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書いている最中、ずっと◯GOのケルヌ◯ノス戦のBGMを聞いていたので「そうだ!ヌンノスみたいなのだそう!」ってなってしまって・・・楽曲とは人間に刺激を与えるものですね。

振動として伝わっていた破壊音は収まってきたけど、人々の声が大きくなっていく。悲鳴や怒号がざわざわと響き渡って、部屋に引きこもる私にも絶えずに届く。

何かが起きた。たぶん、それはセルジュ王子が起こした。議会室で聞こえた轟音のあと、モフとのリンクが強制的に途切れたから。

でも、その前にお父様の結界が崩壊して、呻き声と悲鳴が、トーマも何か言っていて、何が、何かが起こった・・・。

胸が痛い。ドキドキしている。不安で、怖くて、吐きそうになる。

でも、ただ座っているだけじゃ何も分からない。お父様は無事なの?お兄様は?議会室にいた人達は?トーマと一緒にいたモフとリンクが切れたんだもん。モフとトーマにも何か起きて・・・ああ、外から聞こえる人々の声が胸を締め付ける。


(お、落ち着いて・・・落ち着くの・・・)


それだけを思って深呼吸を繰り返した。目を瞑って、ゆっくり、ゆっくり・・・何度か呼吸して再び目を開く。握り締めた両手の上にいるチュピが、心配そうに私を覗き込んでいた。


まずは知らないと。響き渡った建物が倒壊したかのような破壊音。終わらない喧騒。その正体を知って、それが議会室で、王城で起こったことなのかと確認しないといけない。

握り合っていた両手を解いて、片方の手の指でチュピのふわふわな頭を撫でた。私の小鳥は気持ちを汲んでくれたみたい。ぴょんぴょんと跳ねながら体の向きを変える。飛び立ちやすいように、丸い背中を見せる。

私はソファから立ち上がる。指の背に留まっているチュピが落ちないように、もう一つの手で支えながら、部屋に一つしかない窓に向かった。窓を開いて、小鳥の乗る手を外に出す。


「王都の様子が見たいの。空から王城・・・この前、忍び込んだ建物は覚えてる?その建物を中心に街の様子を見せて」


短い鳴き声を上げてチュピは飛び立った。まるまるした体で懸命に翼を羽ばたかせながら、どんどん離れていく。


「・・・ふぅー・・・はぁ」


深呼吸。冷たく新鮮な空気を取り込むことで頭を冷やす。ずっとドキドキしている心臓も落ち着くように言い聞かせて、胸を撫でた。


(大丈夫、何があっても取り乱したりしない)


自分に言い聞かせて、私はチュピの目とリンクした。


(・・・何、これ)


衝撃は大きい。理解できないと頭がパニックになりそうになる。あり得ない、見たくなかった光景が私の目に映った。


白亜の王城。王都の中でも一番壮麗で巨大な城が崩壊していた。左右にある大きな二つの塔が天を突いていた立派な王宮が、半分瓦礫の山と化している。他の建物、王家の人々が住む奥の舘や城壁がどうなっているか分からない。

何故なら、その瓦礫の上に陣取る者の姿が巨大すぎて見えないから。

黒い塊。はっきりとした姿じゃなくて塵が集まって姿を形成していて輪郭は朧気だった。それでも、爛々とした赤い光を宿す二つの目と、塊から伸びている二つの腕がダラリと瓦礫に伸びていると分かる。

あれが何かは知っている。前世で見た。ゲームで見た。あれは闇の集合体。この世ではない闇の世界にいる魔物で、魔女のリスベットが召喚する破壊の化身・闇の巨人だ。

なぜ国を滅ぼすほどの力を持つ闇の巨人が出現したか分からない。だって、本来の召喚者のリスベットは私で、私には喚び出せない。闇との交わりなんて殆どなかった。

王子から逃げ出した道中、私を隠すように闇のマナがあったくらいで、闇の・・・待って、まさか王子の魔法?


「トーマが撤退を選ぶほどの一撃を与えたのは闇の魔法だった。あの魔法は闇との交わりがあると強力で・・・つまり」


闇の巨人をセルジュ王子が喚び出した?本来、光であるべき人が怒りと執着心で歪んで闇が引き寄せられた。世に言う闇堕ちを王子はしている。リスベットが呼ばれた「魔女」と同等の存在、「魔王」にセルジュ王子はなった?

そんなはずは・・・なんて思っても、あの巨人が何よりの証拠。つまり議会室を破壊するだけじゃなく、王城ごと破壊して、喚び出したあの巨人でこの国を滅ぼそうしている!


「お父様、お兄様・・・トーマ!」


中にいた人達は無事なんだろうか?あの崩落具合なら無傷ではいられない。例え魔法があったとしても発動まで時間がかかるし、それより前に屋敷の結界が消えたからお父様は!

ああ、苦しい、気持ちに潰されそうで吐きそう・・・でも、でも!しっかりしないと!落ち着かないと!!


(・・・巨人のせいで見えないけど、これ以上チュピを近付けさせるわけにはいかない)


呼吸することを意識する。取り込む空気が、パニックになりそうな頭を冷やしてくれた。

闇の巨人はまだ動いていない。召喚されて間もないから意識が定まっていないのかもしれない。だけど、一度動き出せば、大変なことになる。あの太くて長い腕を振り上げただけでも王都に甚大な被害が及ぶ。動いただけで体を蝕む呪いを撒き散らし、どんな城塞でも破壊できる力を秘めている。だから猶予はあるはず。動く前に・・・いや、違う!


チュピが映す王都の様子で分かった。人々は闇の巨人にのみ恐れの声を上げてるわけじゃない。

最初はそうだったとは分かる。倒壊した王城と出現した闇の巨人に驚きと恐怖で声を上げていた。

でも、今は違う。王都の道、家屋からゆらゆらと揺らめく無数の黒い影から分かった。

黒い塵が人の形をしているようなもの。彼らは闇の巨人の分身。闇の眷属。巨大すぎて小回りが効かない親機のために、子機のようなもの達が分割されていた。無数のそれらが王都中に犇めいている。

巨人の出現に逃げる人、立ち止まっていた人、怯えて震える人、全ての人に闇の眷属達は襲いかかっていた。中には武器を持つ兵士や傭兵、魔法使いに取り憑く眷属もいる。融合されたことで苦しんだ者達は肌の色が変色して、体も膨張して、正気を失った顔で人々に襲いかかっている。

闇は命あるものすら残らず破壊するために人々すら利用し始めた。

終末が始まっている。ゲームの終盤で見た光景が広がっている。それを魔王となったセルジュ王子が引き起こしている。


「あっ!?」


近くで耳をつんざくような音が響いた。あまりの近さ、不快さに声が出てしまう。

鉄の軋む音。それが絶え間なく聞こえて、怒るような声が上がる。私の屋敷の側でも闇の眷属が暴れている。


(チュピ、私達のお家の方を見せて)


指示を出せば、チュピは振り返ってくれた。上下する視界に私がいるグラン家の屋敷の全体が映る。黒い軍勢が差し迫っている。すでに到達していた闇の眷属、闇に取り憑かれた兵士達が屋敷を囲う鉄の柵を破壊しようとしといた。

それに警備の魔法使い達が応戦して、黒い装束のアサシン達も加わっている。屋敷を守ろうとする戦いが始まっていた・・・だけど、


「何でこんなに数が多いの?」


目に映ったどの建物よりも闇の眷属が群がっているように見える。落ちた果物に集るアリの群れのようだった。この屋敷が彼らにとってご馳走だってこと?もしかして、他よりも魔法使い達が多いから活動するために魔力を奪おうと・・・。


「違う」


そこまで考えて、ふと気付いた。

目的は魔力補填じゃない。お父様直属の魔法使い達は優秀な人達。国内でも名を馳せているような人ばかりで、そんな人達から魔力を奪うために襲うなんて「燃費が悪すぎる」。戦闘なんてすれば、活動するための魔力をかなり消費するはず。

それに闇の眷属達は加減をしてない。どんなに倒されようとも、融合した兵士の身が裂かれても、屋敷を目指して迫っていく。歩みも攻撃にもブレーキがない。

屋敷に向かって・・・ああ、そうだ。この屋敷にあるものを目指している。


「・・・私が目的なんだ」


喚び出された者達は召喚者に従う。彼らの親たる闇の巨人を喚び出したのはセルジュ王子。

あの人が私を求めてるから、闇の眷属達は私を手に入れようとしている。


「ここが一番危険だわ」


そうとしか考えられなかった。

もう屋敷全体を守ってくれていた結界はない。部屋には結界石は常に煌めいているけど、お父様の結界に勝るわけがない。

このままじゃいけない!ここから出ないと、避難させないと!


(チュピ、どこか背の高い建物で休んでて。黒くてもやもやしたものが来たら逃げてね・・・私がいいって言うまでお家に戻ってきちゃ駄目よ)


チュピを巻き込ませるわけにはいけなかった。モフだって、あの子は無事なのだろうか?あんなことが起こるなんて思わなかった。連れて行ってなんて・・・ああ、トーマ。あなたは無事でいてくれる?無事だよね?だって、強いもん!あんな崩壊なんかで死ぬはずがない!大丈夫、大丈夫だから・・・。


「・・・パニックになっちゃ駄目」


動揺で胸の鼓動が早まる。それに気付いたから私は深呼吸をした。チュピとのリンクも切る。

私の視界には色んな物が混在するテーブルがあった。その中に、聖なるマナが溢れる美しい結晶がある。私を守ってくれている結界石。

その結界石を手にして部屋を出る。気持ちに押されて早まる足取りをそのままに、駆け出すように屋敷の廊下を進んだ。

やるべきことができた。私にしかできないこと。私だからやらなくちゃならないこと。


進む私の目に、廊下の奥から駆け寄ってくるメイドさんが映った。私付きのメイドさんだ。

不安で堪らないと涙を浮かべた険しい顔。その顔が私に気付いたことで目を見開き、走る速度を早める。ぶつかりそうになるけど、流石はうちのメイドさん。手前で止まって私の体を抱き止める。


「ああ、お嬢様!大丈夫ですか?!ご不安でしょう!」


「・・・私は大丈夫です。あなたは少し思い詰めていますね」


背中に手を回して優しく叩いた。精神が不安定になっているから宥めたつもりだけど、逆に泣かれてしまう。


「お、お嬢様ぁ!ど、どうしましょう!大きな音が響いて、王城が、旦那様とアシュレイ様が、あと御者の〜」


声を震わせて泣く彼女の背中を撫でる。落ち着いてほしくて、その手は止まらない。


「落ち着いて、落ち着くの・・・深呼吸をして。ゆっくり空気を取り込んで、ゆっくり吐く・・・」


私の声に合わせてメイドさんが呼吸をする。嗚咽すら漏らしていた彼女は段々と落ち着いていった。しっかりと息ができるようになったから体を離す。

見えた顔は赤く、目には涙が浮かんでいたけど、もう動揺した様子はない。


「大丈夫ですね?」


「はい・・・っ、大丈夫です。ありが、とうございます」


声を出せば震えてしまうようだけど、私に向ける眼差しはしっかりしていた。


「ど、どうしますか?これから・・・外は危険です。魔法使いの方や、アサシンの方が防衛してくださって、ますけど・・・黒いモヤや変な兵士が、いっぱい詰めかけていて」


「他の方達を探しましょう。一緒にいれば、あなたの感じる不安も収まります・・・御者の方はお父様達と王城に行かれたのですね?では、ソニアさんと他のメイドさんはどちらにいるか分かりますか?」


「はい、御者は王城です。他の者はそれぞれお屋敷で仕事をしていたと思います。調理と、掃除・・・私はお嬢様が心配で、お部屋に窺おうとしましたから他の者とは離れて・・・本日はまだお見かけしていませんでしたが、ソニア様はアシュレイ様のお部屋にいたはずです」


「そうですか。では、お兄様のお部屋に向かいましょう」


御者の方も含めてお父様達の様子は分からない。だから、先ずはこの屋敷にいる人達のことを考えないと。

メイドさんの手を引いて廊下を進み、階段を降りる。

後ろから鼻を啜る音が聞こえる。時折「申し訳ありません、お嬢様」とか細い声が聞こえる。

彼女はまだ若い。私とあまり変わらない年齢だから、窮地に陥ったときの対処なんて分からない。そんな経験がないから不安で心細いのだろう。

だから、しっかり先導して上げないといけない。私がどっしりと構えてないとメイドさんは更に不安になってしまう。


「気にしないで下さい。ほら、足元に気を付けて。ゆっくり降りましょうね」


従ってくれる彼女に笑顔を向けた。引きつっていないことを祈ったけど、大丈夫みたい。

メイドさんもホッとした顔になって、ゆっくりと階段を降りることが出来た。

さて、お兄様の部屋は・・・あ、人が集まってる。


視線の先は六人ほど。

近付きながら様子を窺えば、廊下に座っているメイドさんにソニアさんが対面して身を屈め、他のメイドさんが覗き見ている。

あと一人加わっていた。身長は子供くらいだけど黒装束を着ている。だからアサシンだろう。ソニアさんの護衛をしている人かな?

取りあえず、屋敷にいる人達は全員見つかった。


「骨折はしておりません。足を挫いたことで筋を痛めただけですね・・・はい、これで治ったはずです。まだ痛みはありますか?」


「いえ、もう痛くありません。ありがとうございます、ソニア様。このようなご迷惑をおかけして申し訳ございません」


「お気になさらないで。怪我をされた方を治すのがヒーラーの務めです」


どうやら座っていたメイドさんの治療を行っていたらしい。こんな時でも落ち着いて処置ができるなんて流石だわ。


「立てますね?では、お嬢様を!」


「ロナが・・・あ!お嬢様です!」


振り返ったメイドさんが私に気付くと、順々に他の人が気付いてくれた。顔を向けてくる皆に足早に近付く。手を握り合ったメイドさんも歩調を合わせてくれた。


「皆さん、ご無事ですか?」


「お嬢様ぁ!」


「私は怪我をしてたんですが、ソニア様が治してくださいまして!!」


「王城でのことはお耳に入られました?!」


「これ!お嬢様の不安を煽るようなことを聞いてはなりません。お嬢様、大丈夫ですよ。我々が付いておりますから。この身が果てても必ずお守り致します!」


口々に話されてどう返したらいいか分からないけど、皆元気だ。不安はあってもしっかりしようとしている。


「・・・私は大丈夫です。彼女が寄り添ってくださいましたから」


連れてきたメイドさんに目配せをする。瞬きを繰り返していた彼女は、ハッとして背筋を伸ばした。彼女なりにしっかりしようと頑張っている。

そう、しっかりしないと。下手な行動をすれば、私もソニアさんもメイドさん達もピンチに陥る。最悪、殺されてしまう。


「ロナが・・・お嬢様をここまでお守りしたのですね。良かった。お怪我もないようで安心致しました」


ホッとした一番年上のメイドさんに頷くと、ずっと握っていたメイドさんの手を離してソニアさんに近付いた。

座っていたメイドさんを支えながら立ち上がった彼女は穏やかな顔をしている。落ち着いていた。


「外の様子はご存知ですか?」


「ええ、メイドの方々から聞きました。王城を破壊した黒い巨人。黒い靄のような存在が現れ、人に取り憑いて暴れていると」


「あの者達が何者かご存知ですか?」


「闇の巨人とその配下の闇の眷属ですわ。本来ならば、この世界には存在しない闇の世界の住人。彼らは召喚魔法を用いて世界に介入します。ですから、誰かが我が国を滅ぼすつもりで召喚した。あれは破壊の化身ですから・・・召喚者は王城にいた人物でしょう。城の崩落と共に現れたと聞きました」


そこまで知っていて穏やかなまま・・・ああ、少し震えている。そうだよね、ソニアさんは人が傷付くことを嫌う人。その心根のせいで攻撃魔法すら覚えられない。そんな人が、破壊の化身の出現を怖がらないはずがない。

落ち着き払った様子を努めることで、他の人が慌てないようにと示している。強くあろうとしている。

気が引き締まる。私の気持ちも押された。


「その闇の眷属が当家に差し迫っています。魔法使いとアサシンの方々が抑えてくださっていますが数が増える一方です」


ずっと黙っているアサシンの人を見た・・・女の人だったんだ。青い瞳をした真剣な顔。それが凄くクールで美しさを・・・いや、そんなこと思ってる場合じゃない!美人を見たら見惚れちゃう癖を治すのよ、私!


「一箇所でも突破されていまえば、一気に雪崩れ込むでしょう。お父様の結界も崩壊してしまいました。接近されたら私達には抗う術がありません」


「ああ、やはり結界は・・・」


私とソニアさんのやり取りに、周りのメイドさん達が息を漏らす。恐怖から身を震わせていた。


「ですから、私達はこの場に留まってはいけません。この屋敷には、有事の際の逃亡用に隠し通路があります。私も幼い頃から父に指導を受けたので通路の場所は分かります。他の方は?」


「わたくしが・・・旦那様より管理をするように仰せつかっておりました」


年上のメイドさんが手を上げた。彼女へと顔を向けて頷く。


「案内をお願いします。皆さんで一緒に逃げましょう」


「逃げると言っても外にはモヤモヤが沢山いますよ?」


「すぐに脱出はしません。通路内で暫く潜伏しましょう・・・安全が確保できましたら外に出るのです」


「安全ですか?」


「私達のことを守ろうと魔法使いとアサシンの方々が戦って下さっています。彼らがいるのですから大丈夫」


またアサシンの女の人を見た。しっかりと頷いてくれたから大丈夫。彼女に笑みで返して、ソニアさんの手を引いた。


「行きましょう」


「・・・ええ」


「さあ、こちらに」


年上のメイドさんの先導のもと足を進める。私とソニアさんを囲うように他のメイドさんが歩いて、アサシンは後ろからついてきてくれた。周囲を警戒してくれてるから、きっと大丈夫。

そう思いながら、屋敷内を歩き続けた。逃走用の通路がある場所は遠くて、私もあまり行かない屋敷の東館の奥、使われていない家具が収められていた倉庫の中にある。メイドさんが棚をずらして、通路の入り口を開け放ってくれた。


「他のアサシンも参りました。お嬢さん方はこのまま。あたしが中を改めます」


ハ、ハスキーボイス!しかも眼差し鋭くて、話し方が姉御肌っぽい。え、このアサシンの女の人、推せる・・・じゃない!


「・・・お願いします」


冷静に、努めて冷静に返事をした。

頷いた彼女は通路に入り、それと同時に私達を守るように二人のアサシンが背後に立っていた。二人とも男の人・・・あ、一人はこの前の赤い瞳のアサシンだ。


「南側が突破されそうだ。安全が確保できたらリスベット様とソニア様を先に」


「メイド達は武器を・・・使えそうにないな。俺とこいつで守りますので、落ち着いて行動してください」


淡々と、冷静に言ってくれる。それに触発された皆の気持ちも落ち着いていた。ちょっと息は荒いけど、それは落ち着こうと呼吸を意識的にしているだけ。

大丈夫だって感じた。皆、和を乱さずに協力し合ってるから、きっと大丈夫。

通路を確認したアサシンが戻ってきた。


「通路内部は問題ない。ただ、東側の柵に近い。中間点で潜伏したほうがいいな」


「そうか・・・さあ、リスベット様、ソニア様。彼女に続いて中へ」


私はソニアさんの手を離した。先に行くように促す。


「リスベット様?」


「先に行ってください・・・あなた方もです」


「え?」


一歩退る。あ、アサシンと体がぶつかっちゃった。

上を見上げれば、怪訝な顔に覗き込まれる。


「何のつもりですか?ソニア様にもメイド達にも悪いが、まずはあなただ。我々からすれば、あなたこそ確実に守らなければならない最重要人物です」


「あなたの主は兄でしょう?ソニアさんを守ってください。兄の恋人です。次に恐怖で怯えているメイド達。戦う力などない一般人です。本来ならば最優先で守るべき人々ですよ」


手が掴まれて、通路に行くように引かれる。でも、私は動かない。


「抵抗は止めてください。俺が加減をしなければ、あなたの細い腕なんて簡単にへし折れます」


「へし折られようとも私は回復魔法が使えます。先に彼女達全員を通路へ誘導して下さい。そうすれば、あなたのお話は聞きます」


「・・・言うことを聞くとは言わないのですね」


無言でアサシンを見つめた。

呆れ、かな?そんな感情から赤い瞳に睨まれる。


「お嬢様!早く通路に!」


「いかがされたのですか!?お嬢様が行かなければ我々は動きません!お嬢様を残して先に行くなど無理です!!」


メイドさん達が慌て始める。先に行かない私のことを心配して、どうしたんだと不安に思っている。

・・・少し強行しすぎたかな?でも、ここで踏み止まらないと皆、殺されてしまう。ああ、ソニアさんが近付いてきた。

不安と曇った顔。それでも、やっぱり眼差しは優しい。私の手に彼女の手が重なって触れてくる。


「何かを思われているのですね?」


頷く。私がやらなければ、ソニアさんを含めた皆を守れないから。


「端的に言います。私は皆さんと一緒に行動はできません。このまま私と共にあれば、皆さんは殺されてしまいます」


「なぜ、そう思われたのですか?」


「この屋敷に詰め寄る闇の眷属は他の家屋よりも多い・・・そうでしょう?」


アサシンを見上げる。赤い瞳は泳いだけど、ずっと見つめていたら根負けしてくれた。視線を戻して目を閉じる。それは肯定。

私はソニアさんに顔を戻した。


「彼らの目的は私です。私を手に入れて、主に差し出そうとしている・・・そのつもりだと私は確信しています」

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