表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人
第一章 修理師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/108

repair.61 『騒がしき来訪者と叡智の「鑑定」』

騎士団の護衛部隊が一時撤退し、ようやく静寂が戻ったかと思った矢先のことだった。


「リエイさん! 生きてますか!? 騎士団に囲まれているって噂を聞いて、居ても立ってもいられなくて……!」


工房の扉が勢いよく開き、飛び込んできたのはノエルだった。緩やかに波打つダークブラウンの髪を揺らし、おっとりとした垂れ目の奥に不安を滲ませた彼女は、リエイの無事な姿を確認すると、胸に手を当てて深く安堵の吐息を漏らした。


その後ろからは、対照的に鋭い眼光を湛えた黄金の髪のハイエルフ、師匠のニーリルが続いている。


「……ああ、ノエル。それにニーリルも」


「昨日、メディスの店に来てくれたんだって? 会えなくて残念だったわ。……それにしても、あんなことで私ら二人を三ヶ月も出禁にするなんて、ギルマスの分からず屋にも困ったもんよね!」


ニーリルはカラリと笑いながら、呆れたように肩をすくめた。共にギルドで絞られた仲だからこそ、その言葉には「災難だったわね」という戦友への共感が混じっている。ノエルだけが「もう、お師匠様……。リエイさんは、お師匠様の無茶に付き合ってくれたんですよ?」と、たしなめるようにリエイへ慈愛に満ちた視線を送った。


その時、作業椅子の上でぷかぷかと浮遊する正八面体の結晶体が、不機嫌そうに光を放った。


『――ふむ。騒々しい小娘だ。お主の知人は、皆これほどまでに声がデカいのか?』


「な、何これ!? 喋った……!? リエイさん、この綺麗な宝石は……?」


ノエルが驚きで目を丸くする。ニーリルは即座に視線を鋭くしたが、その結晶体から放たれる規格外の魔力密度を感じ取り、警戒の色を強めた。


「……リエイ。これ、ただの魔道具じゃないわね。中に『何か』いる。あんた、一体何を拾ってきたのよ」


『ふん、拾ってきたとは失礼な。我こそは魔道の祖、因果を司り、理を導く者……アルス・マグナであるぞ!』


仰々しく名乗った結晶体に対し、ニーリルは一瞬呆然とした後、ニヤリと不敵に笑った。


「へぇ、魔道の祖ねぇ。中身は随分とプライドの高そうな『おっさん』じゃない。私はニーリル、こっちは弟子のノエルよ」


『おっさんと言うな! 敬意を払わぬか、誇り高きハイエルフよ。……そして、そちらの小娘。お主、薄まってはいるが、いにしえのハイエルフの血脈を継いでおるな』


アルス・マグナは黄金の光を微かに明滅させ、ノエルとリエイの間を流れる空気をじっと観察した。ノエルがリエイの無事を喜ぶ様子や、リエイがそれを受け流しながらも穏やかな表情を見せているのを見て、老魔道士は心の中でニヤリと笑う。


(ほう、因果の糸が随分と甘く絡み合っておるわい。小娘も小僧も、なかなか自覚が足りんようだが……まあ、見守ってやるのも一興か)


そう独りごちたアルス・マグナは、居住まいを正すように(浮遊高度を上げて)二人に向き直った。


『さて、魔導士を自称する小娘たちよ。お主らが今、袋小路にぶち当たっておる術式や、制御しきれぬ特異な呪文があるなら言ってみよ。我の退屈を凌ぐくらいの価値はあるだろう』


「えっ、いいんですか!?」


ノエルが驚きつつも、自身の得意とする「遅延発動型の障壁魔法」の構築難度について話し始めると、アルス・マグナは即座にその欠陥を指摘した。


『甘いな。基点の因果がズレておる。そこに「静止」の理を組み込むのではなく、周囲の「流動」を肯定してやるのだ。そうすれば消費魔力は半分で済む』


「……凄い。そんな考え方、どの教本にも載っていませんでした!」


さらに、ニーリルをスキャンのように黄金の光でなぞる。


『ニーリルと言ったか。お主、その卓越した魔力量に対し、制御の仕方がいささか「荒い」な。力でねじ伏せる戦い方に慣れすぎておる。素材は一級品だが、マナを「川」として流すのではなく、「針」として編む術を知らぬ』


ニーリルの眉がぴくりと動いた。「……あら、お見通しってわけ?」


『お主の才覚、この我がいささか磨いてやろう。魔力制御の真髄、いわば「因果の点打ち」をな』


アルス・マグナは周囲の空間から光の粒子を一本の細い糸のように紡ぎ出し、ニーリルの目の前で複雑な模様を編んでみせた。それは現代の理論を数段階飛び越えた、精密かつ高密度の「極意」だった。


「……へぇ。これは、面白いわね」


ニーリルの口元に、楽しげな笑みが浮かぶ。

一方でリエイは、自分の作業椅子を完全に占領され、弟子の師匠まで巻き込んで講義を始めた「おっさん」を眺め、頭を抱えるしかなかった。


「……おい、おっさん。あんた、王宮に行く前に俺の工房を『魔導院』に変えるつもりか?」


『カッカッカ! 優秀な弟子が増えるのは良いことだぞ、リエイ!』


賑やかな笑い声が工房に響く。だが、その活気溢れる空気の裏側で、リエイの多機能ゴーグルは、アルス・マグナの魔力とニーリルの魔力が共鳴した瞬間に生じた、微かな「歪み」を捉えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ