表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

『記憶の回廊第4章 幸を求め 【4】社長に未来を託す

人生の節目には、過去と未来を結ぶ大切な対話があります。

颯太は故郷での体験を胸に、柳社長へ自らの思いを語り、信頼と励ましを受け取りました。

また、結婚という新たな門出を決意し、その背後で支えてくれる人々の存在に心を動かされます。

仕事と家庭、そして未来への希望が交差する場面です。


『記憶の回廊』第4章 幸を求め 【4】社長に未来を託す

留萌での日々を終え、颯太と恵子は東京に戻った。

父の「年に一度会いに来てくれれば十分だ」という言葉、母の「娘ができて嬉しい」という笑顔――胸の奥に温かな余韻が残っていた。

数日後、颯太は社長室に柳社長を訪れた。

「失礼します」

「おう、鈴木君、留萌はどうだった?」

社長は机から顔を上げ、穏やかな視線を向けてきた。

「はい。恵子も父母に会えて嬉しそうでした」

「営業所には旧友が勤務していました」

「街の現状は思っていた以上に厳しく思いました。人口は減り、新しい事業の芽も見つからず……正直、胸が痛みました」

「そうか。地方はどこも似たような課題を抱えている。で、お前はどう感じた?」

社長の問いに、颯太は一呼吸置いて答えた。

「故郷を見捨てたくはありません。ただ、今の自分には大きな力はないと分かりました」

「だからこそ、自分の力をつけて、いずれは会社の仕事を通じて故郷に関わりたい。そう考えるようになりました」

「北海道は未開発の地域もあり、工夫しだいで新しい事業の可能性があるのではと思いました」

「友人も在社しています、きっと力になってくれると感じました」

「ご両親との生活については、相談はしたのか?」

「同居については、『それが目的で颯太を養子にしたのではない。颯太の向学心に期待した、前に進む姿を見ていたい』と言って受け付けませんでした」

柳社長はゆっくりとうなずき、椅子に背をあずけた。

「うん、素晴らしいご両親だ、それを無にするなよ」

「営業所についても、そういう思いを持つこと自体が貴重だ。いずれ必ず活きてくる」

「ありがとうございます、これからもよろしくお願いします」

颯太は少し安堵したように息を吐いた。

「それと……私事ですが、結婚式を考えています。彼女と共に歩む人生を大切にしながら、仕事にも誠実でありたいと思います」

「そうか。それはめでたいな。家庭を持つことは、仕事を続けるうえで大きな力になる。安心して励めばいい」

柳社長の言葉は、父からの励ましと重なって聞こえた。

颯太は深く頭を下げ、胸に小さな決意を刻んだ。

翌日、颯太は桑崎教授を訪ね、特許の最終確認をした。

「これで今回の書類は完成されました」

「一安心ですね」

教授は微笑んでから、ふと尋ねた。

「そう言えば、鈴木さんは留萌に行かれてどうでした?」

颯太は父からの提案や、社長に報告した内容を詳しく話した。

「その折に、結婚式を挙げたいとお伝えしました」

「二人には親族も少なく、招く人も居ません。ですから軽井沢の教会で、ひっそり挙げたいと思っています」

「社長に話したのですか?」

「この件は、まだお話していません」

「それは少し寂しいですね。せめて私と柳社長ご夫妻にお願いしたらどうですか」

「私からは言えません」

「任せてください」

教授の温かな言葉に、颯太は胸の奥が熱くなるのを感じた。


この回では、颯太が「自分の人生をどう築くか」を考え始める姿を描きました。

社長との対話は彼の道を照らす羅針盤となり、教授の思いやりは、孤独になりかけた心を温かく包みます。

結婚式を控え、颯太と恵子の歩みは確かな形となり、物語は次の大きな転機へと向かいます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ