repair.37 『冒険者の休日と恋の予感』
探索から三日後。リエイ、ミュラ、ムオンの三人は、約束通りギルドのマイルズの執務室を訪れていた。
室内には冷涼な空気が漂っているかのような緊張感があるが、机に広げられた調査資料を見るマイルズの表情は穏やかだった。
「今回の報告書、詳細に目を通させてもらった。二十層の無限湧き出しと、氷鏡の守護者の攻略法……それ以上に、『赤い氷海石』によって階層そのものが侵入者を排除しようと牙を剥くあの現象、あれの攻略法を確立したことには驚かされたよ。どれも非常に価値のあるデータだ」
マイルズは今回の探索で得た素材の査定結果を告げる。寒冷耐性を付与する魔核の適正量――小なら十個、中なら三個、大なら一個で防具の耐性が十分に高まること。さらに、あの罠部屋については解除専門のスペシャリストを同行させるべきであること、二十層の防衛線にはAランクの精鋭か、Bランクのパーティ二組による連係が必要であることを助言した。
「死なせない。それがギルドの運営理念だ。君たちの成果は、今後の探索者の命を救うことになる」
そして差し出された報酬額に、ミュラとムオンは息を呑んだ。予想を遥かに超える高額報酬だ。マイルズは苦笑しながら、「君たちの功績はそれに見合うものだ」と付け加えた。
「さて、堅苦しい話は終わりだ。今日のところは解散……といいたいところだが、祝杯を挙げない手はないな」
四人は行きつけの酒場食堂へと繰り出した。
温かい料理と冷えた酒が並ぶ卓を囲み、三日間の死闘を笑い飛ばしながら杯を重ねる。しかし、事態は思わぬ方向へと動き出した。
酒の勢いも手伝い、ミュラがふらりと立ち上がったかと思うと、マイルズを真っ直ぐに見つめた。
「マイルズ! 私と結婚してほしい!」
場が一瞬にして静まり返る。リエイとムオンは目を丸くして固まった。
ミュラは、ここに来てすぐ行ったランク査定の模擬戦でマイルズに打ち負かされて以来、ずっと彼を想い続けていたのだという。独身であることも、想い人がいないことも、全て調査済みという徹底ぶりだった。彼女がギルド専属冒険者を目指した理由は、力だけではなく、生活の基盤を安定させ、彼に釣り合う女になるためでもあったのだ。
リエイは呆気に取られたが、すぐさま頬を緩め、ムオンと共に盛大な拍手を送った。
「強い女は好きだ。本当に、俺でいいのか?」
マイルズの問いかけに、ミュラは赤らんだ顔で、しかし力強く頷いた。
マイルズは少しだけ照れたように笑うと、グラスを置いた。
「今週末は、誓いを立てるには縁起が良い日だと聞いている。……君さえよければ、その日に二人で過ごさないか?」
それは、マイルズもまたミュラを意識していたという何よりの証だった。
食堂全体が祝福の喧騒に包まれ、四人は歓喜のあまり、最後は全員が酔い潰れて夜の更けるまで笑い合った。




