表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話 戻れない余韻――選んだのは自分だった

気づいた時には、もう分かっていた。


これは強制なんかじゃない。


最後に選んだのは――

自分自身だった。

どれくらい時間が経ったのか、分からなかった。


部屋の中は静かで、

さっきまでの空気とはまるで違っている。


乱れていた呼吸も、少しずつ落ち着きを取り戻していた。


それでも――


身体の奥には、まだはっきりと感覚が残っている。


消えきらない余韻。


「……」


何も言えない。


ただ、ぼんやりと天井を見つめる。


現実に戻ったようで、

まだどこか戻りきっていない感覚。


「大丈夫ですか」


隣から、静かな声。


その声を聞いた瞬間、

胸の奥がわずかに揺れた。


「……はい」


小さく答える。


本当に大丈夫なのかどうか、

自分でもよく分からなかった。


ただ一つ分かるのは――


嫌じゃなかった、ということ。


むしろ……


否定できない感覚が、確かに残っている。


「……変ですよね」


思わず、そんな言葉がこぼれる。


男は何も否定しなかった。


ただ静かに聞いている。


「最初は……やめようと思ってたのに」


あの時、確かに迷っていた。


怖かったし、不安だった。


それなのに――


「途中から……分からなくなって……」


言葉が途切れる。


思い出そうとすると、

胸の奥がざわつく。


あの時の感覚。


あの時の変化。


理性では説明できない何か。


「……でも」


小さく息を吐く。


「全部、自分で選んでた気がします」


それは言い訳でも、逃げでもなかった。


誰かに強制されたわけじゃない。


止めようと思えば、止められたはずだった。


それでも――


止めなかった。


その事実だけは、はっきりしている。


「……だから」


少しだけ間を置く。


「後悔は、してないです」


はっきりと、そう言えた。


不思議なくらい、自然に。


男は静かに頷くだけだった。


それ以上、何も言わない。


その距離感が、逆に心地よく感じた。


しばらくの間、

言葉のない時間が続く。


けれど、その沈黙は重くなかった。


むしろ――


どこか落ち着くものだった。


身体の奥に残る余韻が、

ゆっくりと広がっていく。


完全に消えることはない。


それどころか、

思い出すたびに、少しだけ蘇る。


「……また」


気づけば、言葉が出ていた。


自分でも驚く。


だが――


もう止められなかった。


「また、お願いするかもしれません」


小さく、でも確かにそう言った。


それは冗談でも、流れでもない。


本心だった。


あの時の自分なら、絶対に言わなかった言葉。


でも今は違う。


変わってしまったのか。


それとも――


元々、そういう一面があったのか。


答えは分からない。


ただ一つ言えるのは、


この夜が、確実に自分を変えたということ。


契約で始まったはずの時間。


だが終わる頃には――


それはもう、ただの契約ではなかった。


部屋の中には、静かな余韻だけが残る。


そしてその感覚は、


簡単には消えないことを、

自分自身が一番よく分かっていた。


すべては、一つの選択から始まった。


そして――

その選択は、終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ