repair.24 『夕食の誘いと冷たい林檎』
陽が完全に落ち、夜の加工作業に取り掛かろうとしていた矢先、店の扉が控えめに、けれど確かな主張を持って叩かれた。こんな時間に誰かと思えば、そこには探索帰りの装いをしたニーリルと、心底疲れ果てた様子のノエルが立っていた。
「リエイさん、こんばんは……。あの、お師匠様がどうしてもって……」
ノエルにしては珍しい時間の訪問だ。事情を聞けば、師匠であるニーリルが迷宮の隅々まで確認したがる探索癖を発揮し、それに付き従った結果、街に戻るのがこの時間になったのだという。
(頑張ったね。お疲れ様)
言葉には出さず、心の中でそっと労いの言葉をかけると、リエイは彼女たちの誘いに応じて夜の街へと繰り出すことにした。
迷宮都市の活気ある酒場。運ばれてくる料理を前に、ニーリルは上機嫌で杯を重ねていた。しかし、元来ハイエルフは酒に強くない。案の定、酔いが回ったニーリルは、リエイに向かって突拍子もないことを言い始めた。
「いいかい、リエイ。ノエルは私の自慢の弟子だ。どうだ、今のうちにこいつと深い仲になっておかないか? 私がお墨付きをやるからさ」
「も、もう! お師匠様! 何を言ってるんですか!」
ノエルは耳の先まで真っ赤にして、身を乗り出して抗議する。最近よく見る彼女のこの表情を、リエイは密かに「可愛いらしいものだ」と思いつつ、酒を煽るニーリルを眺めていた。
「お師匠様、お酒に弱いんだから飲み過ぎないでください! ほら、もう帰りますよ!」
どちらが年上なのかわからない、立場が逆転した師弟の構図を楽しみながら、リエイは千鳥足のニーリルを支えるノエルと共にメディの薬屋へと向かった。
店の前で待っていたメディに二人を送り届けた際、リエイは「お土産だ」と言って、一つの瓶を手渡した。リエイ特製のリンゴの塩蜂蜜漬けだ。
「えっ! これ、すごくよく冷えてるわね」
受け取ったメディが驚きの声を上げる。夜の空気よりも明らかに低いその温度に、彼女は不思議そうに瓶を眺めた。リエイは、現在試作中の凍結保存機能付き万能採取具の機能を、かいつまんで説明した。
「新調しているマジックパックの試作機能さ。これで希少な薬草も、今まで以上の高品質で届けられると思う」
「本当? それが実現すれば、作れる薬の質が劇的に変わるわ。……楽しみにしてるわね、リエイ」
「ああ、まかせてくれ」
メディの弾んだ声と喜ぶ顔を見届け、リエイは満足感を胸に、夜の静寂が戻った自宅兼工房へと帰り着いた。
さあ、夜はまだ長い。冷たい牙を研ぎ澄ます、本当の仕事はこれからだ。




