repair.7 『蒼銀の縮退と再編の指先』
リエイは作業場の奥で、一際明るい魔導ランタンを灯した。蒼いサークレットが、抽出された光を反射して冷たく輝いている。ここからの二日間、彼は「修理師」ではなく、神の指先を持つ「再構築者」とならなければならない。
第一の工程は、徹底的な精密鑑定だ。
リエイはサークレットを専用の台座に固定し、眼鏡をかけ替えた。指先を数ミリ浮かせた状態で魔力を流し、その内部構造をスキャンしていく。
「……やはり、重戦士用の『不屈』の加護が付与されているな。耐久度は極めて高いが、その分、内部の魔力回路が太く、かつ複雑に編み込まれている」
彼は、削除しても機能を損なわない「遊び」の部分を見極めていった。それは、髪に隠れる後頭部付近の接合部だ。そこを数ミリ削ぎ落とし、全体の曲率を再計算する。リエイは専用の魔法筆を執り、青い光の線で切断箇所を正確に下書きした。
第二の工程、それが最大の難所である解体だ。
組み立て直しを前提とした解体は、破壊よりも遥かに難しい。リエイは極細の魔力ノミを手に取ると、額に汗を浮かべながら、回路を傷つけないよう慎重に継ぎ目をこじ開けていく。
(……ここだ。回路のバイパスが交差する、この一瞬の隙間を突く)
一秒、また一秒と時間が過ぎる。作業場には、リエイの規則正しい呼吸音と、金属が微かに軋む音だけが響く。極限の集中の中、彼の視界には魔力の流れが色のついた川のように見えていた。パキリ、と小さな音がして、サークレットは三つのパーツに分離した。回路は一つも途切れていない。
第三の工程は、再編と組み立てである。
下書き通りに余分なミスリルを削ぎ落とし、リエイは三つのパーツを再び繋ぎ合わせた。小型化された円環に合わせ、広がりすぎた魔力の奔流をなだめるように、新しい経路を指先でなぞって「整地」していく。
「よし、収まりはいい。魔力回路、正常。循環に滞りなし」
接合部を魔法銀で溶接し、磨き上げると、サークレットは以前よりも引き締まった、凛とした美しさを放ち始めた。
そして二日後の夕方。約束通り現れた三人の前で、リエイは最後の工程、最終調整に入った。
「……少し、失礼するよ」
リエイは女戦士の額にサークレットを載せた。採寸通りではあるが、実際に魔力を通した際の馴染み具合は、本人にしかわからない。
「どうだ? 締め付けが強すぎたり、魔力の酔いはないか?」
「いえ……なんだか、体の一部になったみたいに軽いです」
リエイは彼女の耳の後ろあたりを軽く押し、留め具の角度を数ミリだけ微調整した。その瞬間、サークレットの蒼い輝きが彼女の魔力と共鳴し、ふわりと淡く発光した。
「完成だ。これでこの装備は、正式に君のものになった」
若手冒険者たちは、生まれ変わったレア装備を前に、言葉を失って感動していた。削ぎ落としたミスリルの破片を買い取った分、彼らの懐にも余裕が生まれている。彼らが希望に満ちた背中で店を去っていくのを見送りながら、リエイは使い切った集中力を癒やすように、深く、長い溜息をついた。
「……さて、少し肩が凝ったな。今日はもう、店仕舞いにしようか」
リエイは「Close」の札を掲げ、夜の静寂に包まれた作業場で、自分自身のために温かいお茶を淹れ始めた。




