repair.40 『爆速の牽引よりも破壊的ショートカット』
週末の黎明。岩山ダンジョンの入り口には、周囲の冒険者たちが二度見するほど異様な一行が揃っていた。
リエイは、徹夜で仕上げた四人分の「赤い氷海石のマント」を差し出した。深紅の裏地が鈍く光るそのマントを羽織った瞬間、ノエルが驚きに目を見開く。
「……暖かい。リエイさん、これ、すごく優しい魔力が流れてます」
「氷海石の成分を魔法油で定着させたんだ。十六階層以降の冷気でも、これなら体温を奪われずに済むはずだよ」
ノエルの嬉しそうな微笑みに疲れが吹き飛ぶリエイだったが、最後に現れたニーリルの姿を見て、その頬を引きつらせた。彼女はいつもの軽装ながら、腰のポーチには溢れんばかりの魔晶石と、禍々しいほどの熱量を放つ長杖を携えていた。
(このひと……ダンジョンを壊滅させる気じゃないよな……。)
「準備万端よ! さあ、さっさと美味しい穀物を獲りにいきましょう!」
ダンジョン突入後、一行はメディスフィーナの「苔雲」による移動を開始した。
淡い緑の霧が三人を包み込み、地上から数センチ浮き上がる。リエイがその霧に連結された魔力の帯を肩にかけ、先頭に立って走り出した。
「いくぞ、しっかり掴まっていてくれ!」
リエイの「門番の加護」が発動する。周囲の魔物たちは、彼らをただの「吹き抜ける突風」としか認識できない。
時速数十キロ。通常なら数日かけて慎重に進む中層の入り組んだ通路を、リエイはアナリストとしての記憶を頼りに最短距離で、文字通り爆走した。流れる景色にメディスフィーナが「ちょっと、速すぎじゃないの!?」と悲鳴を上げるが、リエイは止まらない。
だが、十階層を超えたあたりで、ニーリルが退屈そうに欠伸をした。
「ねえリエイ、このまま通路を走るのって時間の無駄じゃない? 直線距離ならもっと近いでしょ」
「……何をするつもりだ?」
嫌な予感が背筋を走った瞬間、ニーリルが長杖を床へ突き立てた。
「火力を一点集中! 爆炎魔術・地殻穿孔!」
轟音と共に、迷宮の頑強な床が真っ赤に溶け、巨大な縦穴が垂直に貫通した。本来なら迷宮が自己修復するまでのわずかな時間、そこには下層へと続く「奈落の近道」が出現する。
「さあ、ダイブよ!」
「はああぁぁぁ!? 冗談だろう!?」
絶叫するリエイを余所に、ニーリルは楽しげに穴へ飛び込む。
「わあ……! これが魔術の真髄なのですね!」と、ニーリルの愛弟子なだけはある発言をして目を輝かせるノエル。
「ちょっと! 落ち着いて採取できなくなるでしょ! ほら、振動でモンスターが押し寄せてきたじゃないのよ!」と叫びながら、戦闘能力の皆無なメディスフィーナはすぐさま安全な苔雲の奥へと避難した。
案の定、異常な振動と魔力に引き寄せられ、周囲の壁から魔物が次々と這い出してくる。自由落下するリエイに向かって、ニーリルは空中でおどけて言った。
「そのためにリエイがいるんじゃない。ほら、出番よ〜!」
「……俺を虫除けの護符か何かだと思ってないか、あんたたち!」
リエイは苦笑混じりの驚愕を飲み込み、空中でピッケルを振るった。落下速度を制御しつつ、加護の範囲を最大まで広げ、迫り来る魔物の認識を強引に逸らしていく。
「もうどうにでもなれ……! 爆走の次は、自由落下か!」
狂気とも言えるショートカットを繰り返し、通常ではあり得ない速度で、一行は極寒の十六階層へと突き進んでいった。




