不完全なアンドロイド
初のオリジナル作品です。拙い部分ばかりですが読んでいただけたら嬉しいです。ボーズラブタグを付けましたが恋愛要素があまりありません。
生まれた時から空は水銀みたいな銀色だった。
昔はこの空が青かったと言うのだからなんとも不思議な気分になる。
昔は雨の降る前にしかこんな空の色にはならなかったらしい。
けれど今は雨など降らなくてもずっとこの空模様だ。
(俺はきっと死ぬまで青い空なんて見れないんだろうな)
ギルトは自室の窓から空を仰ぎぼんやりとそう思った。
部屋の白い壁にかかる青い空の写真。その空と今頭上に広がる空が同じものだなんてとても思えない。
瞬間、フラッシュを焚いたように空が光る。
銀色の分厚い雲の隙間から低くごろごろと唸るような音がした。
(雨が降る)
早く仕事を済ませなければとギルトは石造りの道を歩きだした。
鼻と口を空気から遮断するガスマスク着け、カーキーのジャケットのパーカーを深々と被る。
汚染された星。
あらゆる毒素をその身に沁み込ませたこの星の空気は人には有害なものだった。
多分、人は二度とこの星の空気を直接肺に入れることはできないだろう。
吸ったらたちまち肺が溶けて死んでしまう。
(不便な時代になったもんだ)
むしろ、便利な時代と言うべきなのだろうか。
毒の大地に空気に水。
多くの種が途絶え、絶滅し、それでもこんな状況下でもしぶとく生き続けている人は滅ぶことなどないのかもしれない。
無様に這いつくばってでも、この星がある限り人は生き続けそうだ。
――星の命を削りながら。
厚手の革の手袋をして、鏡の前に立った自分は人と言うより怪物のようだった。
人の原型が無さすぎる。
それでもこうでもしなくては生きていけない。
呼吸さえできないのだ。
(滑稽だ)
ギルトは自嘲して、重たい革のブーツを履いて外にでた。
石田畳の道を靴底で叩きながら歩く。
道行く人もまたギルトと同じようにガスマスクを漬け、フードを深く被っている。
大人も子供も男も女も色味のない地味な、この空の色と合わせたようなくすんだ色を着ていた。
色がない。
そう、色が許されていない。
誰が駄目だと言ったわけではないけれど、みんな、ギルトだって、華やかな色を身に着けることをなんとなくためらっている。
右に倣えで誰もが無個性な世界。
色の乏しいこの世界で、唯一華やかなものがある。
電車に乗り、バスに乗って、ギルトがたどり着いたのはアンドロイドの工場だった。
この時代、人は動きにくい。
こんな重装備をしなければ歩くことさえままならないのだ。
そこで開発されたのが人型アンドロイドだ。
アンドロイドはロボット工学三原則にのっとり人の為に働く今の時代には無くてはならない道具だった。
その生産工場の取材が今日のギルトの仕事だった。
工場を取材し、製品が出来上がるまでを見学して、アンドロイドの宣伝レビューを書く。
ギルトはフリーのライターだった。
そういう商品のレビューからスポーツの記事、政治、株、戦場カメラマン、興味と報酬があればギルトはなんでもやった。
まぁ、スポーツも戦争もこの時代は全てアンドロイドによって行われているから、今回の仕事はギルトの得意分野と言えなくもない。
今回の工場は戦闘用アンドロイドの生産工場。
軍にも納品してるという高性能なアンドロイドの工場だ。
(俺、楽しみなのかな)
工場に着き、部屋に通される。
少し待つように言われ通された白く四角い簡素な部屋。
椅子とテーブルだけのその空間で、ギルトは自分の心臓が心なしか高鳴るのを感じていた。
娯楽の少ない世界だ。
人は死んだように食べて、寝て、セックスをする。
酒を飲んでも、美味いものを食べても、外を見れば毒だらけのこの世界。
種の保存のため生まれた時から子を作る相手は決められて、人口も国よって管理されている。
スポーツも戦争もアンドロイド任せ。
なんの面白さもないこの世界で、ギルトにとってこの仕事は少ない娯楽のようなものだった。
好奇心を埋めるのはいつだって気持ちがいい。
探究心は時間を忘れさせてくれる。
そう、この世界の現状さえ束の間忘れることができる。
軍にも納品してるようなアンドロイドの性能はどれほどのものなのか。
どうやって彼らは人の形になっていき、そのプログラムはどう組まれているのか。
ギルトはとても興味があった。
だが、
「お待たせしました」
そう言って出てきたの眼鏡をかけた冷やかな目をした男だった。
黒い髪の毛をオールバックに黒いスーツを着ている。
身長は177あるギルトより少し高いだろうか。
男は言う。
「この度はこのような場所にわざわざお越し下さりありがとうございます」
こいつこそアンドロイドなんじゃないかと思いたくなるぐらい冷たい抑揚のない声だった。
「それでは、これが我が社のアンドロイドの設計図です。そして主な機能ですね」
そう言って渡されたのは数枚の白い紙だった。
「あの、これは?」
戸惑うギルトのことなど見えてもいないかのように男は立ち上がる。
「以上です」
ちょっと待って欲しい。
こんな取扱い説明書のような紙切れじゃ何も分からない。
工場を見て、インタビューをして
「ちょ、待ってください!こんなんじゃ!」
そう言ってギルトが立ち上がった時だった、男はくるりと振り返り。
「それで十分です。分かっていますか?うちは国にもアンドロイドを入荷してるんですよ?国家機密に 関わることを教えるわけないじゃないじゃないですか?宣伝用のレビューならその紙に書いてあることで事足りる筈です。では、私は仕事があるので失礼させていただきます」
今度こそ部屋の中にギルトを一人残し男は部屋を出ていった。
全く持ってついてない。
せっかく久しぶりに興味の向く仕事が来たと思ったらこんな有様だ。
もらった資料は設計図と言うより本当に取扱い説明書だ。
こんなものでは何も分かりはしない。
ギルトは知りたいのだ。
彼らがどのように生まれ、どのように思い。
どうやって生きていくのか。
人の身代わり。
可哀想な人形。
空から黒い雨が降っていた。
(やっぱり降っちまった)
傘は持ってこなかった。
そもそも、ギルトの計算では今頃工場見学をしてるところだ。
全てを終え、帰る頃には雨が止んでいるそういう予定だったのに
(困ったな…濡れて帰るのは面倒なんだが)
この黒い雨に濡れてしまった衣類は捨てるしかない。
汚染された水。
毒を含んだ黒い雨。
「君、どうしたんだい?」
工場の出入り口の前、茫然と立ち尽くすギルトの背後から軽やかな柔らかい声が聞こえた。
振り返るとそこには人がいた。
白い髪に青い瞳。
白い髪の毛先は鮮やかに赤が入っていて、身体を拘束するように腰や胸、手に金具のついた黒いエナメ ルの服をきていた。
象げ色の肌、顔は整っていてとても綺麗な顔立ちだ。
長身でバランスのとれた長い手足、キレイな人の形。
どこにも欠陥のない。
(アンドロイドだ)
反射的にそう思った。
この、色の乏しい世界に唯一華やかなもの。
アンドロイドは軍事用、家庭用含めて派手な外見なものが多い。
アニメから出たような本来の人間ではありえない髪の色や目の色、自分達の失った色を変わりにい塗りつけるかのように華やかに艶やかにそれは作られた。
男性型のアンドロイドは悠然と歩いてギルトの傍まで来る。
美しいアンドロイドだった。
彼ら、彼女らの外見は余程のマニアでもない限り整った形で作られるが、それにしても目の前のアンドロイドは美しかった。
今迄見てきた人形達とこのアンドロイドには決定的な違いがあるような気がした。
「あの、雨が……」
その違いがなんなのかよく分からないまま、固まった口からようやくそれだけの言葉をギルトは吐き出した。
「ああ、外から来た人かい?これじゃあ帰れないね」
アンドロイドは黒い雨を見ながらまるで人間のように落胆し、人間のように顔を顰めてみせた。
(ああ、人間みたいなのか)
その表情を見てようやく他の人形と彼との違いにギルトは気が付いた。
そう彼はまるで人間のようだった。
「おいで、雨宿りをしていくといい」
そう言ってアンドロイドはギルトの手を引いて歩き出す。
「えっ、ちょっ!見つかったら!」
用事は終わったというのにいつまでも工場に居たら何をされるか分からない。
あの様子なら殺されたって文句は言えないかもしれない。
そうここには確実に国家機密が詰まっている。
「大丈夫だよ」
アンドロイドが笑う。
本当に自然に、人間のように、もしかしたら人間より綺麗に。
「僕しかしらない秘密の隠れ家があるんだ」
クスクスと笑いながら、彼はギルトの手を引いて歩いていく。
繋いだ手は指はやはり金属の冷たさがあったけれど、不思議と暖かく感じたのは自分の熱がうつったからだろうか。
そうやって連れて来られたのは倉庫のような場所だった。
「ここはね。僕らのお墓だよ」
彼が持っていた手持ちのライトを付けると辺りに浮かび上がったのは
「ひぃっ!」
手が
頭が
足が
身体が
目玉が
転がっている。
山のように盛られた人の身体のパーツ。
「ほら、人はそういう反応をするから、ここにはあまり人は来ないんだ」
よく見ればそれらの切断部分には金属のチップや線が覗いていて、生きていた匂いがしない。
金属のガラクタそう思えば、なんてことはないけれどそれでも一人でここに居るのは少し不気味で嫌だと思った。
「慣れてもみんな嫌みたいで、たまに捨てにここに人が来るけど奥までくる人間は早々いないんだ」
歩く度に金属の崩れる音がする。
アンドロイドはギルトの手を引いたままこんもりと山になったそ山の影まで来るとそこに膝を抱えて座り込んだ。
「ここなら死角になるから扉がもし開いても気が付かれない」
子供のように無邪気に笑うこのアンドロイドにギルトは酷く興味が引かれた。
「――少し、話を聞いてもいいかな?」
家に帰り付いた時にはすっかり日が暮れていた。
日が暮れたところで厚い雲に覆われているから、キレイな夕焼けなんてない。
ただ空の色が暗くなるだけだった。
結局、あのアンドロイドの話を聞くつもりでいたのに話したのはギルトの方だった。
外の話、人の話、この星の話。
なかでもアンドロイドは空の話に興味を示した。
空が本当は青いこと、この分厚い雲を抜ければそこには青い空があるということ。
教えてやると子供のように無邪気に喜んでいた。
(本当に青いかなんてもう分からないけど)
ギルトの部屋にかかる一枚の青い空の写真、それはギルトの9つ離れた兄がとったものだった。
ギルトの兄はパイロットだった。
軍の飛行機乗りで軍人だった。
軍人と言っても、今は戦争のほとんどをアンドロイドがやるから、輸送などが主で戦場に立っていたわけではない。
16の頃から飛行機に乗っていた兄はギルトに雲の向こうに青い美しい空があるのだと語ってきかせられた。
そんな兄もギルトが13の時に飛行機に乗ったまま行方不明になり今でもその消息は掴めないままなのだけれど。
『いつか兄ちゃんが空の上まで連れてってやるからな!』
そう息巻いていた兄は今はもういない。
元々兄弟二人暮らしだったギルトは兄がいなくなってからは軍から少ない施しを受けて今まで生きてきた。
軍人になるように、そう言われたけれどギルトは固くそれを拒んだ。
兄と同じものになる気はない。
兄だって好きで軍に入ったわけではないのだ。
幼い弟のために軍人になり金をもらっていた。
守りたいものがあるわけでもない自分がそんなものになれるはずなかった。
成人し、自分で自分の金を稼ぐ方法を見つけるだけだから今の自分は当時の兄よりは楽なものだ。
その代わりに
「俺はもう二度と死ぬまで青い空が見れない」
憧れた青は、一生この目で見ることができない。
だって連れて行ってくれると言っていた兄はいない。
自分も飛行機なんて乗る気もない。
ギルトはこの毒の大地に這いつくばって生きていくしかないのだ。
翌日、ギルトは再び工場へと向かった。
あのアンドロイドとまた話してみたいと思ったからだ。
工場の敷地に入り、昨日アンドロイドに連れていかれたあの倉庫に向かう。
やはり、一瞬だけぞくりとしていい気分はしないけれどライトでてらし山の影、入口から死角になる場所に行くと
「やあ、また会ったね」
あのアンドロイドがいた。
「今日はどうしたんだい?」
アンドロイドは相変わらず綺麗な笑顔を浮かべて笑っていた。
「昨日は結局、俺の話ばっかりだったから君の話を聞きたくて」
ギルトが言うとアンドロイドは少し驚きそれから自分の横に座るようにギルトの手を引いた。
愛割らず唇には笑みを浮かべて、穏やかに優しい声だ。
酷く落ち着く。
「僕の話なんて面白くないよ。それより君の話を聞かせて欲しい、どんな風に生まれてどんな風に育ってきたのか。僕は精々作られて今、ここにいるそれだけしかないけど君は違うだろ?人生があったはずだ。辛かったこと嬉しかったことえお僕に教えてくれ」
自分が女で彼が人間の男ならそれは情熱的な愛の告白のようだった。
「ねぇ、聞かせて?」
子供のように強請る彼に、結局ギルトは自分の話をした。
両親が幼い頃に死に兄と二人で暮らしていたこと。
その兄も行方不明で自分は今は独りで暮らしていると言うこと。
ギルトの話を聞き、アンドロイドは悲しい顔をした。
涙こそ流していないものの、人間のそれよりもずっと悲しみが伝わる表情だとギルトは思う。
「大変だったね」
そう抱きしめられて、ギルトは思わず泣いてしまった。
両親が死んでも兄が帰って来なくても泣くのは我慢していたのに、その一言で心に創った壁があっけなく壊れ、その日ギルトは久しぶりに涙を流した。
翌日も
翌々日も
ギルトはアンドロイドに会いにいった。
アンドロイドはギルトの名を呼び、優しく声をかけてくれる。
ずっと一人だったギルトはそれだけでどうしようもなく満たされて幸せな気分になれた。
もう国家機密のアンドロイドの構造なんてどうでもよくなってしまっていた。
彼と話すことが何よりの楽しみで何よりの娯楽だった。
そう言えば声を出して笑ったのはいつぶりだろうか?
泣いたのは?
むしろ仕事以外で会話をしたのはいつだったか。
細やかな、それは本当に細やかなようやく見つけたギルトの幸せだったのかもしれない。
ある日、ギルトはアンドロイドに話した。
あの雲の上、青い空に、いつか連れってくれると行っていた兄の話を。
そして話ながら自分の世界が如何に兄で構成されてたかギルトは思い知ったのだ。
話しながら零れる涙を見てアンドロイドは今までで一番悲しそうに、苦しそうにしていた。
「空が見たい」
青い空が見たい。
「そうだ、きっとお前の瞳の色のような空だ」
アンドロイドの青い瞳はあの写真と同じ空の色だった。
雲を抜け、あの青い空の上に行けば兄がいるようなそんな気がして仕方ないのだ。
だからギルトが空に焦がれる。
行く術が今はなくて、こんなことなら軍人になっておけばよかったと思いながら
吐き出すように言葉を紡ぐギルトをアンドロイドは黙って苦しそうに見ていた。
次の日、いつもの場所に行くとアンドロイドは少しぐったりしているように見えた。
「大丈夫か?具合が悪いんじゃ」
そうギルトが言うと、アンドロイドは首を横に振る。
「大丈夫さ、僕は機械だよ?」
そうおどけて見せる彼はいつもの彼で、ギルトは安堵する。
「それよりギルト、空を見たくなない?飛行機に乗ってあの厚い雲の上へ一緒にいかないかい?」
そう言って彼が見せたのは銀色の鍵だった。
「格納庫の鍵だよ、中に戦闘用だけど飛行機が一機ある二人乗りだから乗って空を見に行こうよ」
ああ、本当に彼は綺麗に笑うのだ。
眩しいぐらい、悲しいぐらい綺麗な笑顔を作る。
冷たい金属の指先は握り続けると自分の熱がうつって暖かい手のように感じる。
そうやって手を握って、あの日ギルトをこの倉庫に連れてきた時みたいに今度は空に行こうと言う。
青い空を見に行こうと。
空と同じ色の目でギルトを見つめながら。
なんて嬉しいんだろ。
なんて幸せなんだろう。
手を引かれるままにギルトは彼の後を歩いていく。
そう言えば、小さい頃、兄もよくこうやって自分の手を引いてくれた。
力強く大きく優しい手だった。
ギルトはそうやって手を繋ぐのが大好きで、大好きで、大好きで、
アンドロイドが軽やかに走る。
まるで踊っているようだ。
美しいアンドロイド。
人のような人形。
そうして格納庫にたどり着く。
確かにそこには一機の飛行機があった。
しかし、こんな大切なものを置いているのに見張りの一人も居ないなんて。
そう言えば、国家機密があるにも関わらずこの工場に連日忍び込めている。
普通はDNA情報などで関係者以外立ち入ることはできないようにするはずだ。
国に納品してるなんて言ってもセキリティは穴だらけで、結構ずさんなのかもしれない。
飛行機に乗り込みシャッターを開ける。
アンドロイドは操縦席に座りエンジンをかけた。
もすごい爆音と友に、空気が揺れた。
「行くよ、ギルト」
彼が名を呼ぶ。
自分の名だ。
愛しそうに大事そうに呼ばれる。
飛行機が動き出すゆっくりと、徐々に加速し身体のGが掛かる。
内臓が持ち上げられるような感覚。
ふわりと一瞬身体が浮いて、ふと下を見たら地上はもう遠いものになっていた。
「飛んでる……」
ギルトの呟きにアンドロイドが笑う。
「当たり前でしょ?飛行機なんだから、でもこれで終わりじゃない」
そう自分達は空を見に行くのだ。
青い空。
雲を抜けて、青い、青い、青い、空を。
雲の中に入る。
回りは途端に真っ白になりそれが前方も白で覆われていた。
ずいぶん長く感じた。
もしかしたらほんの数分だったかもしれないけれどようやく雲を抜けた時。
「青い」
空が青かった。
どうしようもなく、泣きたくなるぐらい。
そこは青かった。
「見れたね」
アンドロイドが言う。
「叶ったね」
涙が出た。
本当にこのアンドロイドと出会ってから涙腺は壊れてしまたみたいに自分は泣いてばかりいる気がする。
言葉に出来なくて、ただ頷く。
嗚咽を堪えた喉はちりちりと焦げた。
鼻の奥が酷く痛い。
涙で乱反射する太陽の光さえ美しい。
綺麗で、本当にそこは綺麗で。
「ごめん、限界みたいだ。操縦はオートに切り替えたから飛行機はこのまま下降してまた工場に帰る、から」
アンドロイドは飛行機をオートに切り替えると操縦桿から手を離す。
「えっ、何を?」
ばちっと音がして、彼の首元を見ると頭の付根、髪を上げた所に銃弾が埋まっていた。
「お前!?」
「格納庫の鍵奪う時にヘマしちゃった。見張り倒す時にちょっとね。頭も思いっきりな殴られたしそろそろショートしちゃうじゃないかな」
自分のことなのに他人事のように言うアンドロイドはぼんやりと前を見て力なく笑った。
ただ頭が混乱してた。
ようやく見つけた幸せ。
ようやくみつけた喜び。
ようやく見つけた――……!
「ごめんねギルト、約束守ったのにこれじゃあ、またお前を悲しませるな」
家族
「兄さっ……」
その言葉は優しいアンドロイドのものじゃなくて、よく知る兄の口調だった。
「寂しい思いをさせてごめん」
最後は電子音が混じりならそれっきりアンドロイドは動かなくなった。
飛行機はゆっくりと高度を下げ、彼の言っていた通りにあの工場へと着陸した。
工場には軍の偉そうな人たちが来ていて、きっと自分は射殺されるなり拘束されるなりするのだろうと思ったがどうやら違ったらしい。
アンドロイドの暴走。
不良品のアンドロイドが民間人を誘拐して国に反撃しようとした。
そういうことで落ち着いた。
「自己思考プログラムを組むためにあのアンドロイドに実在した人間の思考や過去をデータに入れたんですが、結果としてロボット工学三原則を破ると言うバグが発生したようです」
冷静に淡々と、あのアンドロイドのような黒髪オールバックの男が自分に説明した。
「全くとんだ失敗作です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
慰謝料と言う名の口止め料を渡され、ギルトは工場を出された。
何が起こったのか頭が全くついていかなかった。
あのアンドロイドには兄のデータが入っていたのだ。
不完全な失敗作なでも人間より人間らしいアンドロイド
「兄さん」
――――大事な、
「兄さん……」
俺の大切な
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
吠えるように叫んだ。
いっそこのまま狂わないだろうかと
分かっていたら、あんなことはさせなかったのに、
分かっていたら、手を引いて、
今度は自分は手を引いて家へと連れて帰ったのに、
後悔しても兄は帰ってこない。
青い空には確かに兄がいた。
変わらず優しさで、青い瞳の綺麗なアンドロイドになった兄は一体どんな思いで自分の話を聞いていたのだろうか。
耳に残るのは優しく自分の名前を呼ぶその声。
瞼を閉じると狂いそうなぐらい青い空が脳裏に広がった。
初投稿なので、前に書いたものpixivから持ってきました。
pixivの方では違う名前で二次を中心に投稿してるのでこちらでオリジナルなどの練習をしていきたいです。二次一次関係なくあらすじを書くのが凄く苦手です。あと、どの程度の情報量ならわかりやすく読者に伝えられて独りよがりにならないのか。とても難しい。勉強してきます!




