repair.32 『九時間の輪廻と氷の統率』
二日目の探索は、昨夜の戦場となった転移陣付近の確認から始まった。未明の薄明かりの中、リエイがコールド・スライサーの先端を向けると、そこには予想通りの、しかし厄介な光景が広がっていた。
「……やはりな。同じ場所に再出現している」
昨夜粉砕したはずの赤き氷海石が、小ぶりながらも再びその禍々しい輝きを放っていた。リエイは構造解析の意識を集中させ、その体積と魔力密度を計算する。
「九時間でこの大きさか。昨夜ほどの脅威になるまでには、およそ十二時間前後といったところだな。復元周期が分かれば対策は立てられる」
リエイは腰から振動機能を備えた特殊なピッケルを取り出した。魔力を通すと超硬度の刃が微細に震え、赤き結晶を内部から効率よく崩壊させる。硬質な音と共に、未発達の「心臓」は再び沈黙した。
その後、三人は十七層へと足を進めた。ここからはリエイが先頭を譲り、ミュラとムオンの連携を観察する「監督役」としての仕事に重点を置く。
「前方に氷の石魔人、上空に氷の鳥だ。ムオン、石魔人の足元を崩し動きを止めろ。ミュラ、鳥の旋回軌道を読んで翼の付け根を射抜け」
「了解!」
二人の動きは精緻だった。ムオンが大剣の腹で地面を叩き、衝撃波で石魔人のバランスを崩すと、ミュラの放った矢が正確に氷の鳥を撃ち落とす。倒れた石魔人の胸部から、リエイは新調した採取具を使い、青白く燃える「氷の炎(石魔人の核)」を傷一つなく摘出した。さらに、氷の鳥からは最高鮮度の「氷結の羽根」と、食用としても価値の高い「氷結肉」を採取していく。
「十七層では赤い氷海石を二つ確認。どちらも階段へ続く最短ルート上に配置されていたわね」
ミュラの報告通り、迷宮の意思はより露骨に侵入者を拒もうとしていた。さらに階下、十八、十九層へと降りるにつれ、魔物たちの連携はより狡猾さを増していく。
「……編成が変わったな。前衛に氷結スライム、中衛に石魔人、後衛に氷の鳥。効率を考えた軍隊のような布陣だ」
ムオンが盾を構え直し、冷や汗を拭う。単体では脅威でないスライムが足止めに徹し、石魔人の重い一撃と鳥の奇襲が同時に襲いかかる。リエイは二人の戦いぶりを羊皮紙に刻みつつ、周囲の環境にも目を配った。
十八層に入ると、通路の脇に宝箱が置かれた小部屋が目に見えて増えていた。
「リエイ、あの宝箱……罠の気配がプンプンするわよ」
「ああ、罠部屋だな。解除に成功すればレアな魔導具や高純度の魔石が手に入るかもしれないが、今回は深追いはしない。罠の発動条件と感知範囲の特定に努めて、マップを埋めることを優先するぞ」
リエイたちは誘惑を断ち切り、最短経路で迷宮の構造を解体していく。
赤き氷海石を破壊し、魔物の軍勢を退け、罠の配置を記録する。
十九層の最深部、二十層へと続く階段が見えた頃、三人の装備には薄っすらと霜が降りていたが、その瞳には未知を攻略する確信の光が宿っていた。




