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ここから修行編になるので、恋愛要素なくなるので一度に2話ほど更新させてもらいます。
鳥の囀りに惹かれて部屋に一つしかない窓を見れば、一羽の茶色の小鳥が飛び立つ姿が見えた。
朗らかな午前。まあ、未だに部屋に籠もっているから心境的には鬱々としているので、私自身は朗らかとは感じてない。
セルジュ王子の起こした事件。私の誘拐も屋敷で起きた虐殺も解決の見込みはない。王子を擁護する国王と被害者である私を守ろうとするお父様の舌戦は続いている。私は、この鉄壁の守りが施された部屋から単独では出れないから、状況がどうなっているかも分からない。
だから、悶々と考え込んでしまう。いつか王城へ召喚されて、セルジュ王子と会って、捕まる。そんな最悪の結末を迎えるんじゃないかって思いに至って、否定と首を振る。その繰り返し。
いけないと分かってるから気持ちの切り替えはよくしていた。悪い方に考えないようにするのも大事で、そのためにも魔法の勉強をしている。
今日は成果がどれほどか自己テストをする日!さっき決めた!私の魔法の実力がどこまで至ったのか、見極めないといけない。
窓から目を離す。
部屋には私しかいない。トーマは一時的に自分の持ち家に帰った。アサシンの頭領として部下からの報告を聞かないといけないし、持ってきたい物があるって言っていた。だから、私の元に帰ってくるのは夜になると思う。
毎日、ずっと私の側にいてくれるんだもん。帰宅が少しは彼の息抜きになればいいけど、やることが終わったらすぐに帰ってくるはず。
私のことを、その、好きだから離れたくないって体で表現してくるし・・・ああ、自分で考えて胸がドキドキしてきた。落ち着け、今はトーマはいないんだから、落ち着いて私!
熱くなる体温を冷やすために深呼吸をする。
そうすれば、部屋のドアがノックされた。メイドさんが頼んでいたものを持ってきてくれたみたい。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを片手で開けた彼女は、一礼をすると姿勢を正した。きちんと後ろを振り返ってドアを締めて、私の方に落ち着いた足取りで近付いてくる。
うーん、訓練された美しい所作って見惚れちゃうよね。側に来るまでガン見しちゃった。
私の視線を気にしないらしいメイドさんは穏やかで、微笑みながら上半身を屈めてテーブルにある物を置く。
置かれたのは、木製だけど彫金された装飾のある私の大きな宝石箱。様々なアクセサリーが収められていて、それが魔法の自己テストに必要だった。
「ありがとうございます」
「いえ、この程度のお願いでしたら何でも仰ってください・・・それにしても、お嬢様」
さっきまでの穏やかさは無くなり、メイドさんは興奮気味に拳を作った両手を胸まで上げるとズイって迫ってきた。
キラキラした目の輝きに押されたから体ごと引いちゃった。
「装飾品をお求めになるということはお召し替えでしょうか?お洒落がしたいってことですよね!?」
違う、とはすぐに言えなかった。彼女には勢いがあって迫力もある。
「ずっっっとお部屋にいましたら気が滅入ってしまいますもの!お洒落は気分転換に最適です!私に任せてください!お嬢様を王都一、いえ!国一番の可愛らしいお姿に致しますよ!」
・・・魔法のためにアクセサリーが必要だったとか言えない。水を得た魚のようなメイドさんの様子に何も言えなくなる。
だから、「お願いします」と言って彼女に全てを任せた。お茶会用のペールピンクのドレスに、それに合う土台が花の形をしたダイヤモンドのネックレスとイヤリングを付けられて、髪をアップに纏められた。ドレスと同じ色の造花と細やかなレースを組み合わせた髪飾りも付けると、メイドさんは満足そうな顔を浮かべる。いい仕事をしたと額を腕で拭う様子は最高に輝いていた。
「では、わたしは失礼致します・・・ああ、とても可愛らしいですわ。お花の妖精のよう!流石、わたし達のお嬢様です!」
「・・・ありがとうございます」
満ち足りた彼女から贈られた言葉にお礼を言えば、「ご休憩のためにお茶を持って参ります」と素早いながらも一切の焦りのない所作で退室していった。
・・・褒められて嬉しいけど、過剰だって分かってる。この家の人達、トーマを含めて私のことを可愛いって言いすぎ。親の欲目ってこと?親じゃないんだけど。実の父親は可愛いとか言ったことないけど。
「・・・よし」
気分を変えるために声を出す。
ソファに座ってテストに気持ちを切り替えた。ちょっと動きづらい恰好にはなったけど、それが枷にならないようにスマートに魔法を使う。どんな状況であれ、素早く的確に使えるようにならないといけないんだから。
アクセサリーを付けるために蓋が開かれた宝石箱を見る。大きな箱だから収納数もかなりあるけど、蓋の裏にフックが付けられていることで、下げられているネックレスもペンダントも、チェーンが引かれて絡まっていない。
その中から大きなアクアマリンが煌めくペンダントを取った。石の大きさはたこ焼きくらい・・・例えが庶民的だけど、分かりやすく言うにはたこ焼きしかなかった。手のひらの上に乗せて眺める。
ああ、やっぱり水のマナが宿っている。このアクアマリンが、私の前世の世界にあったアクアマリンと同じだとは分からないけど、変わらない名前から水に関係するものだと思っていた。マナを感じることができるようになったおかげで、水の魔石のように豊富にマナを含んでると分かる。
水は天然の鏡。姿を映す力がある。王子と婚約破棄に至ったときの水鏡の魔法も、水を使って遠くのものを映す魔法だった。何かを見るためには水という要素が必要。
以前、トーマに持ち込んでもらった工具箱を引き寄せる。その中から先の細い目打ち棒を取り出すと、アクアマリンとその銀の台座の間に差し込んだ・・・取れるかな?力を加えて、あ、少し浮いた。その間に別の、小さなマイナスドライバーみたいな工具の先を入れて、外れるように上に動かした。台座からパキンッて音が聞こえる。石より薄くて強度がないから割れちゃったみたい。
でも、アクアマリンは取り出せた。台座の割れたペンダントをテーブルに置いて、私は手の中のアクアマリンを見る。透明感のある薄い水色は綺麗で、海の波打ち際を思わせた。
この世界では、どんな逸話からアクアマリンと名付けられたか分からないけど、正しく海の石。水のマナの結晶のような石。
この石と中庭で拾ったニ枚の鳥の羽を使う。羽は小さくてフワフワした感じから頼りなくも感じたけど、風のマナを感じている。纏わり付いてる多さから、羽の持ち主は長距離の飛行が出来る鳥だったんだろう。
2つともを両手に包む。目を閉じて、イメージする。
海がうねり、波が立つ。それを下にした鳥が羽ばたき、海風を一身に受けても逞しく飛び続ける。潮風の香り、羽を撫でられる鳥は水と風の中にある。その場所が居所だと言わんばかりに・・・あ、温かい。
手の中に熱を感じて、質量に押されて少しづつ膨らんでいく。目を開いて、合わせていた両手もゆっくり開く。
・・・かっわいい!!私の手の上にむちゃくちゃ可愛い小鳥がいる。この子、北海道にいる小さくて大福みたいにふくふくした小鳥に似ている。確か、ええっと、シマ、シマエナガだっけ?そんな小鳥みたいな子が私の手の上に!
いや、私が生み出したから当たり前か。ちょっとイメージしていたものとは違っていて可愛いすぎる。不思議そうに白い羽毛でふわふわの頭を傾けていて、綺麗な水色の目で私を見ている。
これが私が自分に課したテスト。使い魔作成。前の手紙を鳥にしたものとは違う、永続的に使役できる私だけの使い魔を生み出した。たぶん、イメージ通りいかなかったのは生み出すための素材量が足りなかったからだと思う。
それにしても、ありがとう魔法の教科書。こんなに可愛い命を生み出すことができました!
いけない、あまりの愛らしさに気持ちが高ぶりすぎた。落ち着いて、落ち着いて深呼吸をして・・・あ、ドアをノックされた。
「どうぞ」
返事と共にメイドさんが入ってくる。彼女は私と使い魔の小鳥を見て目を瞬かせたけど、すぐに顔を緩ませた。
ふにゃふにゃとした笑みを浮かべながら、手にしていたティーセットをテーブルに置く。
「やはり可愛いものは可愛いものを惹き寄せるんですね〜・・・」
なんて言うと、お辞儀をして部屋から即座に出ていこうとする。
「あの、お茶をありがとうございます」
振り返ってまた一礼。それだけ返して立ち去ろうとする背中を見送った。
何か勘違いされてるけど、使い魔ですとか言ったら質問攻めになりそうだった。それに、私の邪魔にならないように配慮してくれた彼女の気持ちを汲んだ。いい人ばかりで恵まれてると思いながら、手の内にいる使い魔に向き直る。
うーん、やっぱり可愛い!って、そうじゃない。これはテスト。この子が使い魔として完璧か見定めないと。
空いてる手の人差し指を立てて横にする。とまり木に見立てた指を小鳥に見せた。
「こっちに留まってみて」
小鳥の首がコテンコテンと左右に傾くけど、すぐに翼を広げてポンと飛び、体型からは想像つかない機敏さで指に飛び乗った。
やった!私の命令を聞いてくれている!理解しているみたいだし、使い魔作成には成功したみたい!
嬉しくて小さなふわふわの頭を撫でた。気持ち良さそうに目を細めた小鳥ちゃん・・・名前を考えた方がいいよね。どうしよう・・・。
悩む私を気にすることなく小鳥ちゃんは可愛い声で囀る。チュンチュン・・・ちょっと違う。チュピピみたいな高くて愛らしい声・・・そうだ!
「あなたの名前はチュピよ。これからは私の使い魔として働いて。いいかな?」
また首が傾いて、了承するように高い声で短く囀った。
賢い子が生まれてくれて良かった。可愛くて頭がいいとか既に完璧だけど、この子の形状は小鳥。飛行能力、そして最も重要な能力が発揮できるか試さないといけない。
チュピを指に留まらせたまま、ソファから立ち上がって窓の側に立つ。
窓から見える外は青空が広がっている。庭の木々が風に吹かれる様子から、そよ風程度の風量だとも分かる。気温も高くないからいい天候だ。
窓を引き上げて開くと、チュピを乗せた手を外に出した。ガラスの向こうから宝石の瞳が私を見つめている。
「ぐるりと王都の空を飛行してきて。なるべく低空で、それでいて人に捕まらないくらいの高さで飛ぶの。あなたのその瞳で王都の様子を映して」
小さく跳ねて体の向きを変えたチュピは、私にふわふわの背中を見せると飛び立った。ふわっと宙に浮いて、白い翼を忙しなく動かして羽ばたき、離れていく。
「・・・」
窓をそのままにして、私はまたソファに座った。息を吸って、ゆっくり吐いて目を閉じる。祈るように両手を交差して顎に当てた。
あなたの瞳に映るもの全てを私は知ることができる。その煌めく目は私の目。さあ、見せて。
目を開いた。そこには様々な物が置かれたテーブルなどない。ティーセットからお茶の匂いはするけど、見えはしない。
私の視界には王都の町並みが広がっている。家屋が立ち並び、街路樹や緑地として植えられた木々があり、レンガが敷き詰められた道を行く人々の姿を真上から見ている。
「やった、成功した!」
嬉しくて、思わず口に出してしまう。ここにトーマがいなくて良かった。チュピの目を借りてる状態とはいえ、目を見開いたまま独り言を言ってるなんて奇異すぎる。
でも、テストは合格したと思ってはいいはず。チュピはしっかりと飛んで、私に自分の目で見たものを教えてくれている。
遠隔で視覚から情報を得るために生み出した使い魔。それを目指したわけだけど、一発で成功したのは喜びしかない。
(あとは、どれくらい視界をリンクさせられるか。これは私の魔力に寄る。現段階で一時間くらいはリンクできればいいんだけど・・・)
道を行く人々の頭頂部を見ながら、飛行することで過ぎ去る景色を眺めながら考える。チュピの目が水のマナを含んだアクアマリンで出来ているから、視界はぼやけずにはっきりとしている。少し狭く感じるのは、瞳自体が小さいからだろう。
この子の形状を考えれば視界が狭いのは仕方ない。あまり大きな鳥にすれば、人目についてしまうし。
(それに体の小ささから屋内にも侵入できる。的確に指示を出せば思った通りに動いてくれるし、斥候みたいな役割だってできるはず)
警備の行き届いた王城とかに侵入すら可能かもしれない。
「それにしても・・・」
チュピの可能性を思いながら、私の目は王都の様子を見ていた。何かおかしい。道行く人々の様子も、兵士の多さも気になった。緊張感があるように見える。
視覚だけを求めた使い魔だから音は届かない。人々の声は聞こえないからよく分からないんだけど、恐れを感じる。すれ違う兵士を見て怯えているように映る。
(木に留まって、周りの人をよく見せて)
思うことでチュピに指示を出した。私の小鳥はすぐに理解して、街路樹の枝に留まるとその周辺の人々を瞳に映してくれる。
・・・やっぱり怯えてる。兵士を不審に思っているようで険しい顔をしている。何でそんな顔をするんだろう?私が屋敷に籠もっている間に、兵士関連の小競り合いでも起きた?
でも、この国の兵士達は統率が取れている。戦時でもないから緊張感もないし、普通に警らしているだけだと思うけど・・・兵士達の多さに関係があるのかな?いつもより多いし。
(いや、これは・・・兵士が皆を監視している?)
兵士達の動きは決まっていた。巡回と人々に紛れて歩き、要所で立ち止まる。その時に周辺を見ているみたいだけど、まるで犯罪者を探すかのような動きだった。
数の多さも相まって物々しい。視覚だけでも緊張感が伝わってくる。
「あ・・・」
一斉に人々がある一点に顔を向けた。兵士達もそちらに向かって動き出す。何か起きたみたいだけど、よく見えない。
だから、チュピに移動するように指示を思った。すぐに飛び立って、街灯に留まる。
その目は近くの争いを映した。マジックアイテムを売っている店から人が出てきていて、玄関前で兵士に掴み掛かっている。兵士達がすぐに集まってその人を囲うけど、周りにいる数人の人々も兵士に挑んでいた。
何で争っているんだろう?見ているだけの人々も顔が強張っている。恐ろしいものを見ていると、兵士達に顔を向けている。
平和な王都で何かあった。私の誘拐やら虐殺はあったけど、そんなことは他の人達に関係ないから別の騒動があって、人々は兵士に怯えている。
・・・よく分からない。視覚だけじゃ情報が足りなさ過ぎる。小さなチュピに全ての感覚をリンクするのはチュピ自身に負担がかかるし、何よりそこまでの準備はしてなかった。
これは別の使い魔が必要だわ。新しい子を生み出す準備を。
時計がなる。これは部屋を出てすぐの廊下から聞こえてくる。近くに設置されている柱時計の音だろう。
時間が来た。これから別の用事がある。
(テストは合格。チュピの能力も計れた。リンクを止めよう・・・さあ、戻ってきて。部屋の窓は空いているから、そこから入ってくるの)
最後に指示を思って目を閉じた。視界を戻そう。ちょっと間を空けたあと、ゆっくりと目を開く。私の目は物がひしめくテーブルを映していた・・・片付けないと。
ソファから腰を上げてテーブルの上を片付けた。工具箱に工具を戻して蓋をすると、邪魔にならないようにテーブルの下に移動させる。宝石箱も蓋を閉じて隅に寄せた。魔法の教科書とノートは手前に、メイドさんが運んでくれたティーセットはその横。
すっかりお茶は冷めているだろうと思ったけど、ポットに触れたら温かかった。マジックアイテムで保温していたのかもしれない。トレイの上にはカップが二客。片方のカップにポットの口を傾ければ、湯気立つ褐色が注ぎ込まれる。
その瞬間、部屋のドアがノックされた。私はもう片方にもお茶を注いで返事をする。
「どうぞ」
「失礼致します」
ドアの向こうから声がして、そのドアはゆっくり開かれた。姿を現したのはソニアさん。穏やかな笑みを浮かべた彼女は、複数の本を腕に抱えていた。
「お待ちしていました。どうぞ、こちらへ」
私も座るソファを手で指し示せば、ソニアさんは表情をそのままに近付いてきた。抱え込むほど持つ本のタイトルが見える。回復魔法についての本。そして、人体の図鑑と解剖図。
なんで図鑑と解剖図があるのか分からないけど、私はこれから彼女から回復魔法を学ぶ。数日前に交わした約束をお兄様が叶えてくれた。




