいから相方が欲しいって理由で、俺を不老不死にしたのはどこのどいつだ。たわけ!」


「ふうん。そういうこと」


そう言うと、桜井は俺と初音の後頭部をつかみ俺たちの唇を合わせた。

初音の体温が俺の唇を通して伝わっていく。そして彼女は眠りについた。


「初音さんをそのままにしておくつもりなのかな?」


完全体になった以上、風邪にはかからないんだろうが放っておけば後がうるさそうだし、何より物騒だ。桜井はアーサーをお姫様抱っこして保健室に運ぶようだな。俺もそうすることにするか。

俺は初音を肩に担ぐと保健室へ向かった。


後で聞いた話だが、ジークリットはヴィクトリアが回復魔法をかけて直したそうだ。


【初音視点】


夢を見ている。

兄たちは八神上売やがみひめに求婚するため、俺に国を譲った挙句に俺に荷物を持たせて従者のように稲羽にまで付き従わせていた時のこと。泣き伏している赤裸のウサギがふと目に留まった。


ウサギは島からこの地に渡ろうとするも渡る手段がなかったので、和邇わにざめを欺いて『私とあなたたち一族とを比べて、どちらが同族が多いか数えよう。できるだけ同族を集めてきて、この島から気多の前まで並んでおくれ。私がその上を踏んで走りながら数えて渡ろう』と誘ったそうだ。すると、欺かれた和邇は列をなし、私はその上を踏んで数えるふりをしながら渡ってきて今にも地に下りようとしたときに、ウサギは『お前たちは欺されたのさ』と言ったらしい。それで最後の和邇は、たちまちウサギを捕えてすっかり毛をはいだのだとか。それで泣き喚いていたところ、先に行った八十神たちが『海で塩水を浴びて、風に当たって伏していなさい』と教えたのでそうしたところ、この身はたちまち傷ついてしまったのです」と事の顛末を話してくれた。兄たちも全く酷いことをする。


俺はため息を吐くとウサギに、「今すぐ水門へ行き、真水で体を洗い、その水門のがまの穂を取って敷き散らして、その上を転がって花粉を着ければ、皮膚は元の様に戻り、必ず癒えるだろう」と教えると、それに従ったウサギは見事に回復した。


ウサギが言うことには、八神上売は兄たちには絶対なびかないと言う。その言葉は真実であり、彼女は兄たちを振るとよりにもよって俺に彼女が求愛してきたものだから兄たちが怒るのなんの。赤い猪を山から一斉に下に降ろすからお前はそれを受け止めてくれと言われ、兄たちにより猪に似た大きな石に火を着けたものの直撃を食らい俺はまかり果てた。


「おお、オオナムヂ。死んでしまうとは……」


母が高天原に上り、カミムスビに陳情し、生き返るも再び兄たちに殺害され、母の手により再び生き返るもこのままでは兄たちに殺されると彼らの下を離れ逃げ延びた先はスサノオがいる根の国。


「何だ、ただの醜男しこをじゃないか。これからは葦原色許男神あしはらしこをとでも名乗るがいい。蛇の室にでも入れておけ」


素戔嗚すさのおの娘、須勢理毘売命すせりびめには惚れられたものの彼にはあっさりとあしらわれ、俺は蛇がうじゃうじゃいる部屋に入れられた。須勢理毘売命の協力もあり蛇にかみつかれずに済んだものの、次の夜にあてがわれた部屋はムカデと蜂だらけ。これも彼女の助けによりつつがなく抜けられたものの、その次の日は草原に火を放たれ、頭のシラミを取ってくれと言いつつもそれがムカデだったりとはっきり言ってしんどい。彼が眠りについたことをいいことに、彼の髪を家の柱に縛り付けると大きな石でその入り口をふさいだ。素戔嗚の大刀と弓矢、須勢理毘売命の琴を持ち、須勢理毘売命を背負って逃げ出そうとした時、琴が木に触れて鳴り響いた。その音で素戔嗚は目を覚ますも髪が結びつけられていた柱を引き倒してしまい、素戔嗚が柱から髪を解く間に逃げることができた。素戔嗚の言葉を耳にしながら。


「お前が持つ大刀と弓矢で、従わない八十神を追い払え。そして、お前が大国主か宇都志国玉神ウツシクニタマになって、須勢理毘売命を妻として立派な宮殿を建てて住みやがれ。この野郎!」


【初音視点 了】

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