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34/72

34.送ります

 恥ずかしさと喜びがせめぎ合う中、綿貫さんはまたしても私を殺しにかかってきた。もう私専属の殺し屋なんじゃないかって錯覚しそうなくらいだ。


「佐藤さん、スーツ似合いますね」

「え?」

「初めて見ましたけど、しごできって感じです。ふふっ」

「……へ!?」

 

 今日はただのグレーのスーツ。どうせなら昨日着ていたベージュの時に会いたかった。そしたらまだ可愛いく見えたはずなのに。もしくは黒。そしたらかっこいいって思ってもらえたはずなのに。


「そして、寝過ごすなんて佐藤さん仕事頑張りすぎです」

「が、頑張りすぎ……私が?」

「そうですよ。こんな遅くまで働くなんて、会社フレックス勤務じゃないですよね?」

「あ、はい、まあ、ええ」


 私、疲れすぎて夢を見てるのかな?これ、労わられてるよね?え、私に降り注いだ大量の仕事は、綿貫さんに褒められるためなの?だとしたら明日もこの調子でお願いします。

 残業ルートに、こんなパターンあるんだ。それなら全然残業するんだけど。


「あ、引き止めちゃってすみません。帰りましょうか」

「あ、いや、こちらこそすみません!帰ります!さようなら!」


 勢いよく綺麗なお辞儀をして、綿貫さんに背負向け歩き出そうとした時私はその言葉に固まった。

 

「佐藤さん、待ってください。もう遅いのでよかったら送りますよ」


 ん!?

 遅い←これはわかる。だってもう21時10分だもん。

 送りますよ←これはどういう意味?


「佐藤さんのお家は駅からどれくらいですか?」

「……へ?あ、10分ぐらいですけど、はい。え、なんでですか?」

「もう遅いし危ないですよ。送らせてください」


 送ります……送ります!?

 

「ダメダメダメ!あ、ですよ!綿貫さんも疲れてるのに、仕事終わりですよね?しかも反対方向じゃないですか」

「僕は大丈夫ですよ。そんなことより女の子がこんな時間までいる方が危ないです」


 女の子!?私が?特技回し蹴りと狙撃なんですけど大丈夫ですか?

 

「あ、じゃあちょっと待ってくださいね」


 何を?何を待つの!?

 

「佐藤さんの最寄りから僕の駅まで、バス1本で帰れるって話したじゃないですか。今調べたら、佐藤さんを家まで送るとちょうどいいバスがありました。だから送らせてください」

「い、い、いいんですか!?」

「当たり前じゃないですか。こうしてたまたま会えたのも僕が送るためだったのかも、なんちゃって」


 ……え、運命?

 なんちゃってって、可愛すぎてキュン死目前です。


 しかもこれ予習したやつ。1冊しか買わなかったオフィスラブの漫画で、こんなシーンあったよ。こんなことになるなら、もっとオフィスラブ読んでおくんだった。


 映画だけを楽しみに、毎日毎日頑張ってきた私へのご褒美かも?なんちゃって。それにしても、私の社畜にも意味があったんだなあ。

 っ待って?これで映画無くなったりしないよね?

 私、これで運を使い果たしたかも……でもこのお誘いを断れる人いる?誰か助けてください。

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