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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人


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20/21

repair.20 『予兆の石と街の鼓動』

ギルドの喧騒を抜け、リエイは奥にある副ギルド長室の扉を叩いた。


「入るぞ、マイルズ」


「待っていたよ、リエイ。……その顔を見るに、また山が動いたな?」


デスクで書類の山と格闘していたのは、マイルズ。リエイとはかつて同じパーティで死線を潜り抜けた仲であり、現在は副ギルド長を務める男だ。彼とギルド長だけが、リエイがこの街の門番であることと、その特異な性質を承知している。


リエイは書き上げたばかりの調査報告書とマップを机に置いた。そして、手土産代わりに小さな革袋を差し出す。中から現れたのは、淡い蒼光を放ち、周囲の空気をわずかに凍てつかせる美しい鉱石だった。


「これは……『氷海石』か。十五層のボス部屋前で見つけたのか?」


「ああ。十六層から三十層が新たに生まれる予兆だろうな。この石が出るということは、次は寒冷地層、あるいは海系の環境になる。今のうちに冒険者たちへ、防寒装備と水属性対策の周知をしておいた方がいい」


マイルズは険しい表情で頷き、石を慎重に箱に収めた。

「助かる。お前の予測は外れたことがないからな。……さて、公務の話はここまでだ。次は個人的な、いや、街全体に関わる依頼を頼みたい」


マイルズが差し出したのは、重厚な刻印が施されたメンテナンス依頼書だった。

「中央時計塔を診てほしい。最近、魔力の循環に微かな揺らぎがあると報告が入っている」


通称『永久時計』。一度魔石に魔力を流せば、壊れない限り永久に時を刻み続ける古代の遺産だ。この複雑怪奇な永久機関を扱える者は、この都市でリエイ一人しかいない。かつて多くの技師が挑戦したが、魔石がその魔力を受け入れたのはリエイだけだった。門番としての加護ゆえか、それとも彼自身の資質か。リエイにも正確な理由は分かっていないが、彼はこの時計塔の唯一の守護者でもある。


「分かった。一時間もあれば一通り診て回れるだろう。夕食前には終わらせる」


リエイは時計塔へ向かい、巨大な歯車が噛み合う内部へと足を踏み入れた。

時層同調クロノ・シンクロを使い、目に見えない魔力の奔流を指先でなぞる。数箇所の摩耗した歯車に魔法油を差し、魔石の循環回路を微調整すると、塔全体が心地よい重低音を響かせて再び安定した拍動を始めた。


仕事を終えたリエイを待っていたのは、夕闇に包まれた馴染みの酒場だった。

マイルズと向き合い、地酒のグラスを傾ける。


「そういえば、カイルの奴はどうしてる?」

「ああ、あいつは隣国の騎士団で教導官をやってるよ。相変わらず堅物すぎて、部下に怖がられてるらしいがな」


かつての仲間たちの近況に花を咲かせ、リエイの心は久しぶりに解き放たれた。

職人として、門番として、そしてかつての冒険者として。

多くの顔を使い分けながら、彼はこの街と迷宮のバランスを守り続けている。


「……いい夜だな、マイルズ」


「全くだ。お前がこの街にいてくれて、本当に良かったよ」


二人の笑い声は、新調された時計塔が刻む規則正しい音の中に、穏やかに溶けていった。


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