0.プロローグ
目の前で繰り広げられている光景に、男の心拍数は更に上昇していく。
「行け、死ね!」
誰にも聞こえていないと分かっていても、声に力が入っていた。
むしろ誰にも聞こえない独り言だからこそ、こんな言葉を躊躇なく言えるのかもしれない。
「あ、クソ。逃げやがった」
こちらが武器の入れ替えをしている隙をついて、標的は自分の間合いから逃げ出してしまった。
だが、気を落とす必要はない。
すでにダメージは与えている。
そう遠くまで逃げられはしないはずだ。
次は確実に仕留めてやる。
準備を入念にしてから、標的のあとを追う。
予想通り追いつくのは容易だった。
だが、標的の姿を再度目にした時、男にとっては好ましくない状況になっていた。
「ライバル出現かよ……ムカつくな」
自分以外の存在が、すでに標的を襲撃していたのだ。
先ほど討ち損じたのはやはり痛手だったと舌打ちしながらも、男も準備していた装備で攻撃を始める。
ライバルと共に何度も何度も攻撃を加えると、標的は次第にあらゆる箇所から血を流し始めていた。
『やめてくれ……っ! なんで私が、こんな……やめ……死に、たくない……っ!』
標的の弱弱しい叫び声が耳に入ってくる。
息も絶え絶えだが、魂の叫びと言っても過言ではない、真に迫った口調だった。
「へえ、こんなことまで言うのかあ。よくできてんな」
よく見れば、標的はこちらに懇願するような表情すら向けていた。
まるで、本当に命乞いされていると錯覚すら覚えるほどだ。
「けど、死ね」
だが、男に攻撃を止める気など微塵もなかった。
標的の言葉からその時が近づいていると感じ、かえって気分が高揚していく。
それからしばらくもしないうちに、標的の体から力が抜け、地面に崩れ落ちた。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! とどめを刺すのは俺だ!」
言いながら振り下ろされた武器は、標的の頭部に直撃した。
途端、男の目の前には大きな文字が映し出された。
『おめでとうございます 任務完了です』