第5話 戻れない余韻――選んだのは自分だった
気づいた時には、もう分かっていた。
これは強制なんかじゃない。
最後に選んだのは――
自分自身だった。
どれくらい時間が経ったのか、分からなかった。
部屋の中は静かで、
さっきまでの空気とはまるで違っている。
乱れていた呼吸も、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
それでも――
身体の奥には、まだはっきりと感覚が残っている。
消えきらない余韻。
「……」
何も言えない。
ただ、ぼんやりと天井を見つめる。
現実に戻ったようで、
まだどこか戻りきっていない感覚。
「大丈夫ですか」
隣から、静かな声。
その声を聞いた瞬間、
胸の奥がわずかに揺れた。
「……はい」
小さく答える。
本当に大丈夫なのかどうか、
自分でもよく分からなかった。
ただ一つ分かるのは――
嫌じゃなかった、ということ。
むしろ……
否定できない感覚が、確かに残っている。
「……変ですよね」
思わず、そんな言葉がこぼれる。
男は何も否定しなかった。
ただ静かに聞いている。
「最初は……やめようと思ってたのに」
あの時、確かに迷っていた。
怖かったし、不安だった。
それなのに――
「途中から……分からなくなって……」
言葉が途切れる。
思い出そうとすると、
胸の奥がざわつく。
あの時の感覚。
あの時の変化。
理性では説明できない何か。
「……でも」
小さく息を吐く。
「全部、自分で選んでた気がします」
それは言い訳でも、逃げでもなかった。
誰かに強制されたわけじゃない。
止めようと思えば、止められたはずだった。
それでも――
止めなかった。
その事実だけは、はっきりしている。
「……だから」
少しだけ間を置く。
「後悔は、してないです」
はっきりと、そう言えた。
不思議なくらい、自然に。
男は静かに頷くだけだった。
それ以上、何も言わない。
その距離感が、逆に心地よく感じた。
しばらくの間、
言葉のない時間が続く。
けれど、その沈黙は重くなかった。
むしろ――
どこか落ち着くものだった。
身体の奥に残る余韻が、
ゆっくりと広がっていく。
完全に消えることはない。
それどころか、
思い出すたびに、少しだけ蘇る。
「……また」
気づけば、言葉が出ていた。
自分でも驚く。
だが――
もう止められなかった。
「また、お願いするかもしれません」
小さく、でも確かにそう言った。
それは冗談でも、流れでもない。
本心だった。
あの時の自分なら、絶対に言わなかった言葉。
でも今は違う。
変わってしまったのか。
それとも――
元々、そういう一面があったのか。
答えは分からない。
ただ一つ言えるのは、
この夜が、確実に自分を変えたということ。
契約で始まったはずの時間。
だが終わる頃には――
それはもう、ただの契約ではなかった。
部屋の中には、静かな余韻だけが残る。
そしてその感覚は、
簡単には消えないことを、
自分自身が一番よく分かっていた。
すべては、一つの選択から始まった。
そして――
その選択は、終わらない。




