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05  不器用では納得できない

 教師について教えてもらう一環として、神官の訪問を受けた。

 基本的に人間の召喚は王妃以外にはやっていないこと、元の世界に戻した例はないが、うまくいけば召喚の際に発生する力が利用できるかもしれないので、現在その研究を進めていることなどを教えてくれた。

 今度召喚陣を記した本も持ってきてくれることになった。

 神官が頭を下げる。長髪がその動きにあわせてさらりとすべる。


「個人的には、あなたの生活や基盤を無理に奪ってしまうことになって、申し訳なく思っています。ただ、召喚にはある程度の条件付けがしてあって、それに合致する方が召喚されてやってきます」

「その条件は何ですか?」


 娘の問いに神官は穏やかに答える。


「多少なりとも元の世界に絶望した方、健康で若くてこちらの世界の子供が産める方、一応国王陛下との相性がよい方というのも含まれています」


 最初の言葉は納得できなくはない。親が一度にいなくなって、混乱と絶望があったのは間違いない。

 ただ最後のはいただけない。あの国王と相性がよいなんて、何の冗談だろうかと知らず眉があがったのを神官は正しく理解した。


「重ね重ね申し訳ありません。まさか陛下があんな暴言を吐かれるとは思ってもみませんでした。陛下はこの儀式には否定的です。

 望んで召喚を執り行ったわけではなかったのに加え、あの時のあなたの状態が、その、ああだったのでつい、口に出てしまったのだと思います」


 教師に教えてもらったのは、国王が象徴などではなくて国を治めていること。あの国王は有能なこと。そして信じられないが、臣下や民からは慕われていることだった。

 公平で裏表がなく厳しいが芯は優しいと言われた時は、別の国王のことを言っているのかと聞き返してしまった。


「視界から消えうせろとか、首を刎ねよと言った人と相性がいい? 何の相性ですか。ああ、皮肉とか暴言とかですか?」


 国王に青筋を浮かすようなことを言った娘は、悪趣味な冗談に笑いそうになる。

 怒ると直接的に感情をぶちまけるよりも、冷たく対応してしまう方だと自覚しているので、いくらでも辛辣な言葉は出てくる。

 やりすぎると死罪の危険もあるから注意は必要だとは思うが。

 お互いのために、顔を合わせない現状は幸いだろう。


「いえ、そう言った類ではなく価値観であるとか、抽象的なのですが魂の相性とでも言いますか……」

「わ、私は人に消えろとか死ねとか言う価値観は持ち合わせていません」

「勿論です。ですからあれは陛下の失言です。陛下も本心ではひどいことをおっしゃったと思っているでしょう。あの方は、動揺するとつい高圧的な口調になってしまわれるので……」


 神官が失地回復しようとも、娘にとっての国王は『最悪』で、存在を否定され吐き捨てられた言葉は決して忘れられない。

 一度は首を刎ねろとまで言ったのに牢から拾い上げて婚儀を迫ったのは謎だが、俺様の隣になど誰が立つと思うのか。





「それでも言葉は過ぎるでしょう。あれでは敵も多いのではないですか?」


 どうやら痛いところをついたようだ。神官も、控えている侍女も少し目が泳いだ気がした。


「ご本人も自覚はされていて、近年は随分抑えることが上手になられていたんですが……」

「私に言わせれば、陛下のあれは虚勢の現れですわ。召喚して結婚なんて一生の大事ですから、頭に血が上って何を言っているのか分からなかったのではありませんか?」


 この侍女は笑顔で相当なことを言う。それこそ聞かれれば不敬罪に問われそうだ。

 ぎょっとすると、侍女の兄が国王の学友とかで小さい頃は一緒に遊んだ、そのためについ気安く辛口に見てしまうんですと弁解された。

 しかし虚勢で斬首の指示をだすのか? あの時は呆然として反応しなかったけど、普通の娘さんなら泣くかわめくか気絶してしまいそうだ。

 これを口にすると侍女はにっこり笑った。


「そのどれもなさらなかったのでしょう? 陛下にとっては新鮮だったにちがいありません。ですから気に入られたのでは?」

「それこそ、何の冗談ですか? ……すいません、鳥肌がたっちゃいました」


 何をどう解釈したら国王が気に入るという結論になるんだ。


「まあ、大変。でも気になさっているのは事実です。この部屋に最初にお連れになった時、お医者様が診察する間ずっと側についていらっしゃったのですよ。

 以後もご自分は顔を出されないですが、毎日ご様子を報告させていらっしゃいます」


 ああ、鳥肌がおさまらない。

 そんな事実知らなければ良かった。罵詈雑言に変態を追加しようか。

 侍女とのやり取りを聞いていた神官からも陛下の擁護がされた。


「陛下のご即位に際して騒動がありましたので、やや血なまぐさいというか殺伐としたものが染みついていらっしゃいます。それまでは、明るくお優しい方だったのですが……。

 陛下はことご自分にかけては不器用な方です。国王というお立場ゆえ、ご自分から歩み寄るということも著しく苦手です。

 国王の謝罪は国家の大事になるので容易に謝罪もできません。どうかその点をお含みおきください」


 神官が立ち去って、侍女の淹れてくれたお茶をのんでようやく鳥肌も消えた。

 あの暴言が不器用で片付けられるかー。

 どんな好意的な解釈しても、含みおくことなどできない。




 この会話での収穫は、あの国王は根は優しいらしいということだ。侍女にも尋ねて事実と確認をとった。

 それなら逃げても侍女が罰せられることはないだろう。

 娘は決意をさらに固めた。なんとしてでもここから逃げ出す。

 そうと決まればまずは何とかこの部屋から出なければ。国王から軟禁されているおかげで、城の中のことがさっぱり分からない。

 国の地理は教えてもらえても、王城の内部構造は下手に知りたがると不審に思われるので質問できない。

 王城の構造や城下に繋がる門や道などを知っておかないと、逃げ出せない。


 逃亡計画第一段階、知識を得る。これは進行中。

 第二段階、働きながら王城の構造を把握する。活動開始だ。



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