repair.34 『鏡面の守護者と二人の絆』
重厚な氷の扉が、地響きを立てて開かれた。二十層の最奥。天井から巨大な氷柱がシャンデリアのように垂れ下がり、床一面が鏡のように輝く円形の広間が広がっていた。
中央に鎮座していたのは、氷鏡の守護者。水晶のような透明な体躯を持つ巨大な氷結の大蜘蛛だ。その八本の脚が氷を叩くたび、広間全体が振動し、鋭い衝撃波が三人を襲う。
「いくわよ、ムオン!」
「応!」
まずはミュラとムオンが先行して討伐を試みる。二人の連携は洗練されていた。ムオンが大剣で正面から注意を引き、その隙を突いてミュラが横から死角を狙う。しかし、守護者の戦い方は狡猾だった。鏡のように変化する体表で二人の動きを反射し、常に先読みのカウンターを叩き込んでくる。
絶対零度のブレスが広間を薙ぎ払い、逃げ場を奪う。ミュラの軽装鎧が凍りつき、動きが鈍った瞬間、守護者の鋭い脚が彼女の脚に深い切り傷を刻んだ。ムオンが庇うように盾を差し出すが、それも無数の氷柱に叩き砕かれ、腕が悲鳴を上げる。
二人の息は乱れ、防具は限界に近い。これ以上は命に関わる。リエイは即座に判断し、二人をボスの標的から外れるように庇いながら、一旦ボス部屋から脱出した。
幸い、十九層と二十層を繋ぐ階段の中腹には、昨夜築いた安全圏があった。三人は慌ただしく結界を張り直し、テントに滑り込む。
「くっ……あの反射機構、見た目以上に厄介だな」
リエイは無言でムオンの盾の破片を回収し、ミスリルを溶かして応急処置を施していく。ミュラの傷には高純度のポーションを塗布し、魔力を込めた布で固定した。
「いいか。あれは俺たちが直接狙うと反射される。……俺が先頭に立ち、加護で敵の思考を阻害する。その隙をお前たちが突け」
リエイは自身のピッケルを再調整し、結界具の出力を限界まで引き上げた。短い休息で、三人の気力と装備は再び研ぎ澄まされた。
再び広間へ。
リエイが先頭に立ち、守護者の目の前へと躍り出る。
守護者は攻撃を繰り出そうとしたが、リエイを認識できないまま、標的を見失ったように不可解な沈黙を見せ、攻撃の手を止めた。
「今だ、二人とも!」
その一瞬の空白こそが、最強の楔となった。リエイの存在がボスの思考を狂わせる。動揺した守護者の中心部へ、ミュラとムオンの連続連携技が突き刺さる。断末魔と共に大蜘蛛の巨体が砕け散った。
広間に残されたのは、鋭利な槍のような八本の脚、強固な外殻、感覚器である触角、そして無数の眼の集合体といった素材の数々。リエイはその残骸から、赤と青の魔力が複雑に混ざり合う、大サイズの魔核を慎重に回収した。
ボスを討伐した一行は、転移陣を使って迷宮の外へと出た。
一階入り口の喧騒と、地上に降り注ぐ柔らかな陽光が、彼らを迎える。
「よし、査定の総括とギルドへの報告だ」
街に戻る道中、リエイはメディの薬屋に立ち寄った。扉を鳴らすと、メディと二人帳面付けをしていた顔を上げ、ノエルは目を見開き、安堵の微笑みを浮かべる。
「リエイさん……! 無事に戻られたんですね」
「ああ、見ての通りだ。また帰りに寄る。先にギルドへ報告を済ませてくるよ」
「……はい、お待ちしています!」
その言葉を背に、三人は足早にギルドへと向かった。ギルド専属の冒険者としての証を認め、信頼を勝ち取るための査定。その結果は、誰の目にも明らかだった。




