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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人


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repair.39 『加護と恩恵による猛スピード踏破作戦』

ハーブティーを飲み干すと、嘘のように頭の重苦しさと全身の倦怠感が引いていった。リエイが体調を整えているのを見計らって、メディスフィーナが地図を広げた。


「さて、週末の作戦について提案があるわ」


彼女が指差したのは、ダンジョンの中層から下層へと続く複雑なルートだ。


「リエイ、あなたの『門番の加護』と、私の『神樹との契約』。この二つを組み合わせれば、無敵の布陣が組めるはずよ」


彼女が口にした神樹とは、エルフの里に聳え立つ古の存在を指す。メディスフィーナはその契約者であり、彼女が胞子に自身の魔力を練り込むと、それは意思を持つ霧のように広がり、対象を包み込んで隠密と浮遊を可能にするという。


「ただし、この苔雲は極端な気温変化に弱いの。暑すぎても寒すぎても霧散してしまうから、安定して機能するのは精々十五階層までね。それに、深い階層の魔物には感知されやすいという弱点もあるわ」


メディスフィーナは不敵に笑う。

「だから今回はリエイ、あなたが先頭に立ち、門番の加護で魔物を『無視』しつつ、苔雲に乗った私たちを引っ張るの。要は、あなたという『不可視の導き手』に牽引されて、一気に16階層直前の階段まで爆速で駆け抜ける作戦よ!」


リエイは思わず苦笑した。それはまさに、ダンジョンの中層を文字通り「疾走」する作戦だ。通常なら数日かかる行程を、わずか数時間で踏破しようというのだ。


「無茶を言うなぁ……だが、確かに君たちの速度が上がれば、俺の加護で安全圏を維持したまま、効率的に前線へ到達できるな」


「そう! 雑魚戦に時間を割くのは時間の無駄よ。どうせ16階層からが本格的な氷の世界なんだから、そこまでは無駄な体力を使わずにいくのが賢い冒険者のやり方でしょ?」


ノエルも目を輝かせている。その技術と、リエイの門番という唯一無二の防御性能が噛み合えば、恐れるものはない。


「分かった。ただし、苔雲が霧散しそうなときはすぐに俺の加護圏内に引き入れる。それが条件だ」


「交渉成立ね」


二人は満足げに頷くと、週末の決行を誓って工房を後にした。16階層への強行突撃。ダンジョンを駆け抜けるこの作戦は、週末の夜明けとともに決行されることとなった。


メディスフィーナとノエルが帰った後、静まり返った工房にはハーブの香りが微かに残っていた。リエイは一息つくと、すぐに作業台へと向かう。週末の強行軍に備え、最も重要な準備を始めるためだ。


こないだの探索で採取した「赤い氷海石」の破片。それらを魔力粉砕機にかけて微細な粉末状にすると、希少な熱晶石から抽出した高純度の魔法油と丹念に練り合わせる。この魔法油は魔力を吸い上げ、熱を内部に閉じ込める性質がある。


リエイはそれを、保温性と堅牢性に優れた多層構造のキルト生地へ刷毛で丁寧に塗り込んでいった。生地の繊維一本一本の奥深くまで、氷海石の成分と魔法油が浸透していく。最後に表面を定着の魔術で焼き固めれば、過酷な冷気を完全に遮断し、内側の体温を循環させる「耐寒・保温機能」を備えた特殊な布地が完成する。


目標は、四人分となる防寒用フード付きマントの製作だ。


(メディスフィーナの苔雲の効率を落とさず、かつ16階層以降の酷寒にも耐えうる性能……)


リエイの精密な指先が、赤い氷海石の魔力を繊維の芯へと定着させていく。生地は見た目こそ軽やかな布地だが、纏うだけで冷気を遮断する結界が展開される仕掛けになっている。


黙々と作業を続けるうち、夜の帳は完全に落ち、工房の外では風の音が強まっていた。


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