repair.18 『銀の滴と歴戦の鎧』
ニーリルが店を訪れ、二人が門番としての重い沈黙を共有していたところへ、ノエルが差し入れを手に現れた。驚愕する弟子をニーリルが茶目っ気たっぷりに迎えていた、その直後のことだ。
さらにもう一人、見慣れた顔が扉を叩いた。
リエイが馴染みにしている薬屋の店主、メディスフィーナだ。彼女もまたハイエルフであり、その瑞々しい美しさはニーリルやノエルと並ぶと、まるで三姉妹のようにさえ見える。
「リエイ、頼まれていた魔法油を持ってきたわよ。魔法銀をなじませるには、これ以上の精製度のものはないわ」
メディが信頼を込めて小瓶を差し出した瞬間、彼女の視線が店内に佇むニーリルとぶつかった。
二人のハイエルフは、一瞬だけ驚きに目を見開いたが、すぐに昔馴染み特有の深い信頼がこもった笑みを交わし、短く頷き合った。
「……あら、ニーリル。あなた、どうしてリエイの店に?」
「ふふ、メディ。相変わらず薬の調合に明け暮れているようだな。実は弟子の手紙を読んで、ここの主人の腕を確かめたくなってね」
積もる話は尽きないようだったが、ひとまずニーリルは、ノエルが間借りしているメディの薬屋の二階、ノエルの隣室に厄介になることで話がまとまった。
四人は作業場の小さなテーブルを囲み、ミートパイとリエイが奮発して淹れた最高級の茶葉による紅茶で、賑やかな午後のひとときを楽しんだ。職人と魔導師、そして薬師。それぞれの専門知識が飛び交う会話は、どこか心地よいリズムを持っていた。
ささやかなお茶会がお開きになったところでリエイは気持ちを切り替えた。
「良い気分転換になった。さて……少し、自分の道具も診ておかないとな」
早速リエイはメディから受け取った魔法油を手に、作業台へと向かった。
今回、彼が修復の対象に選んだのは、自身の装備だ。二年前、現役のアナリストとして迷宮を駆けていた頃の胸当て。今も毎日の鍛錬を欠かさないリエイにとって、それは単なる防具ではない。
胸当ての中央には、特殊な仕掛けが組み込まれている。それは、リエイの空間把握能力を広範囲に、そして通常よりも遥かに明瞭に増幅させる、彼の生命線ともいえる魔導具だ。
「最近変化のあった場所の確認には行かないとだからな……。感度の調整は必須っと」
リエイは独り言をこぼしながら、魔法油を極細の筆に浸し、銀の彫刻が施された増幅回路に丁寧に塗り込んでいく。
魔法油が銀の表面に溶け込み、鈍い輝きを取り戻していく。リエイは新スキルの時層同調を極めて微弱に発動させ、自身の魔力と胸当ての同期を微調整した。
(よし……。十五層までの構造データは頭に入っているが、迷宮は常に呼吸している。これなら、わずかな淀みも見逃さないはずだ)
手際よく補強を終え、胸当てを装着してフィット感を確かめる。
職人としての顔から、かつての鋭いアナリストとしての顔へ。リエイの瞳に、岩山ダンジョンの深淵を見据えるような静かな光が宿った。




