repair.22 『北の遺物と未知の牙』
作業台の上に広げられたミュラとムオンの装備は、かつて北方の極寒の地で幾多の魔獣の爪を退けてきた本物の「遺物」だった。
リエイにとって、寒冷耐性装備のメンテナンスは初めてではない。だが、これほどまでに北方特有の希少素材――極北にのみ生息する「雪氷龍」の鱗を加工した防護材や、万年氷に浸して鍛えられた特殊合金――を多用したものは珍しい。
(……何分、久しぶりに扱う素材だ。今の俺のスキルなら、以前よりも深く『声』を聴けるはずだが、慢心は禁物だな)
リエイは深く息を吐き、集中力を極限まで高めた。
構造解析を深層まで走らせ、素材一つ一つの性質を再確認していく。表面の傷を埋めるだけでは足りない。寒冷地装備の真髄は、外気の冷たさを遮断するだけでなく、着用者の体温を「魔力の循環」へと変換し、常に一定の温度を保つ機能性にある。
リエイは極微魔力修復針を手に取り、時層同調を慎重に発動させた。
素材が最も強固でしなやかだった「全盛期の状態」へと魔力的な記憶を同調させつつ、メディの魔法油を回路の隅々まで行き渡らせる。
「……よし。熱の逃げ道を塞ぎ、循環の淀みを解消した。これで本来の能力の底上げも果たせるはずだ」
単なる点検を超えた「機能の拡張」が、静かに、だが確実に完了していく。
作業を見守っていたミュラが、見違えるような輝きを取り戻した胸当てを見て、感嘆の声を漏らした。
「すごいな。北方の一流の職人でも、これほど精密に回路を繋ぎ直せる奴は早々いない。……受け取ってくれ、リエイ。これは追加の報酬というか、礼だ。道中で仕留めた珍しい魔獣の牙さ。あんたなら、何かの素材に使えるだろう?」
ミュラが差し出したのは、氷のように透き通り、中心部が仄かに発光している見事な牙だった。
市場に出れば高値で取引されるだろうが、職人であるリエイにとっては、金貨以上に価値のある「未知の素材」だ。
「……ありがたく頂戴する。この牙なら、次の階層で役立つ道具の芯材になるかもしれないな」
リエイは牙を丁寧に受け取り、棚の特別な場所へと置いた。
上級冒険者からの信頼と、新たな素材。
北から吹いてきた風は、リエイの技術をさらに研ぎ澄ませていく。




