表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

エターナ・デュアル


「ルディン社長、風邪ですか? それとも、昨日の蛮族メイクが肌に合わなかったとか?」


「……いや、体調は万全だぞ、テオル。顔色が悪いのは……心の問題だ」


俺が立ち上げた武器製造会社『ルディン・ワークス』の工房。

魔導炉の唸る音と火花の匂いに包まれても、俺の胸に居座るモヤモヤは一向に晴れなかった。

作業台に向かう俺の首元に、女性社員のミーナが興味津々で顔を寄せてくる。


「あれ? 綺麗なネックレスですね〜! 社長、ついに意中の相手でも?」


「ああ、これは……『イタクネックレス』というらしい。駆動させると顔面の神経をバグらせて、痛覚を抹消する魔道具だ」


「ひえっ!? なんでそんな、拷問官の趣味みたいな代物つけてるんですか!?」


「妹からの……プレゼント、のようなものでな」


それをきっかけに、工房内はアクセサリー談義で盛り上がり始めた。

「見た目が大事だ」「いや、使い勝手だ」と、魔道武装を鍛造する手を動かしながら、賑やかな声が響く。

俺はハンマーを置き、ふと漏らすように聞いた。


「なぁ。もしお前たちの家族が、親からやりたくもない事を強要されてたら、どうする?」


「私なら何もしませんね。弟がいますけど、人生は自己責任。甘やかすつもりはないんで〜」


ミーナはあっさりと答える。

隣で魔石を磨いていた若手のテオルが、少し考えて口を開いた。


「僕は、裏方に回る気がします。愚痴に付き合ったり、悩みを聞いたり。逃げ道を作ってあげるのが、助けになるかなって」


それぞれ違う考え方だ。

どれが正解とも、間違いとも言えない。

当然、俺の考えも違っていた。


「……説得して、無理やり辞めさせるってのはどうだ?」


「それは一番ダメですよ、社長」


「え!?」


ミーナが真顔で釘を刺す。


「それ、ありがた迷惑の典型じゃないですか〜? やりたくないこと=悪いこと、とは限りませんし。自分の行動は、自分で決めてこそですよ」


「…………」


ぐうの音も出ない。彼女の言う通りだ。

リシアはリシアなりに覚悟を持って実家へ戻った。

その覚悟を、俺の勝手な善意で踏みにじっていいはずがない。

わかっている。

わかっているのだが。


―――納得がいかないんだ。


「ならミーナさん、僕は反論してもいいですか?」


テオルが俺にチラと視線を寄越すと、呆れたようにフッと笑う。


「なんだよ? テオル」


「『自分の行動は自分で決める』のが大事なら、『社長が妹を連れ戻す』という行動も、社長の自由じゃないですか?」


「……っ」


するとミーナは「テオルくん、それは独善的よ〜?」と眉をひそめる。


「相手のためになるかなんて、相手にしかわからないんだから」


「それでもいい、と僕は思います。だって、望まれた時しか助けられないなら、そこに『意志』なんてないじゃないですか。……社長、いつも言ってますよね。『ビジネスの価値は、意思の創造だ』って。何が必要とされるか、何を大事にさせるか。それって、独善的な人間じゃないとできないですよ」


テオルが、真っ直ぐに俺を見た。


「ルディン社長って、元から独善の塊みたいな人じゃないですか」


「…………」


俺ってそんな風に見られてたのか。

確かにテオル含め、従業員にはだいぶ無理も行ってきたけど……。


「……はは」


でも。

その通りだ。

俺は、確かにそんな人間だった。


「確かに……そうだな。俺って、そういう奴だったわ」


目が覚めたような気がする。

こんなことで悩むなんて俺らしくない。

6年前に親父の家を飛び出して、自分の腕一本で会社を作った俺が、今更「正しさ」なんて気にしてどうする。

リシアにとって良くない結果になるかもしれない?

だったら、リシアも俺も、納得できる落とし所を見つけるまで足掻けば良いだけじゃないか。

理屈じゃない。

俺が「どうしたいか」、それだけの話だった。


「ありがとう。……なんか、スッキリしたわ」


「それは良かったです。じゃあスッキリしたついでに、山積みの受注表も見てもらえます?」


テオルが意地悪く笑いながら、分厚い書類を差し出してきた。


「今回作るのは、貴族の護衛が使う『双剣』だそうです。うちでは初めての鍛造になりますからね……。社長、名前はどうします?」


名前、か。

適当でも良いが、顧客満足度の為にも納得感のあるものにしなければ。

と、その時ミーナが「ハイハーイ」と手を挙げた。


「思いつきましたよ! 『エターナ・デュアル』なんてどうですか?」


「……どういう意味だ?」


「古い言葉で、『二人はずっと一緒』って意味です。バラバラに動いても、本質は一つ。そういう双剣、素敵じゃないですか〜?」


「エターナ・デュアル、か……。悪くないな」


俺はイタクネックレスを指で弾き、火の入った魔導炉に向き直った。


「よし、みんな、仕事だ! 独善も自己満足も上等。最高の双剣を作ってやろうぜ!」


バラバラになってしまっても、収まるところは一緒がいい。

それが兄妹ってもんだろ、リシア。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ