repair.21 『北の風と紹介状』
翌日。
リエイが店を開けて間もなく、初夏の陽気を跳ね返すような涼やかな風と共に、二人の冒険者が扉を潜った。
一人は、磨き上げられた銀髪を短く切りそろえた女性。もう一人は、彼女の背後に静かに控える、大剣を背負った体格の良い青年だ。二人の装備は、このあたりの冒険者が好む軽装とは一線を画していた。厚手の魔獣の皮を基調とし、各所に断熱効果のある毛皮がしつらえられた、寒冷地仕様の重装備。
「ここが、マイルズの言っていた店か。……少し不便な場所にあるが、空気は悪くない」
女性が周囲を見渡し、懐から一通の封書を取り出して作業台に置いた。
表書きには、紛れもなく副ギルド長マイルズの署名と印章がある。
「北方出身の姉弟、ミュラとムオンだ。ギルドで岩山ダンジョンの拡張予兆を聞いてな。しばらく眠らせていた冬装備を叩き起こそうと思ったんだが、マイルズの野郎が『最高の腕を持つ修理師がいる。そこ以外に預けるのは宝の持ち腐れだ』なんて、大層な紹介状を書きやがった」
リエイは苦笑した。
(マイルズの奴、氷海石の手土産の礼に、さっそく上級の客を回してきたか。ありがたいが、相変わらず手回しが早い)
「……リエイだ。マイルズの紹介なら、下手な仕事はできないな。見せてくれ」
リエイは姉のミュラから預かった胸当てと、弟ムオンの籠手を受け取り、作業台に乗せた。
構造解析を走らせるまでもなく、その装備に刻まれた無数の傷跡が、二人の歩んできた過酷な戦歴を物語っている。
「北方での狩りに使っていただけあって、素材は一級品だ。だが、長期間の保管で魔力伝導率が落ちている。特に、寒冷地用の保温魔法陣に微かな目詰まりがあるな。……これでは、十六層以降の極寒には耐えられない」
リエイの言葉に、ムオンが驚いたように身を乗り出した。
「目詰まりまで分かるのか? 街の技師たちは『まだ使える』としか言わなかったが……」
「目に見える傷を直すのが職人なら、見えない喉のつかえを取るのが、俺の仕事だ」
リエイは昨日、メディから受け取ったばかりの魔法油を手にした。
これに微量の銀粉を混ぜ、時層同調を使いながら、防具の奥深くに眠る古い回路を清掃していく。
「ミュラ、ムオン。君たちの装備は、新しい階層に適応できるよう、少し『熱』の循環を効率化させておく。……次は、氷の世界になる。この装備に限らず準備を怠るなよ」
作業を見守る姉弟の瞳に、この修理師への確かな信頼が宿り始めた。




