第一
先生は、松尾修造といいました。ですが、先生は自身の名前を気に入っていないのか、存じませんが名を呼ぶことにあまりいい顔はなさらなかったのです。先生は随分よい性格をなさっておりましたので、仕返しとしてここでは「松尾さん」とお呼びするかと迷いましたが、先生に恨まれては来世が不安になりますので、ここでは彼のことを「先生」とおよびいたします。
先生は古風な文を書く方でいらっしゃいました。先生の選ぶ言葉は一つ一つ特別のように感じられました。今では珍しい文を書いては出版社に持ち込み、単行本になり街行く人が本を買うのを何度も目にしております。その光景を見るたび私と先生はくすりと笑い、そのものたちをばかにしているに等しかったのです。えらそうに申しておりますが、私も先生の本に魅了されては、すぐに弟子入りをしたものですから、お恥ずかしいものです。裏では先生はそのようなものを嘲笑うなんともいい性格をなさっていたのですから。
私は先生をお慕いしておりました。この気持ちは恋愛的なのか否か今では知る余地もございません。ですが、先生と一緒に暮らした時間はどれも美しいものだったと身に染みております。
先生もパンケーキがお好きでした。私もパンケーキが大好きでしたが、お金がなくパンケーキは1度しか食べたことがなかったのです。
最後に食べたのは幼少期の頃でほとんど味を忘れてしまっていたのですが、先生は少し高いパンケーキ屋に入り、私にパンケーキをくださいました。久しぶりに口にしたパンケーキの味を今でも覚えております。私は先生のような文才はございませんので、言語化するのは控えてさせていただきます。
先生との記憶は多々あります。ページをめくるごとに少々胸が痛くなり、時には重くなる時も御座いますがここに綴らせていただきます。