初まった。
やっと5話完成。
4月9日午前6時17分
今日の朝は何時もとは一味二味も違う。
何処が違うのか。
その答えは今僕の丁度腹の上に、僕と十字の形になるように重なって仰向けで寝ている。
夢でぬり壁的な妖怪に押し潰されていたのは、多分この少女の所為だと思う。いや、それ以外考えられない。それにこの少女は妖怪らしいし、夢に出てきたぬり壁も妖怪という共通点から考えても間違いないと思う。そんな夢の事はどうでもいい。しかし、問題なのはこのまま少女が寝たままでは僕も起きる事が出来ない。僕が起きるために体を起こせば絶対ベットから少女は落とされるからだ。
どうしたものか。
ここで僕が選べる行動は二つ。
A・少女をベットから落としてでも起きる。
B・少女がおきるのを待つ。
今日は土曜日なので、学校は休みで早く起きる意味が無い。
なら別にこのまま二度寝に……。
あ、トイレに行きたくなってきた。
之ばかりは何に変えても起きなければならない。
たとえ気持ちよく寝息をたてている少女を起こす結果となろうが—————犠牲は仕方ない。
このベットに世界地図を描く事は決してあってはならないから。
体を力いっぱい起こした。其れによって必然的に少女が転がされる。
ゴスッ
「ぎにゃっ!?!?!?」
そしてベットから落下した。南無産。
落ちた少女に目もくれずトイレに向かう。
後でどうあの少女に謝るか、それともいっそ少女が自身が勝手に転がって落ちたことにしてしまうか……どうしたものか。
~トイレタイム~
「見事に落としてくれたましたね」
氷の様に鋭い睥睨の眼差しで少女が僕に問いかけてくる。
騙すべきか考えながら自分の部屋に戻ったら少女が笑顔で、僕を待っていた。
少女は”心が読める”ということを忘れていた。
「本当にすいませんでした」
古き時代から現在に至るまで続いてきた、相手への謝罪の意思を最大限に示す姿勢を僕は直ぐにとった。
詰まる所土下座で少女に謝った。
「よくもま~人のこと寝床から落としやがってくれましたね。ま~朝っぱらから怒鳴り散らしたり暴れるのも嫌なので、今回だけは見逃してあげます」
「本当にすいませんでした」
綺麗におでこを地面に押し付けたまま、もう一度謝罪した。
無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心
「お主何時までその格好でおる気じゃ?」
「…………」
「……ん?心読まれぬように何も考えないようにしとる訳か」
「…………」
ドカっ
「ゴフぉッ!!」
土下座状態の僕の背中を少女が踏みつぶした。
一部の人にとってこれは最高のご褒美なのかもしれないが、僕には屈辱と背中の激痛しか感じられなかった。
「安心せい、主の心などもう読んでおらん。まただんまりを利かされては困るからのう、それにお互い話さなければならぬ事も沢山あるわけじゃし。」
あ、もう心を読まれていないのか本当に良かった。
妙なことを考えてまたこの少女の機嫌を損ねるようなことになっては元も子もないからだ。それにこの少女にはいう通り聞きたい事も沢山あるわけだ……。
とりあえず座り直して少女に向き直った。
「じゃ、まず僕から聞いていいか?」
「うむ、わしからの質問は主からの質問がすべて終わった後ということでいい」
「では、まず一つ目の質問。貴女の名前はなんですか?」
まず相手の名前が知りたかった、話を進めるうえでも名前を先に知っておいた方がやはり話しやすいし。
「わしの名か?そういえばちゃんとした自己紹介がまだじゃったな。わしは猫又の娘、名は縁起じゃ」
縁起?変わった名前だと思った。
もっと猫又の娘らしく猫につける様な名前かなと思っていた。
猫又の娘が猫につける様な名前というのも、いささか変な話かもしれないが。
「では次に、縁起さんあなた本当に妖怪なんですか?」
今更な気もする質問なのだがここまで、彼女が心を読めること以外に人外な点を見ていないからだ。
心を読む位なら超能力者にもできる。縁起が妖怪なのか超能力者なのかという点、正直どっちでもいい気もでもないのだが。
「勿論じゃ。しかし何かその証拠を見ねばどうせ納得できんのじゃろ?ならば、そうじゃのう……動く猫の耳や尻尾とか見れれば確信できるじゃろ?」
「ま、何の変哲もない人の頭から、猫の耳が生えたりしたら僕も納得できます。」
「よし。では今から耳を生やすのでしっかり見ておけ」
ニョキッ
縁起の頭に猫の耳様なものが生えた。
茶色と白の三毛猫の様な模様だった。
「本当に妖怪なんだなお前」
「別に触ってみてもよいぞ」
許可が出たのでとりあえず触ってみる。
ツンツン
手を伸ばして指で突いてみた、突かれた耳がパタパタと動く。
次に念入りに触ってみる。
さわさわさわ
毛が艶々でとても滑らかでさわり心地は抜群だった。
さわさわさわ
ドゴォッ
縁起の右アッパーが僕の顎を打ち上げた。
「何時までさわっとる気じゃ!」
脳みそが揺れた、一瞬視界が揺らいだ。
失神一歩手前だった。
「触っていいとは言ったが、触りすぎじゃ!」
「つい気持ちよくて」
猫耳が生えたら人間の耳はどうなったのか、など色々疑問もあるがツッコんではいけない。
「でほかに聞きたいことはなんじゃ?ほかにもあるのじゃろ?」
「え……とそれじゃ、なんであんなところにいたわけ?」
「ああ……その事か、そうじゃなこれから主に世話になる身じゃから教えておくかのう」
すると少女は少し頭で考えてから話し出した。
「わしは実は今修行の身なのじゃ」
「修行?」
「そう修行じゃ。現猫妖怪の首領を務めるわしの父が”将来猫又としてわしの跡を継ぐとき、相応しい器であるために単身人の郷に修行してこい”と言い出した。そして、気づいたらあの場所に段ボールに閉じ込められ放置されていた」
なるほど、つまり親の気紛れであんなところに送りこまれたということだったのか……。
自分の娘を段ボールに閉じ込め単身見知らぬ土地に放置する親って……。
「でも縁起さん確か90歳過ぎのお婆ちゃんなんですよね?そんなお年で修行なんて必要なんですか?」
「まぁ90過ぎとはいえ人間の年でいえばわしは14~15歳くらいじゃから。父から見ればまだまだ小童というわけじゃ」
「あ、そういうことですか」
猫又でいえば14~から15歳か、だからこんな容姿なのか。
「では次はわしからの質問よいか?」
「あ、うん」
「主の名など聞かせて欲しい」
そういえばまだ僕の自己紹介などその他もろもろがまだだった。
さて、名前と家族について簡単に説明するか。
「え…と、まず名前は上市 彰。家族は母と僕の二人暮らしで、父は僕が小さいときに死別」
「ふむそれだけわかれば十分じゃ」
それから縁起は目を細めて手を口に当てたまま硬直した、何か考えているようだ。
何を考えているのだろうか…全く見当がつかない。
僕が言ったことの中に何か気になることでもあったのだろうか?まぁ、どうでもいいか。
「ふむ、実はわしの知人で父親を失ったものが確かおってな、わしと主が出会ったのに何か縁でもあったのかもしれんと思って考えてみたんじゃ」
「へえ、でも親から猫又の知人がいるなんて一言も聞いたことありませんよ」
妖怪と知人って設定か、なんかよくある展開っぽい感じもしなくもない。
「ま、正直どうでもいい事なんじゃがな」
確かに知人であろうが無かろうが縁起をここで養っていかなきゃいけないことには変わりない。
どのタイミングで親にこの事を伝えるべきだろうか、この先どうしたものだろうか……。
勉強以外にまた新たな悩みの種が、僕に植え付けられた。
主人公の名前変更しました。