彼と電車に乗る
今日は授業が終わると、私と彼は駅に向かった。
改札を通り過ぎると、停まっている電車に乗る。
「間に合うかな?」
私が不安そうに手を重ねていると、彼がその手を叩いて言ってくる。
「大丈夫、この時間なら、まだ間に合う」
スマホを見せてくれ、私は安堵の息を吐き出す。
何故、電車に乗っているのかというと、私の描いた絵が美術館で評価され、プロに意見を聞くためだった。
「うわ。緊張する!!」
「それはそうだろう。授業で描いたものが評価されたんだから。お前、すごいよ」
「本当!! ありがとう!!」
私は腕を伸ばすと、彼の膝に触れる。
私よりも太くてしっかりした脚。
男性なんだなと感じるのは、こういう時だった。
「どんなことを言われるんだろう?」
「小難しいことを言われたら、腹が立ちそうだな」
彼が指を鳴らしたので、私はライオンさんが暴走しないように、ストップをかける。
「ピー!! イエローカード!! 怒っちゃ駄目だからね」
「分かってるって。俺をみくびるな」
「そんなつもりはないわよ!! ついて来てくれることに感謝しているし」
私は照れくさくて、口の中で言葉を噛み砕き、手を組む。
彼は何も言わず、窓の外を眺める。
すると、入口のほうから明るい声が飛んできた。
「きゃー!! 涼しい」
「本当だ!! 生き返る!!」
4人組の女性陣が乗り込んで来た。
歳は20代くらいだろうか。
おしゃれな服を着ており、一気に電車の中が華やかなものとなる。
私は彼の袖を引っ張ると、小声で言う。
「美人さん達だね。いいな。憧れるー!!」
「そうか? 俺はお前で十分だぞ」
彼の素直な感想に、私は思わず頰を染める。
ライオンは嘘をついていないようで、じっと見つめられる。
「もう!! 嬉しいことを言わないの!!」
「はいはい」
彼は口元を緩めると、椅子にもたれかかる。
女性陣は周りなど関係ないのか、はしゃいだ声を出し続けており、楽しそうな雰囲気を作り出す。
私は耳を澄ますと、
「私の彼が」とか「親が」とか、自分の周りで起きている出来事についてすごい勢いで喋っているようだった。
電車内は私達と、女性陣のみなので、とても目立つ2組だった。
「そうだ、ビールを飲もう、ビールを」
その言葉に、リラックスしていたライオンが「え」と声をもらす。
私もびっくりして、こっそりと窺うと、プシュという音が耳に入ってくる。
女性陣はごくごく一気にあおっているようだった。
「おつまみもあるよ」
きゃきゃとはしゃぐ女性陣は、次々と開けているようで、私と彼は顔を見合わせる。
「大丈夫かな?」
口パクで言うと、彼も口パクで「さあ?」と返してくる。
電車内にトイレはついているが、まさか明るいうちから飲み始めるとは思わなかった。
「別の車両に行かなくて大丈夫か?」
彼が聞いてきたが、私は首を横に振る。
「大丈夫。お姉様方がいたほうが気が楽かも」
そう言うと、私は息を吐き出し、伸びをする。
評価を気にするよりも、騒がしいお姉様方の会話を聞いていたほうが、緊張がほぐれるのだった。
「お前も、ビールを飲むか?」
彼の冗談に、私はチョップする。
「飲むわけがないでしょう。未成年だし」
「はいはい。俺が悪いんですよ」
彼は両手を広げて、おどけてみせたので、私はくすりと笑う。
ライオンが笑わせてくれるのは、うさぎである私のためだけである。
「あ、来た、来た」
お姉様方が更に騒ぎ出したので、何だと思ったら、3人の美人が加わったのだった。
「うわあ…。すごいことになってきた」
私の言葉は、お姉様方の歓声で消される。
彼女達は周りを無視して、ビールをあおったり、大声で喋ったりと、自由な振る舞いだった。
私と彼は何も言わず、座席に深くもたれると、観察をやめる。
「私もあのお姉様方みたいに、衣装を着てみようかな」
「やめておけ。お前はセクシーというより、可愛い系だから」
「そう? ありがとう」
私は心から喜ぶと、窓に頭を預ける。
「眠ってもいい?」
「大丈夫。俺が守ってやるから」
私は静かに目を閉じると、しばし休憩するのだった。




