repair.25 『昼下がりのパスタと専属への覚悟』
マジックパックへの新機能組み込みを完遂させた、翌日の昼休み。心地よい達成感に包まれていたリエイの元へ、副ギルド長のマイルズが北方姉弟、ミュラとムオンを伴って現れた。
「よう、リエイ。精が出るな」
マイルズの手には彼が好んで止まない街一番の焼き菓子があり、ミュラたちは保存の利く質の良い燻製肉を差し出してきた。ちょうど昼食の準備を始めようとしていたリエイは、彼らを招き入れると、予定していたトマトとバジルのパスタに、頂いた燻製肉を贅沢に刻み入れた。
作業場の小さなテーブルを囲み、湯気の上がるパスタを四人で啜る。燻製肉の塩気とバジルの香りが絶妙に絡み合い、会話も自然と弾んだ。
食後、マイルズがふと表情を引き締め、懐から一通の書状と、依頼料の入った革袋を差し出した。
「リエイ、これはギルドからの正式な依頼だ。岩山ダンジョンの新たな階層……十六層以降の先行調査を頼みたい。そして、もう一つ。この二人が『ギルド専属探索者』として適格かどうかの査定、つまり監督役も兼ねてほしい」
それは、実質的な探索一任のサインだった。一週間以内には動いてほしいという、副ギルド長としての無言の圧力もそこには含まれている。
リエイはフォークを置き、じっとミュラとムオンの顔を見つめた。
ギルド専属になれば、定期的な報酬や最高級のバックアップが保証される。だが、その代償として、ダンジョンで手に入れた希少素材のほとんどはギルドの管理下に置かれ、個人の所有にはならないという厳しい制約があった。
「……一つ、聞いていいか」
リエイは、北方から流れてきた実力者である二人に問いかけた。
「二人はどうしてギルド専属になりたいんだ? フリーなら手に入れた素材は全部自分たちのものだ。専属になれば、どれほど高価な素材を見つけても、ほとんどが手元に残らない決まりだったはずだが……?」
かつてアナリストとして効率を最優先していたリエイには、それが不思議だった。実力があるなら、フリーの方が遥かに稼げるはずなのだ。
問われたミュラは、弟のムオンと短く視線を交わすと、迷いのない瞳でリエイを真っ直ぐに見返した。
「……あたしたちは、北で故郷を失った。素材を売って金を作るよりも、この街という『拠点』に深く根を張り、自分たちの技術を組織のために使いたいんだ。何より、岩山が冷え始めている今、個人の欲よりも、街全体の防衛に関わる情報をギルドに集約させる方が合理的だろう?」
「俺も姉貴と同じです。リエイさんのような信頼できる職人がいるこの街で、責任を持って潜り続けたい」
二人の言葉に、マイルズが満足げに口角を上げた。
リエイは、自身の腰に提げた、新調したばかりの採取具に触れる。
「……分かった。監督役、引き受けよう。新しい階層がどれほど冷えていようと、俺の道具があれば素材の価値は落とさない」
職人として、そして彼らの先を行く門番として。リエイは新たな調査への決意を固めた。




