repair.6 『継承の円環と繊細な削ぎ落とし』
夕闇が街を包み込み、リエイが「閉店」の札を掲げようとしたその時だった。
「待ってくれ! 頼む、開けてくれ!」
切羽詰まった声とともに、三人の若手冒険者が転がり込むように店に入ってきた。装備は泥と返り血に汚れ、つい先ほどダンジョンから帰還したばかりなのが一目でわかる。だが、彼らの瞳には疲労を上回る興奮が宿っていた。
リーダー格の戦士が、布に厳重に包まれた「それ」を差し出した。
中から現れたのは、深海のような蒼い輝きを放つミスリル製のサークレットだった。中央には大粒の魔力石が埋め込まれ、繊細な彫金が施されている。間違いなく、深層の宝箱から出たばかりのレア装備だ。
「これを見ろよ。すごいお宝だろ? でも……サイズが合わないんだ。重戦士用の規格らしくて、うちの女戦士には大きすぎてな。これを、彼女が着けられるサイズに調整してほしいんだ」
リエイは眼鏡を指で押し上げ、サークレットを慎重に手に取った。
指先から伝わる魔力の密度は相当なものだ。本来、これほどのレアアイテムなら、そのまま高値で売却して自分たちに見合った装備を買い直すのが冒険者の定石である。しかし、彼らの真剣な眼差しが、この装備に懸ける想いを物語っていた。
「……サイズの調整か。簡単に言ってくれるが、これは一歩間違えれば『アイテムブレイク』を引き起こす。特にこのクラスの魔道具は、全体のバランスで魔力回路を維持しているんだ。強引に縮めれば、内包された魔力が暴走して粉々に砕け散るぞ」
リエイの言葉に、若手たちは息を呑んだ。
だが、リエイの鑑定眼はすでに、その困難な術式の「隙間」を見つけ出していた。
「男用の重厚な造りを、女用の繊細なサイズに書き換える。削ぎ落とす部分は、素材としての価値で俺が買い取らせてもらおう。それなら工賃も少しは安く済む。どうする?」
「お願いします! こいつの能力があれば、俺たちはもっと上に行けるんだ」
若手にしては珍しく、彼らはその場で前払いの依頼料を差し出した。リエイはそれを受け取ると、装着者となる女戦士を呼び寄せ、彼女の頭の形を丁寧に採寸した。
「二日後だ。二日後の夕方には、君の額にぴったり馴染むように仕上げておく」
彼らを見送った後、リエイは作業場の鍵を静かに閉めた。
手元に残された蒼いサークレットが、夜の闇の中で静かに明滅している。
「さて……久々に心臓に悪い仕事になりそうだな」
リエイはそう独り言をこぼすと、抽出した削りカスを収納する瓶と、極細の魔力ノミを棚から取り出した。二日間、一瞬の油断も許されない精密作業が始まる。だが、その顔には、職人としての静かな愉悦が浮かんでいた。




