repair.27 『桃色の守護と氷の階層』
翌日、リエイは不足しているポーション類を揃えるため、メディの薬屋へと足を運んだ。店に入ると、そこには店主のメディスフィーナだけでなく、居候しているニーリルと、熱心に針を動かしているノエルの姿があった。
「あらリエイ、いよいよ明日ね。ご注文の最高純度のポーションは用意しておいたわよ」
昨日の打ち合わせのあと、薬屋に寄ると言っていたミュラに注文を代わりにしてくれるよう頼んでおいた。
そのメディが手際よく小瓶を並べる傍らで、ノエルが少し慌てた様子で手元の作業を終えた。彼女が差し出したのは、即席ながらも丁寧に縫い上げられた小さな布製のお守りだった。
「これ……良ければ持っていってください。私の魔力を少しだけ込めてあります」
その様子を見ていたニーリルとメディが、悪戯っぽく顔を見合わせて声を揃えた。
「あらあら、しっかり『愛』を込めなくちゃね?」
「ふふ、そうね。無事に帰ってきてほしいっていう、特別な魔力をね」
二人のハイエルフにからかわれ、ノエルは顔を林檎のように真っ赤にしながら「もう、違いますってば!」と抗議の声を上げる。そんな賑やかで温かいやり取りに、リエイの心は不思議と凪いでいった。別れ際、ノエルがリエイの目を見て、静かに、けれど力を込めて言った。
「帰りを待っています。気をつけて行ってきてください」
その響きは、まるで遠い戦地へ向かう恋人を送り出すかのようで、リエイの胸に密かなときめきを呼び起こした。誰にも、特に鋭いハイエルフの二人にも悟られないよう、彼は鉄のポーカーフェイスを貫いた。
(……たぶん、貫けていたはずだ……。)
そして、出発当日の未明。
空が白むよりも早く、岩山ダンジョンの入り口には三人の影があった。リエイ、そして北方出身の姉弟、ミュラとムオンだ。
「準備はいいか。ここからは遊びじゃない。俺の指示には絶対に従ってもらう」
「分かってる。あんたの背中を見て動くさ、監督役」
ミュラが短く応え、ムオンが大剣の柄を握り直す。三人は打ち合わせ通り、新たな階層を目指して迷宮の喉元へと足を踏み込んだ。
一階層から十五階層までは、リエイの「門番」としての最短ルートを使い、驚異的な速度で駆け抜けていく。魔物たちはリエイを同族と見なし、その背後に続く二人にも手を出そうとはしなかった。
「……信じられない。本当に魔物が避けていくなんてな」
ムオンが驚愕の声を漏らすが、リエイは足を止めない。十五階層のボス部屋を「素通り」し、その最奥にある巨大な亀裂の前で足を止めた。そこからは、前回まではなかった、凍てつくような蒼い冷気が噴き出している。
「ここからが十六階層、未知の領域だ。ミュラ、ムオン、寒冷装備を最大稼働させろ」
リエイが腰の採取具、コールド・スライサーを軽く叩くと、牙の核が共鳴するように青く脈打った。未だ誰も踏破していない氷の世界。査定と調査、そして迷宮の変異を見極めるための過酷な三日間が、今、静かに幕を開けた。




