現代版 信長公記 第一話1546年
※注意 本作は一切の史実の歴史とは関係がありません。もちろん授業中寝てもシンクロはせず怒られるだけなのでみんなはちゃんと授業を聞きましょう
本作を見ていただきありがとうございます
また転生系かつまんないってと思うそこのあなた今回は歴史の知識がある天才というわけではなく歴史のテストは赤点組の人が転生しますそんな人が転生して過ごす戦国時代みなさんもぜひ見てください
「――おい織田、そこテストに出るぞ」
世界史……じゃなくて日本史の先生の、低くて眠気を誘うお経のような声が遠くで響いている。
だめだ、昨晩スマホで動画を見すぎたせいで、脳みそが完全にシャットダウンを要求している。
五月蠅いセミの声と、生ぬるい風が窓から吹き込んでくる。
歴史の教科書を開くと、そこには変なマントを着て、髭を生やした織田信長の肖像画が載っていた。天下人、ねえ。俺には一生関係のない、はるか昔の偉人だ。
視界がぐにゃりと歪む。限界だった。
俺の頭は、重力に従って教科書の信長の顔へと一直線に自由落下した。
ごつん。
「ってて……!?」
鼻を強打した。
……はずだったのだが、痛むのは額ではなく、なぜか頭のてっぺんだった。
しかもある日の午後、おでこのあたりが妙に涼しい。なんだこれ。髪の毛が……無い?
慌てて頭頂部に手をやると、前髪から頭頂部にかけてが綺麗に剃り上げられていた。ツルツルしている。いわゆる『月代』というやつだ。
さらに、目の前にはさっきまであった緑色の学校の机も、シャープペンシルも、居眠りしているクラスメイトの姿も無かった。
あるのは、妙に広い畳の部屋。歴史の資料集でしか見たことがないような、ガチの甲冑を着た男たちが、ずらりと並んで俺を凝視している。
「――吉法師様! お気を確かに! 元服の儀の最中に気絶されるなど、大殿に知られたらどのようなお叱りを受けるか!」
真横から、鼓膜が破れそうな大声が響く。
見上げると、そこには白髪と白髭を蓄えた、見るからに神経質そうな老武士が、涙目で俺の肩を揺さぶっていた。その顔には深いシワが刻まれているが、眼光だけは異常に鋭い。
「え? ……誰? っていうかここどこ!? 撮影? ドッキリ!?」
「何をお戯れを! 私は平手政秀にございます! あなた様のお目付け役、平手中務少輔政秀にございます! さあ、早く烏帽子を、烏帽子をお被りくだされ!」
平手……政秀……?
歴史のテストで毎回赤点ギリギリの俺でも、その名前にはかすかに見覚えがあった。
織田信長が「うつけ者」だった頃、ずっと説教をし続けて、最終的に自殺したっていう、あのめちゃくちゃ真真面目なおじいちゃん(通称・じい)だ。
「え、じゃあ、平手さん……?」
「さん!? さんとは何にございますか吉法師様! 私はあなた様を我が子のように育ててきた政秀にございます! 呼び捨てで大丈夫ですって! というか呼び捨てにしてください! 私のような老いぼれに敬称など、他家の方々に聞かれれば織田の家格が疑われまする!」
「いや、でも明らかに俺より人生の大先輩だし、そんな威厳あるおじいちゃんを呼び捨てとか現代人のモラルとして無理だって!」
「殿の『うつけ』の全容が、ついに私の敬称にまで……! ああ、大殿に合わせる顔がございませぬ!」
平手さん(じい)が天を仰いで頭を抱える。
その直後、バサリと豪華な着物を翻して、部屋の奥からものすごい威圧感を放つおっさんが現れた。
ガチの髭。ガチの強面。立っているだけで周囲の空気が凍りつくような男。
織田信長の父親であり、『尾張の虎』と恐れられた戦国大名――織田信秀だった。
信秀は、俺のハゲ頭(月代)をじろりと睨みつけると、低く重い声で言い放った。
「吉法師。本日よりお前は『織田三郎信長』と名乗れ。裏切るな。そして本日をもって、お前に我が居城であった那古野城を譲る。しっかり尾張を統治せよ」
「えっ!? なごや城!? いきなり城主!? え、家賃とか管理費とかどうなってんの!?」
「やちん……かんりひ……? 相変わらずわけのわからぬことを。お前がうつけのままであれば、いつでも城を取り上げる。励めよ」
信秀はそう言うと、俺の返事も待たずにさっさと部屋を出て行ってしまった。
ちょっと待て。12歳の見た目の子ども(中身は高校生)にいきなり城を一つ丸投げするって、戦国時代のコンプライアンスはどうなってるんだ。ブラック企業どころの騒ぎじゃない。
呆然とする俺の前に、今度は別の若い武将が、泥だらけの姿で息を切らせて飛び込んできた。
「報告いたします! ――一大事にございます! 元服の隙を突くかのように、奥三河の戸田氏、ならびに今川の勢力が、我が織田領の境界を脅かしております! すでに国境付近にて小競り合いが始まっており、周辺の小領主どもがどちらに寝返るか、一触即発の状態でございます!」
お、おくみかわ? いまがわ?
今川って、たしか信長に桶狭間でボコボコにされる、あのマロみたいなやつだろ?
じゃあ余裕じゃん、と思ったら、平手さんが持ってきた地図(というよりただの墨塗りの羊皮紙みたいなやつ)を見て血の気が引いた。
織田家の領地、めちゃくちゃ狭い。
そして、周りを囲む敵のマークが、どう見てもこちらの数倍はある。
「これ……どうすんの? じい、戦うの? 俺、体育の剣道でしか竹刀振ったことないよ?」
「殿、弱気な発言は敵を利するだけにございます! 今川の先鋒はすでに我が領内の村々に放火を始めております。ここは織田の威信にかけて、打って出るしかございませぬ!」
平手さんが血相を変えて俺の肩を掴む。その目はガチだ。冗談じゃなく、行かなきゃ殺される。
「殿! 敵を迎え撃つにあたり、どなたの軍勢を召集いたしますか!? 誰を呼びますか! 指示をくだされ!」
「え、えええ……誰を呼ぶかって……誰がいるっけ!?」
大パニックだ。歴史苦手人間の俺に、織田家の家臣のラインナップなんて分かるわけがない。柴田勝家とかはまだ敵なんだっけ? 誰を呼べば裏切られないんだ!?
俺が頭を抱えて冷や汗を流していると、部屋の襖がバンッ!! と凄まじい勢いで開け放たれた。
「若様ァーーーッ!!!」
乱入してきたのは、これまたガタイのいい、見るからに強そうな武将だった。
「国境が騒がしいと聞き及んでな! 織田三郎信長の初陣、この織田信光も喜んでお供いたしまする! 今川の雑兵どもなど、この俺が全員叩き斬ってくれよう!」
「え、えーーー……誰だっけ……おだ、のぶ、みつ……?」
脳みその記憶の引き出しをマッハでひっくり返す。信光。織田信光。聞いたことあるぞ。
そうだ……! 現代の教室で、いつも学年トップの歴史オタク・田中が、授業の合間にポロッと言っていたマニアックな豆知識だ。
『織田信光って信長の叔父さんなんだけど、めちゃくちゃ戦が強くて、しかも最後まで信長の味方をしてくれる超重要キャラなんだよね』って言ってた気がする!
「あ、そうだ、叔父さん!!」
「おうっ!? いきなりどうなされた、若様!」
「いや何でもない! とにかく、信光叔父さんが来てくれるなら百人力だ! よし、じい! 叔父さんのガチ勢(軍勢)を先頭にして、今すぐ出陣だ!」
「は、ははっ! さすが殿、信光殿を即座に先鋒に指名されるとは、うつけに見えて鋭い眼光をお持ちだ!」
平手さんが勝手に感動して涙ぐんでいる。いや、ただ田中の言葉を思い出しただけなんだけど。
数日後、俺は平手さんや信光叔父さんに引き連れられ、初めての本物の戦場――国境付近の荒野にいた。
前方には、今川・松平の息がかかった奥三河の軍勢。ギラギラとした槍の穂先が、太陽の光を浴びて鈍く光っている。
「殿、敵の陣形は魚鱗。小細工なしでこちらをすり潰す構えです。いかがいたしますか!」
平手さんが緊張の面持ちで聞いてくる。
俺は馬の上で(乗るだけでケツが激痛だった)、わざとだらしなく身体を崩し、鼻で笑ってみせた。ヤンキー漫画でよくある「底が知れない強キャラ」のポーズだ。
「じい。敵、めちゃくちゃ緊張してない? ほら、足元ガクガクじゃん」
「えっ? ……左様でございますか?」
「そうだよ。あんな奴ら、まともに相手するだけ時間の無駄。おい、太鼓叩いてる奴、もっとリズムをめちゃくちゃにしろ。盆踊りみたいな陽気な感じで叩け」
「ぼ、盆踊り……!?」
家臣たちが混乱する中、俺はさらに命令を下した。
「あと、全員で大声で笑え。はははは!って。敵がなんか真面目に構えてるのが面白くて仕方ない、みたいな感じで、腹の底から笑うんだ」
戦場に、織田軍の不気味な大爆笑と、気の抜けた太鼓の音が響き渡る。
すると、対峙していた奥三河の軍勢が、明らかに動揺し始めた。戦国時代の常識から外れすぎた俺の行動を、「何か恐ろしい罠があるのではないか」と深読みし始めたのだ。
『織田のうつけ、何やら妖しき術でも使う気か!?』
『いや、あの余裕……もしヤ背後から別動隊が回っているのでは!?』
敵の陣形がガタガタと崩れ始める。
それを見逃さず、隣の信光叔父さんがギロリと目を光らせた。
「若様、敵が怯みましたな! 皆の衆行くぞ!!!」
「よし、今だ! みんな、行っちゃって! じいも突撃! でも深追いは禁止! ちょっと小突いたらすぐ引くぞ!」
思ったよりいい指示ができた
「おおお! 者ども、殿に続けーーーっ!」
最強の信光叔父さんと平手さんたちが猛然と突撃する。ハッタリで恐怖心を植え付けられた敵軍は、まともに刃を交えることもなく、蜘蛛の子を散らすように退却していった。
「勝った……? 勝っちゃったよ……」
その日の夜、那古野城に戻った俺は、泥のように眠った。
歴史の知識なんてなくても、気合いと田中の授業中言ってた豆知識、そして現代のハッタリでなんとかなるかもしれない。そんな淡い希望を抱いた。
しかし、戦国時代はそんなに甘くはなかった。
そこからの1年間は、まさに地獄だった。
春が来ても、夏が来ても、周辺勢力との攻防戦は終わらない。今川の影に怯え、奥三河の国人衆との裏切り合い、騙し合いの毎日。歴史の教科書には「小競り合いが続いた」としか書かれていないその一行の裏で、俺は毎日、誰かが死ぬ報告を聞きメンタルが壊れそうになり、財政の計算に頭を悩ませただでさえ勉強が苦手な脳がパンクしそうになった、平手さんから「殿、また『さん』とお呼びになりましたな!」と耳にたこができるくらい説教され続けた。
何度も心が折れそうになった。現代に帰りたいと、毎晩泣きそうになりながら夜空を見上げた。
精神が擦り切れ、12歳の子どもの体は、戦国の泥としがらみに塗れていく。
目まぐるしい恐怖と緊張の連続。
それが、俺にとっての『1546年』という、果てしなく長い1年だった。
厳しい冬の寒さが和らぎ、那古野城の庭にある桜の蕾が膨らみ始めた、ある日の夜。
俺は激動の1年の疲れから、深い眠りに落ちていった。
「あー……やっと1年目が終わるのか。来年はもう少し、歴史の勉強をしておけばよかったな……」
意識が遠のき、俺は泥のような眠りについた。
――そして、翌朝。
鳥の鳴き声で目を覚ました俺は、自分の体が少し大きくなっていること、そして家臣たちの緊迫感が昨日までとは全く違っていることに気づく。
「殿! 起きられませ! ついにこの時が来ました! 本日は、天文十六年(1547年)にございます!」
「……は?」
カレンダーをめくる暇もなく、俺の『1547年』が、最悪の形で幕を開けようとしていた。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
うっかり授業中に寝落ちしたら、ハゲ頭(月代)の吉法師になっていた主人公。
歴史が苦手な彼にとって、戦国時代はまさに「無理ゲー」の連続です。が、現代のヤンキー漫画の知識と、歴史オタクの「田中」の豆知識でなんとか1年目を泥臭く乗り切りました。
しかし、この世界の本当の恐怖はここから。
寝て起きたら、まさかの強制1年スキップで1547年(13歳)に突入してしまいます!
「歴史苦手信長」と、いずれ合流する「あの男」の明日はどっちだ!?
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