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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人


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repair.29 『氷の夜の晩餐と、忍び寄る「波」』

結界膜の吹雪を弾く音が、遠くの波濤のように低く響いている。

テントの中では、リエイが用意した携帯用の魔導コンロが柔らかな熱を放ち、その上で温められた厚切りの燻製肉と、乾燥野菜をふんだんに使ったスープが豊かな香りを立ち昇らせていた。


「ふぅ……生き返るな。まさか十六層の入り口で、これほど温かい飯にありつけるとは思わなかったよ」


ムオンが熱いスープを一口啜り、凍えていた顔を綻ばせる。ミュラもまた、装備のジョイントを緩めてリラックスした様子でスプーンを動かしていた。食事が一段落したところで、リエイは手元の羊皮紙――初日の記録を広げた。


「さて。食事のついでに、初日の査定報告をさせてもらう」


二人の視線が、同時にリエイへと向けられる。和やかだった空気の中に、プロの冒険者としての適度な緊張感が戻った。


「まず、環境適応能力については文句なしだ。北方出身というアドバンテージを差し引いても、魔力の乱れに対する自己制御が早い。ミュラ、壁面のひび割れを罠の可能性として即座に指摘したのは良い判断だった。おかげで余計な足止めを食わずに済んだ」


「……光栄ね。でも、あんたの補助がなけりゃ、あのアスファルトみたいな硬い氷の上で満足に動くのは難しかったわ」


「謙遜するな、それはお前の観察眼の結果だ。だが、課題もある。……ムオン」


名前を呼ばれた青年が、背筋を伸ばした。


「あんたは重装備と大剣に頼りすぎている。この階層の氷は、見た目以上に『魔力を吸う』性質があるんだ。大きな動作をするたびに、装備の隙間から熱量が漏れている。明日は、もっと魔力を絞って、一点に集中させる立ち回りを意識してくれ。そうすれば、防具の魔力持ちが三割は改善するはずだ」


「……魔力を絞る、か。なるほど、確かに北の狩りでは力押しが多かったかもしれない。意識してみるよ」


的確な指摘に、ムオンは素直に頷いた。上級冒険者としての矜持を持ちつつも、リエイの言葉を職人の、そして先駆者の助言として受け入れる柔軟さが彼らにはあった。


「総じて、初日の査定は『合格点』だ。ギルド専属になっても、足手まといにはならないだろう。……だが」


リエイが言葉を切った。

その瞬間、結界の外側――完全な静寂に包まれていたはずの吹雪の向こう側から、キィィィィン……と耳鳴りのような、細く鋭い音が響いた。


「……気づいたか」


リエイの問いに、ミュラとムオンは無言で立ち上がり、すでに武器の柄に手をかけていた。


「ああ。ただの風の音じゃない。何かが、結界の魔力に干渉している」


「一人で行かせたりはしないわよ。三人のパーティーだって言ったのは、あんたでしょう?」


ミュラの言葉に、リエイは短く「ああ」と応え、腰のコールド・スライサーを抜き放った。

三人はテントを出て、結界の境界線へと近づく。


青白いドームの向こう側、激しさを増す吹雪の中に、無数の蒼い「光の粒」が揺らめいていた。それは魔獣の眼ではない。大気そのものが凍りつき、意志を持ってうねっているかのような、魔力の奔流だった。


「来るぞ。……これは、階層そのものが『侵入者』を排除しようとする、迷宮の免疫反応だ」


リエイが警告を発した瞬間、暗闇の中から巨大な氷の塊が、矢のような速度で結界へと撃ち込まれた。

未知の夜が、牙を剥き始めていた。


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