第13話
【フィオナ視点】
根本は、借りてきた猫のように大人しくしている。最早、抵抗する気はないらしい。私が山本君のうっかりにより、英雄として完全に変性している時点で人間に戻った彼に抵抗するすべがないのは確かなのだけれど。
根本のPCのハードドライブとスマホのマイクロSDをフォーマットし、他にバックアップがないか確認して一件落着となった。でも、彼は数日もしないうちに自主退学し、隣の県に単身で引っ越すのだけれどそれは仕方ないでしょう。彼が校内にいたら、被害者の精神的負担は言いようのないものになってしまう。寝てることをいいことに、手を出していないか問い詰めたところ「子供ができたら面倒だから写真しか撮っていない」とのこと。証拠はない以上それを信じるしかないけど、どれくらい信じられる言葉なのかは同性の山本君に聞いた方がよさそうね。
【フィオナ視点 了】
「ふむ」
根本騒動の翌日。アーサー・ラックスウェルが、相談に乗ってほしいと俺に声をかけてきた。女子に囲まれてるせいかリア充扱いされて男子との間に溝ができている感がある俺にとって頼られると言うのは悪い気分じゃない。
「僕の下足箱にラブレターが入っていたんだけど、本気かそれともからかっているのか判断がつかなくて……」
成程な。手紙の主が適当な男子にラブレターを出して、待ちぼうけを食らっているのを見て笑いものにしようとしていると言う可能性は確かにあるだろう。何しろこちらは、相手がどんな人物か全く把握してはいないのだ。そこで、アーサーに手紙を見せてもらうと俺は眉間にしわを寄せた。
『ぁぃこゎ、ァーサーさんを一目で見て、こぃしちゃぃました。ぁは♡ぁぃことつきぁってくれないと、ゃだ。なぃちゃうかも。ほぉかご、たぃぃくかんのぅらで舞ってます。ぁぃこゎ、みんなにゃさしぃってゅわれるし、短所なんか、ぁぃこにゎなぃからぁんしんだょ。1年C組。桜井ぁぃこ』
ただのバカか、からかってるのか。どっち道、行かない方がいい気がするのは俺だけか?小学生ならともかく高校生にもなって一人称が名前とか明らかにバカだろ。俺がそう言うと、外国帰りで日本語が苦手なのかもしれないときた。その可能性はなくはないが、男とか女以前に自分で短所なんかないって言う人間にろくな奴はいないと断言できる。
「まれまれ、何見てるの?」
「あー。女子の意見も聞きたい」
初音の他に、恵美、カーミラ、鈴奈、ヴィクトリア、明日香とフィオナ会長と意見を聞くには……って何で会長もいるんだ。
「なあに、それ?」
「アーサーの下足箱に女子からのラブレターが入っていたんだが、本気か罠か見分けがつかん。本気だとしても断った方がいいのは確かだが、トラップだと目も当てられないから無視して帰るのが安全策だが……」
「本気だった場合、その子は待ちぼうけを食うことになるよね」
「いや、普通に行きなさいよ」
そうは言うがな、ヴィクトリア。この手紙を見て、同じことが言えるのか?お前。
「どれどれ」
初音は俺の持っていた手紙をかすめ取ると、目を通してから眉間を抑えた。
な?そうなるだろ。
女子が全員でその手紙を回し読みした結論は取りあえず行けとのこと。
万が一の時のために俺たちが事前に隠れて見張ることと、アーサーが桜井とかいう女を待つ時間は30分ぐらいでいいだろうと言うことで結論に達した。
「頭悪い文章だけど、受け入れるにせよ断るにせよ誠意で対応しなきゃ駄目よ。からかうような相手なら、この場にいる女子全員でしばき倒すから」
例えそうなっても初音、カーミラ、恵美は手を出すな。相手が死ぬ。それはさておき、何で会長がこいつらと一緒にいるのかと言うと、根本が転校手続きを取ったと言う報告と生徒会選挙に立候補しないかと言う勧誘だそうだ。生徒会の女子メンバーと根本にだまされた女達は、事情があったとは言え一般生徒を襲ったことで生徒との軽い軋轢が生じている。それを解消するために自宅謹慎や掃除を自主的に引き受けているのだと言う。そこで、根本を取り押さえた俺が生徒会に入ることで信頼を取り戻したいと言う目論見があるんだとか。確かに妥当ではある。問題は当選したら俺は雑務処理に追われることになること。要はめんどいのだ。
「大丈夫。ハーレムの皆さんの許可もとったわ」
「ハーレムってなんだよ!?」
俺は別にこいつらを囲ってるんじゃなくて、こいつらが寄ってくるだけだ。フィオナは「ハーレムと言えば……」と涼しい顔で話題を変える始末。女を本気で殴りたいと思ったのは、お前で2人目だよ。最初の一人は長谷川な。
「根本が「子供ができたら面倒だから写真しか撮ってない」って言ったんだけど、これって男の人からすると信用できる言葉なの?」
「知るか。同じ性別でも人間性とかいろいろ違うだろ。ただ、ある程度の誠実さはあるとは思うがな」
面倒ということは、子供ができたらある程度責任を取らなければいけないと考えているだろうと推測できる。これがもし「厄介」だったらどうやって子供を堕ろさせるかとか相手の親に絡まれたら何だのとマイナス方向でしか考えていないことになるからな。もっとも、これだって俺の価値観でしかなく根本からすれば全く別の発想になる可能性があるのは言うまでもない。俺がそう説明すると、フィオナは納得はしていないものの理解はしているようだった。
取りあえず作戦会議はここまでにして、アーサーを含めた皆で昼食をとることにした。
「さ、食べてくれ。今回、鈴奈は一切何も作ってない」
そいつは何よりだ。ヴィクトリアも、あからさまにほっとした顔をしてるしな。




