repair.31 『赤き心臓の解析と未明の再始動』
激しい拒絶反応が収まったあと、リエイたちは一度転移陣付近の拠点へと戻り、慎重に結界を張り直した。テントの中には再び魔導コンロの柔らかな熱が満ち、先ほどまでの死闘が嘘のような静寂が訪れる。
リエイはマジックパックから、先ほど回収した「赤き氷海石」の破片を取り出し、作業台の上に置いた。通常の青い結晶とは異なり、内側から不気味な脈動を繰り返すその破片を、三人で囲むようにして見つめる。
「……こいつが、あの異常な吹雪の元凶か。見てるだけで寒気がするな」
ムオンが忌々しげに呟く。リエイは構造解析の意識を破片の深部へと潜り込ませ、その性質を反芻した。
「ああ。こいつはこの階層の『心臓』であり、同時に侵入者を排除するための端末だ。これから先、この赤き氷海石は見つけ次第、最優先で破壊する。それがこの階層を安全に探索するための絶対条件になるだろう」
ミュラが地図を指でなぞりながら問いかける。
「問題は、これが一つ壊せば終わりなのか、それとも再生するのかね。あるいは、別の場所に転移して再出現する可能性もあるわ」
「それを確かめるのが明日の最初の仕事だ。もし一定時間で復活するなら、探索には常にタイムリミットが付きまとうことになる。……だが、今は休もう。この迷宮用探索時計が未明を指すまで、身体を休めるんだ」
リエイの言葉に従い、三人は交代で仮眠を取ることにした。
数時間後、時計の針が未明を指した頃、リエイは二人を静かに起こした。軽い乾燥肉と温かい茶で朝食を済ませ、装備の最終確認を行う。
「よし、二日目の行動を開始する。まずは昨夜の場所に赤き氷海石が復活しているかを確認し、その後は一気に十七、十八、十九階層へと降りていくぞ」
リエイは羊皮紙に、今日の詳細な調査項目を書き記した。
各階層における赤き氷海石の発見と破壊。出現場所の固定性の確認。そしてそれと並行して、本来の目的である罠、隠し部屋、隠し通路の特定を行う。もちろん、新種のモンスターやそのドロップ品、この環境下でしか採取できない希少な鉱石や植物の回収も忘れてはならない。
「赤き石の破壊を優先しつつ、階下に降りる流れだ。昨日よりペースを上げるぞ。ついてこられるか?」
「愚問ね。北方の意地を見せてあげるわ」
「いつでもいけます、監督役」
ミュラとムオンの頼もしい返事を聞き、リエイは結界を解除した。
再び現れた極寒の世界。しかし、今の彼らには昨夜手に入れた「攻略の鍵」がある。
未明の蒼い光の中、三人の影は迷宮のさらなる深淵へと吸い込まれていった。




