repair.26 『門番の資質と深層への備え』
かつて第一線で活躍したアナリストであったリエイに対し、上級冒険者であるミュラとムオンが「監督役」という立場を素直に受け入れたのには、マイルズの紹介以外にも明確な理由があった。
「あんたが修理師だからって、侮ったりはしないさ」
パスタを平らげたミュラが、真剣な眼差しでリエイを見つめる。
「マイルズの元仲間だということもあるが、リエイ、あんたからは『ダンジョンの匂い』がする。それが信頼を置ける一番の理由だ」
ダンジョンの匂い。それは、迷宮の奥深くに長期間身を置き、その魔力の残滓を肌に染み込ませた者だけが纏う独特の気配だ。定期的に「門番」として潜り続けているリエイにとって、それは隠しようのない痕跡だった。二人のようなベテランには、リエイがただの修理師に留まらない「深淵を知る者」であることが本能的に分かったのだろう。
リエイは「特殊な体質でね」と軽く受け流したが、不必要な疑念を抱かれずに済んだのは幸いだった。その日の午後は、顔合わせと相互理解を深めるための打ち合わせに費やされた。二人の装備はすでにリエイが完璧に仕上げており、追加のメンテナンスは不要だ。
話はスムーズにまとまり、出発は明後日の未明、帰還は三日目の夜までという強行軍ではないが確実な段取りが組まれた。
「じゃあ、明後日の朝、ギルドの正門前で」
マイルズたちが店を後にすると、リエイはすぐに自身の「仕事」に切り替えた。監督役として二人を連れて行く以上、自分自身の装備に不備は許されない。
「地図作成用の羊皮紙は多めに持っていくか。あとは……」
記録用の道具、緊急時用の結界、万が一に備えた数日分の保存食。ポーション類は、明日メディの店へ行って最新の精製度のものを仕入れる予定だ。
そして、リエイが今最も気を揉んでいるのは、使い古した「結界設置器具」だった。広範囲の安全を確保するための杭状の魔導具だが、長年の使用で表面の回路が細かく摩耗している。
「予備のミスリルがまだ少し残っていたな。これで回路の補強をするか」
リエイは作業台に向かい、銀色に輝くミスリルを薄く引き延ばしていく。幸い、核となる魔石自体に損傷はない。補強さえ済めば、以前よりも強固な安全圏を構築できるはずだ。
深夜の工房に、金属を叩く小気味よい音が響く。
新階層、氷の領域。そこは単なる探索の場ではない。リエイにとっては、成長し続ける岩山ダンジョンの「真意」を確かめるための、門番としての重要な任務の場でもあった。




