repair.2 『不協和音の魔法鈴』
若手戦士を見送ったリエイは、作業台の端に置かれていた小さな木箱を引き寄せた。中から取り出したのは、銀色に輝く手のひらサイズの鈴だ。一見すると傷一つない美品だが、これを持ち込んだおっとりとした魔導師は、困り果てた顔で「音が、なんだかおかしいんです」とこぼしていた。
リエイは鈴の紐を指先で持ち、軽く揺らしてみる。
チリン、と鳴ったその音は、確かにどこか濁っていた。澄んだ高音の裏側で、ザラついたノイズが耳を撫でる。
「……なるほど。これは物理的な破損じゃないな」
リエイの瞳が、鑑定の集中とともにわずかに鋭さを増した。
かつて迷宮の深層で、罠の配置や魔力の揺らぎを瞬時に見抜いていたその精密鑑定は、今、鈴の内部へと向けられる。表面の銀細工を透過し、その奥に張り巡らされた極細の魔力回路を視認した。
案の定、回路の一部が熱で歪み、本来通るべきではない経路に魔力が漏れ出している。構造解析の結果、迷宮内の強力な魔力干渉を受けた際に、回路が一種の過負荷を起こしたのだとリエイは断定した。
「無理をさせたんだな。主を守ろうとして、許容量を超えた魔力を流した跡がある」
リエイは使い込まれた細い銀の針を手に取った。
集中を研ぎ澄ませ、針の先に自身の魔力を微細に宿らせる。そのまま鈴の底にある小さな穴から差し込み、目に見えないほど細い回路の「絡まり」を一本ずつ丁寧に解きほぐしていった。
リエイの修理は、単に繋ぎ直すだけではない。次に同じような負荷がかかっても耐えられるよう、魔力の逃げ道となるバイパスを新設するまでの調整を含む。それは、道具の命を繋ぎ、その可能性を広げる作業だった。
ふう、とリエイは短く息を吐き、再び鈴を鳴らす。
チリィィン……。
今度は、秋の夜空のように澄み切った音が作業場に響き渡った。濁りは消え、余韻までもが心地よい旋律となって空気に溶けていく。
「よし、これでいい。あのおっとりした魔導師さんなら、この音を聞けば使いすぎにも気付いてくれるだろう」
リエイは満足げに頷くと、鈴を柔らかい布で拭き、元の木箱へと収めた。
修理を終えた道具たちが、再び主の元へと戻り、迷宮の闇を照らす助けとなる。その循環の一部であることを、リエイは誇りに思っていた。窓から差し込む夕日は、作業台に並んだ工具たちを黄金色に染め上げ、リエイの静かな時間を優しく彩っている。




