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『・・・いかがしました、国王陛下』
国王にさっきまであった勢いはない。私は見えないけど、お父様が声をかけるほどだから何かしら変化があった・・・そうだ、知らないはずがない。
勢いに任せて殺されてしまった人達を呼び出そうとしたけど、王城の主である国王が王子の所業を知らないはずがない。殺人を犯していると思い出したから黙るしかなかった。下手なことは言えないと自重したんだ。
『・・・いや、なんでもない。続けるがいい』
上手く纏まらなくて投げた。そうとしか思えない。
ああ、だんだんセルジュ王子の立場が危うくなっていく。
『それでは死亡者について私からお伝えします。十四名は全て王城内で死亡しております。死因は事故となっていましたが、不自然な連続死に当家も遺体を改めさせていただきました。一目で魔法を行使されたと確認が取れています。つまり、何者かが魔法を用いて十四名を殺害してたのです』
カタリーナ様の言葉にざわつきが大きくなる。誰が、何のために、なんて先の話で傍聴人達は察していた。
『彼らもセルジュ王子に殺されたのでしょう』
『どういうことだ』
小さな呟き。地の底から湧き上がったような低い声はセルジュ王子のもの。怒りが彼の中で膨れ上がっていると分かる。
『リスベットのために用意した人員ですが、妹は幽閉地の砦から逃走した。もはや不要となった協力者達です。いくら追従していたとはいえ、口外無用など徹底はできない。あなたは口封じに殺害しようという考えに至り、実行したのでしょう』
『僕が殺したと決め付けるな。従者共がどう死のうが僕には関係ない』
『関係ないと切り捨てていいものではない。あなたの側仕えで、皆、異常な死に方をしている。自身の犯行ではないと仰るのなら、せめて疑問や恐怖などされたほうが自然だ。今のあなたの態度は異常です』
『先日は王子殿下の乳母をされたメイド長が死亡しました。遺体の状態は酷く、決して事故などと片付けてよいものではありません。それにも関わらず、古くから仕えていた者の死に対して軽率な有り様。殺人者でもなければ、王子殿下の冷徹さはおかしいと感じます』
お父様とお兄様、カタリーナ様までもセルジュ王子を追及する。傍聴人達からも非難の声が上がり始めていた。
追い詰められている。提示できたのは弱い証言と状況証拠だけなのに、王子が追い詰められていく。
『グランとローランドは手を組んでいるのか?どう思う、ラルゴ』
セルジュ王子の声の抑揚がおかしくなり始めていた。言葉遣いも強い。この人、そろそろ感情が爆発する。
『そう、ですな・・・当家は軍備に関わる一族。末端は兵役に就く者も多い。信頼関係にある王家に尽くすためですが、兵士の連続した不審死について一族内でも動揺がありました。その・・・王子殿下の近臣にとラルゴ家から三名選出しておりました。いずれも犠牲者となり弔いを』
『犠牲者とは言い間違いか?勝手に死んだんだ。事故死者と言うべきだろう』
『完全に殺害されたと分かる他殺体だ。国王陛下も王家も、忠義からラルゴ公すら隠そうとしたようですが、全てあなたに従っていた者達です。殺人者と嫌疑をかけられても仕方のないことだ』
何も言わなくなった国王と威勢の良さが失せたラルゴ公。あれほど王子の味方についていたのに、今は凄く頼りなくなってる。
『なぜ、簡単に追跡できてしまう犯罪を起こしたのか甚だ疑問だ。簡単な隠蔽すらされていなかった。王家は必ず自分を守るという慢心か、それとも内にある凶暴性から堪えることができずに犯してしまったのか。どちらかなど分かりませんが、セルジュ王子は容易く人を殺害できる精神性をお持ちのようだ』
『全て状況証拠ではありますが、あなたが殺人を犯したと示しています。これらは大変加虐的です。リスベット嬢の誘拐に関しても屋敷内の使用人達を虐殺する必要はありません。目撃者を恐れてのことだとして、皆殺しをするなどとおぞましく思います。王子殿下が指示されたというのなら、残忍と言わざるを得ません』
お父様とカタリーナ様が王子を罪人だと責め立ていく。
『確実な証拠もないのに何を言う、カタリーナ・ローランド。不敬の極みのような女だ。僕が不問となった暁には僕自らがお前を処断してやろう』
『その物言いが凶暴性の発露だとお分かりにならないのか』
『お前もだ、テオドール・グラン。お前が一番腹立たしい。一度ならず二度までも僕からリスベットを奪って・・・許さない、お前は絶対に許さない!!』
もう取り繕うことはできなくなっている。
怒れる本性を剥き出しにしたセルジュ王子。皆が声を震わせている。異常な王子だと恐怖していた。
『どんなに証拠がなくても、あいつは癇癪持ちのクソガキだ。自分の思い通りにならない、自分に対して挑むような奴は許せねぇ。怒りが抑えられずにキレ散らかす。だから、ちょっと追い詰めれば勝手に自滅してくれる・・・マジで考えなしの馬鹿だよな。親父にそっくりだぜ』
私に向けての言葉は凄く楽しそうだった。
トーマの言う通り、お父様とお兄様。そして、カタリーナ様の整然とした追及と証拠でセルジュ王子は追い詰められた。人間性のせいで彼はボロを出す。何も隠し通せなくなっていく・・・これ、トーマが考えた作戦なの?王子しか通用しなそうだけど、あまりに上手くいってしまって唖然としちゃった。
『このままでも充分だろうが、もう一押しするか』
え?まだあるの?そう思った瞬間、
『あのー!発言してもいいですかー?』
元気な女の子の声が聞こえた。次いで男の人が注意する声がする。誰だろう?発言の許可を求めているから傍聴人かな?
『いいだろう、話せ』
お父様が許可をする。それって国王の役目だと思うけど・・・まあ、発言できないくらい弱っているんだろうな。
『はーい、ありがとうございますー!では・・・私達、セルジュ王子の犯行を手伝った者です!側仕えの中で行方不明になっている兵士と魔法使いがいますでしょ?それでーす!』
「・・・は?」
思わず声に出てしまった。だって、いきなりだし、何かトーマが意味深なことを言ったら出てきたし、え?トーマの手の者?何で議会室にいるの?それに、行方不明の側仕えってことは、私が監禁された砦にいた人達ってことだよね?
議会室も驚きで騒がしくなっている。声の多さと大きさのせいで、犯罪者となった王子の精神状態は掴めない。
『立ち上がったのは鎧を着た男と長いローブを着た女。女は珍しいピンクの髪色をしている。砦で見かけたことがあるんじゃねぇか?あいつらは仲間の連続死を不審に思って逃走していた。王都近郊にある山林の集落に隠れ潜んでいたんだが、俺の部下が偶然見つけてな。王子の部下だって言うから保護していたんだぜ』
絶対に嘘。
トーマのことだから砦にいた兵士達のことを探っていたはず。殆どの人が殺されてしまったけど、生き残りがいると知って探し当てたんだ。
バルデルのアサシン達はこの国に根を張っている。どこにいても彼らはいる。だから、山林の集落だろうと絶対にいる。きっと逃げてきた二人を即座に発見して保護をした。
それにしても、ピンクの髪色の魔法使いは砦に結界を張った子かな?じゃあ、鎧の男の人は一緒にいた兵士でいい?聞いたことのある声だし・・・生きていたんだ。顔を知った人達だから無事だったことにホッとする。
『本人である確認をしろ』
お父様が指示を出して、何人が早足で歩く音。小さい話し声がして『証明を』『認識証が』と聞こえた。あとはボソボソしてるのと、周りの声のせいで聞き取れない。
『間違えありません!行方不明だった兵士と魔法使いです!』
女の人がはっきりと言えば、
『確認が取れてよかったですー!私達、謎の黒装束の人達に内緒で参加するように言われてましてー!もし証明できなかったらつまみ出されるんじゃないかって思ってましたー!』
魔法使いの子が大きな声で発するけど、謎の黒装束って・・・黒装束の時点でアサシン達しか考えられないじゃない。トーマと裏で繋がってると思われちゃうけど大丈夫なの?
『お前ははっきりと言い過ぎだ』
兵士の人が溜め息混じりに注意する。今までもこの子の言動に苦労していた感が滲み出ていた。
『えー、でも、この部屋に来たのは発言するためじゃないですか?つまみ出されたら意味ないでしょー』
『そのことを言ってるわけじゃなくてだな・・・』
『なるほど、無事の帰還を知らせるために馳せ参じたというわけだな。責任感のある者達だ』
『そうですー!流石グランのイケオジ様、話が早いです!』
イケオジ・・・この世界でそんな単語を聞くなんて・・・いや、実際にある言葉なの?この国の言語じゃなくて、そのままイケオジって言ってるんだけど?
まあ、彼女のあけすけな言葉とお父様の返事に議会室のどよめきが落ち着いてきた。トーマ達アサシンの助力があったという事実も有耶無耶になってくれたみたい。
『それではお前の発言を許可しよう。身の危険を顧みずに審問に加わっていたのだ。何かしら証言すべきことがあるのか?』
『はい、ございまーす!・・・私はセルジュ王子直々にご命令をいただきました。誘拐してきたリスベット様が見つからないように件の砦とその周辺に結界を張れ、と』
また、どよめきが強くなる。『やっぱり』と言う声も少なくない。
『リスベット様がどのような方なのかは審問前に姿絵で確認した。間違いないです。王子が砦に囚えていた女性はリスベット様です。ちゃんと砦でお見かけしましたよ。薄い茶色の髪と焦げ茶の瞳。当時は体調が優れなかったらしいので青白く見えましたが、白い肌で華奢な体躯の正しくお嬢様みたいな人。私がお見かけしたときのリスベット様の様子は、ネグリジェ姿で王子がアサシン達を魔法で惨殺したところに居合わせてしまい、ショックでへたりこんでました。立てない様子だったので王子自らがお姫様抱っこで運んでいきました。監禁するお部屋に運んだとも聞いてます』
また声が上がる。
私の特徴を話して私だと紐付け、恐ろしい殺人の場に直面して衝撃を受けたというか弱いさが強調されている。同情を誘うように話していた。
『私は、リスベット嬢を幽閉していた砦の警備を命じられましたが、リスベット嬢が逃げ出したことによりセルジュ王子から激しい叱責を受けております。そして、日を待たずして砦に詰めていた兵士仲間が連続して不審死を遂げたことに恐怖を覚えました。自分も殺されるのではないかと思い、生き残っていた、この・・・同僚の魔法使いと身を隠しておりました』
『セルジュ王子はかなりヤバい奴ですよ!アサシン達の遺体だって『始末しろ』って感情なく私に言ったりしましたもん!人としての情がないんですー!か弱いリスベット様が決死で逃げ出すのも分かります!絶対酷い目に合わせますから!自分の子供を強制妊娠させるとか!』
『思ったことを何でも言うんじゃない』
そう言って兵士の人が魔法使いを制するけど、誰もその砕けすぎた話し方を咎めなかった。
静まり返った議会室。小さな溜め息、呼吸音すら聞こえるほど。室内がどんな状況なのかは見えないけど、何となく察せた。皆、セルジュ王子を見ている。恐怖、怒り、不信と強張りながら見つめている。
そんな中、誰かが喉を鳴らして笑っている。小さすぎて聞こえないけど、私だからはっきりと聞こえた。トーマが笑っている。自分が手を回すことで作り出した状況が楽しくて堪らないと笑っていた・・・。
『だから嫌なんだ』
王子が低い声で呟く。
『お前等は人に役割を求めて勝手に持ち上げるくせに、その人間に否があると分かればすぐに嫌悪する。おかしいと群れて非難をする。リスベットのことも、僕のことも、自分の理想から外れたら許そうとしない。まるで自分達が善の立場にいると思い込んでいる・・・揃いも揃ってクズだというのにな』
『セルジュ王子殿下、弁解はありませんか?』
『何を?こんな連中に何を・・・、お前もだ、お前程度の女に何を述べろと?僕のことを嫌悪して、ああ、お前もだ・・・ここにいる全員、僕のことを異常だと言って、お前等こそ異常なのに!!』
セルジュ王子は迫力のある怒鳴り声を議会室に響かせている。
『マズい、煽りすぎたわ』
トーマも引いていた。取りあえず、誰か王子を落ち着かせて、
『バルデル、お前もだ!お前が憎い!僕のリスベットに触れただけでなく、いつも側に!!お前さえいなければとっくの昔に彼女は僕のものだったんだ!!それを、ああ・・・リスベット!彼女もだ!こんなに愛しているのに答えてくれない!!憎い!!・・・恋しい。会いたい、リスベットに・・・僕の気持ちを受け止めてほしい・・・』
感情がおかしくなって錯乱状態に陥った。そう感じた。
悲痛な声で私のことを呼んでいるけど、同情はできない。私を苦しめた人、簡単に人を殺せる殺人鬼。早く罰を受けてほしい。
ああ、自分の心がこんなに冷めるなんて思いもしなかった。
『セルジュの様子がおかしい。誰か落ち着かせよ』
国王の力ない声が聞こえる。自分の息子の暴走を止められなかった人だから、目の前の乱心だって止められるはずがない。
そう思って呆れを感じたけど、落ち着いた美声に感情が塗り変えられた。
『・・・その必要はない、僕は正常だ。怒りで荒ぶりそうになったが、今は冴えている。何をすべきか分かっている』
え、急にどうしたの?数秒前まで感情が剥き出しだったのに。
『あの野郎、笑いだしたぜ』
トーマが引き気味に言ってて、
『ところでグラン公。先日、僕はアサシンに襲撃されたことで何よりも強い感覚を与えられた。それが何か知っているかな?』
『何を仰られたいのか?』
『それは痛みだ。身を裂かれる激痛は何よりも強い。全ての感覚が支配されて魔法などと使っていられやしないんだ』
『セルジュ王子、あなたは』
セルジュ王子とお父様の問答が始まって、呻き声が聞こえた。次いで女の人の悲鳴が上がり、皆が、トーマが声を上げて、
「あぁっ!?いたぁっ!」
轟音が私の耳をつんざいた。鼓膜が痛む。モフとのリンクが切れて何も聞こえないけど、激しい破壊音だけは響き渡って・・・何か割れたような感覚を与えられた。
私を守るために屋敷に張られた結界が崩れた。ピンと張り詰めていた空気が解放されて、つまり、これは・・・お父様の身に何かが?
答えは分からない。ただ大きな破壊音が轟いている。どこかで何かが壊れ始めた。巨大なものが倒壊したと空気を伝って知らされる。屋敷の室内に引きこもっている私にすら、大きな音を立てることで届けてくる・・・───。




