repair.35 『報奨と静かなる帰還』
ギルドの扉を潜り、三人はマイルズの執務室へと向かった。
リエイが詳細な報告書を差し出し、ミュラとムオンがそれぞれの視点から二十層の異変と激戦の様子をマイルズに語っていく。マイルズは机に積み上げられた報告書と、テーブルに広げられた氷の大蜘蛛の素材、そして赤と青に脈動する魔核(大)を交互に見比べ、深く息を吐いた。
「二十層の完全攻略、そして階層の異常事態を鎮圧した件、しかと受け取った。細かいデータは後日ゆっくり精査させてもらうが……結論から言おう。二人とも、文句なしの合格だ」
マイルズは机の引き出しから二つの小さな箱を取り出し、ミュラとムオンに差し出した。中には、ギルド専属の証であるバッジが収められている。
「ミュラ。状況判断の鋭さと、崩れた連携を立て直す精神的支柱としての貢献を高く評価する。ムオン。重責を担いながら最後まで前線を守り抜いた耐久力と、指導に応じる柔軟性は特筆すべきだ。二人とも、今後はギルド専属の冒険者として、我々と対等な立場で迷宮と向き合ってくれ」
二人は神妙な面持ちでバッジを受け取り、硬く拳を握りしめた。
今回の探索で得た素材は直ちに分析班へと運ばれ、報酬については詳細な聴取の後、後日支払われることで話がまとまった。
「さて、装備のメンテナンスだ。傷んだ武具を預からせてもらう」
リエイが二人から武器防具を預かると、ギルドからは代わりの品が支給された。最高級の素材で作られたそれらは、返却までの数日間、二人の身を確実に守り抜く品質を誇っていた。極限状態を潜り抜けた疲労もあり、打ち上げは報酬の支払い日に持ち越すことに決めた。
二人に「ゆっくり休め」と声をかけ、リエイは分かれた。
街の影が伸び始める頃、リエイは約束通り薬屋メディスへと向かった。
扉を開けると、先ほどとは違う柔らかな空気が出迎えてくれる。
「おかえりなさい、リエイさん」
ノエルの声を聞き、リエイは胸の奥の張り詰めた糸が緩むのを感じた。彼はマジックパックから、十九層で採取したあの穀物の束を取り出し、カウンターへ置いた。
「これを見てもらいたい。十九層で発見した新種の作物だ。食文化を変える可能性を秘めている。……それと、ノエル」
リエイは少しだけ照れくさそうに言葉を続けた。
「君のお守りのおかげで、三人とも無事に帰ってこられた。……礼を言っておく。助かったよ」
ノエルは驚いたように目を見開き、やがてその表情を嬉しさに綻ばせた。
その様子を店の奥から見守っていた師匠のニーリルと、薬屋主人のメディスフィーナは、互いに顔を見合わせるとニヤニヤと笑みを浮かべた。
「あらあら、二人とも実にいい雰囲気ね!」
「そうそう、今週末は確か縁起のよい日だったわねぇ。両思いが誓いをたてるのには最良の日じゃなかったかしら?」
「「あらあら、それはそれは、めでたいわねぇ!」」
二人は声をそろえてノエルに駆け寄り、その頭をなでたり抱きしめたりして、からかいながらも可愛がり始めた。突然のことに真っ赤になってうつむくノエルと、困ったように頭を掻くリエイ。
迷宮の喧騒を離れ、薬屋に漂うハーブの香りが、リエイを深い安らぎの中へといざなっていた。




