repair.3 『再会の音色と古びた羊皮紙』
翌日の午後、柔らかな陽光が差し込む店内に、昨日預かった鈴の持ち主である魔導師がやってきた。
「リエイさん、あの……鈴はどうなりましたか?」
おっとりとした口調で尋ねる彼女に、リエイは無言で木箱を差し出し、中から銀の鈴を取り出しました。そして、彼女の目の前で一度だけ、それを揺らします。
チリィィン……。
静謐で、どこまでも透き通った音色が店内に満ちました。魔導師は驚いたように目を見開き、それから花が綻ぶような笑みを浮かべました。
「わあ……! 以前よりもずっと、優しい音がします」
「回路の歪みを直すついでに、過負荷を逃がす調整をしておいたからね。君の魔力の癖に合わせておいたよ。でも、無理は禁物だ。この鈴が鳴り止まないほど魔力を使うような場所には、今はまだ行かないこと」
リエイが諭すように言うと、彼女は「はい、大切にします」と嬉しそうに鈴を胸に抱いて帰っていった。
現場復帰のサポートまでが修理師の仕事。彼女がまた元気に迷宮へ向かう姿を見送り、リエイがカウンターの整理を始めようとしたその時――。
カラン、とドアベルがまた一つ、重厚な音を立てました。
入ってきたのは、使い込まれた外套を纏った年配の男でした。その手には、ボロボロに端が欠け、煤で汚れた一枚の羊皮紙が握られています。
「……ここが、元アナリストのリエイが営む店か。道具ではなく、地図の修復を頼みたい」
リエイは眉を上げました。差し出されたのは、かつてリエイがマッピングを得意としていた頃の知識を必要とする、特殊な魔法地図でした。
「これは……ただの地図じゃないな。迷宮の『層の変化』に追従する自己更新型の魔地図か。でも、中枢の魔法回路が完全に焼き切れている」
「ああ。これがないと、俺たちのチームは次の深層へ進めないんだ。腕利きの修理師なら直せると聞いて来た」
リエイは羊皮紙を広げ、指先でその表面を慎重に鑑定し始めます。かつて数多の迷宮を踏破し、その構造を頭に叩き込んできたリエイの経験が、心地よい高揚感とともに呼び覚まされていきました。
「……構造解析には少し時間がかかる。でも、面白いな。道具の修理もいいけれど、こういう『道の修復』も、嫌いじゃない」
リエイは眼鏡のブリッジを押し上げ、静かな闘志を瞳に宿しました。修理師としての日常に、また一つ、新しい挑戦が舞い込んできたようです。




