34.送ります
恥ずかしさと喜びがせめぎ合う中、綿貫さんはまたしても私を殺しにかかってきた。もう私専属の殺し屋なんじゃないかって錯覚しそうなくらいだ。
「佐藤さん、スーツ似合いますね」
「え?」
「初めて見ましたけど、しごできって感じです。ふふっ」
「……へ!?」
今日はただのグレーのスーツ。どうせなら昨日着ていたベージュの時に会いたかった。そしたらまだ可愛いく見えたはずなのに。もしくは黒。そしたらかっこいいって思ってもらえたはずなのに。
「そして、寝過ごすなんて佐藤さん仕事頑張りすぎです」
「が、頑張りすぎ……私が?」
「そうですよ。こんな遅くまで働くなんて、会社フレックス勤務じゃないですよね?」
「あ、はい、まあ、ええ」
私、疲れすぎて夢を見てるのかな?これ、労わられてるよね?え、私に降り注いだ大量の仕事は、綿貫さんに褒められるためなの?だとしたら明日もこの調子でお願いします。
残業ルートに、こんなパターンあるんだ。それなら全然残業するんだけど。
「あ、引き止めちゃってすみません。帰りましょうか」
「あ、いや、こちらこそすみません!帰ります!さようなら!」
勢いよく綺麗なお辞儀をして、綿貫さんに背負向け歩き出そうとした時私はその言葉に固まった。
「佐藤さん、待ってください。もう遅いのでよかったら送りますよ」
ん!?
遅い←これはわかる。だってもう21時10分だもん。
送りますよ←これはどういう意味?
「佐藤さんのお家は駅からどれくらいですか?」
「……へ?あ、10分ぐらいですけど、はい。え、なんでですか?」
「もう遅いし危ないですよ。送らせてください」
送ります……送ります!?
「ダメダメダメ!あ、ですよ!綿貫さんも疲れてるのに、仕事終わりですよね?しかも反対方向じゃないですか」
「僕は大丈夫ですよ。そんなことより女の子がこんな時間までいる方が危ないです」
女の子!?私が?特技回し蹴りと狙撃なんですけど大丈夫ですか?
「あ、じゃあちょっと待ってくださいね」
何を?何を待つの!?
「佐藤さんの最寄りから僕の駅まで、バス1本で帰れるって話したじゃないですか。今調べたら、佐藤さんを家まで送るとちょうどいいバスがありました。だから送らせてください」
「い、い、いいんですか!?」
「当たり前じゃないですか。こうしてたまたま会えたのも僕が送るためだったのかも、なんちゃって」
……え、運命?
なんちゃってって、可愛すぎてキュン死目前です。
しかもこれ予習したやつ。1冊しか買わなかったオフィスラブの漫画で、こんなシーンあったよ。こんなことになるなら、もっとオフィスラブ読んでおくんだった。
映画だけを楽しみに、毎日毎日頑張ってきた私へのご褒美かも?なんちゃって。それにしても、私の社畜にも意味があったんだなあ。
っ待って?これで映画無くなったりしないよね?
私、これで運を使い果たしたかも……でもこのお誘いを断れる人いる?誰か助けてください。




