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周りの男性達(特にお父様)が最強格だからリスベットが逆に行動不能になるという。ここから閉じ籠もり生活になります。

夕食が終わって、まずはお父様が退室した。その後にお兄様とソニアさんが続こうとする。私も席を立って二人を追った。


「少しよろしいですか」


お願いがあったから、ドアの手前で声をかける。お兄様は顔だけを向けて、ソニアさんは体まで私の方に向けてくれた。


「どうした?」


「ソニアさんにお願いがあります」


「わたくしですか?」


視界の中の二人はお互いを見ると、同時と私に視線を戻す。無表情とキョトンとした顔の違いはあるけどシンクロしてるなー、とか思ったのは何秒もない。ぼんやり考え事をしていたらお兄様に突っ込まれる。


「回復魔法を教えていただけませんか?学園の教科書はありますが、専門であるソニアさんに教授されたらよりよく学べると思うのです。なので、よろしければお願いします」


「まあ、そうでしたの!」


彼女は微笑むと、お兄様へと視線を向けた。身長差から上目遣いになっている。お兄様はその眼差しを一身に受けていて、可愛いって思ってるんだろうな。感情を見せないようにしてるから分からないけど、私がそう思うからお兄様も思ってるはず。

ジッとソニアさんを見つめていた紫色の瞳が私に向けられる。


「今更、魔法を学ぶつもりになったのか」


「今だからです。私は劣っていますから、この状況で何かが起こればお父様やお兄様にご迷惑がかかります。自分で出来ることを増やしたい。そうすれば、グランの魔法使いほどにはなれなくとも、足手まといにはならないと思います」


「危険に晒すようなことは起こさせないが・・・そうだな、学ぶ意欲が芽生えたことは素晴らしいことだ。いいだろう、時間を作ってやる」


「あ、ありがとうございます」


何でお兄様の許可が必要なんだろう、とは言わない。主導権はお兄様にあるんだって納得するしかないから。


「では、お時間ができ次第、お部屋に伺わせていただきますね」


「はい、お願いします」


「お前も手の空く時間を提示しておけ。回復魔法以外にも学ぶつもりなのだろう?」


「・・・お気遣いありがとうございます」


感謝の気持ちからお辞儀をした。

それにお兄様は「その癖は無くならないな」と言って、柔らかな笑顔を向けてくれるソニアさんを連れて退室する。

ドアが閉じた。食堂室には私とトーマだけで、他に誰もいないから彼は近付いてくる。


「やる気満々ですね」


「私は学ばなすぎたのです。これから多種に渡る魔法を覚えないといけません。もしセルジュ王子と対面することになったら、逃げるにも、抵抗するにも魔法が必要になります」


「俺がいるんで対面すらさせませんよ」


トーマは私の肩に手を回すと抱き寄せてきた。しっかりくっ付くために私は彼の腰に手を回す。

ぴったりと体が密着したわけだけど、何で目を丸くしてるんだろうこの人。抱き付いてきたのはそっちじゃない?


「なあ、キスしていい?」


何で!?そんな雰囲気にもなってないのに、何で突然言い出したの!?


「だ、駄目です!」


「あー、そうですか・・・率先してくっ付いてきたからいけると思ったんだけどなー」


ごにょごにょと何か言っているけど、最初の一言以外は小さすぎて聞こえなかった。

その気もそれたのか、トーマは足を進める。密着しているから私も歩き出した。


「そういえば、食事を取らないのですか?」


「食べますよ。携帯食があるんで、勉強をするお嬢を見ながらゆっくり食べるつもりです」


私の姿がおかずってこと?まって、ちょっと卑猥な表現になった・・・いや、でも間違いじゃないか。深い意味じゃない、健全そのもの・・・私を眺め続けるって健全なの?

そんなことを考えながら、行きと同じくトーマに視界を塞がれたりして部屋に戻る。

彼がドアを開けてくれたから、体を離して先に進んだ。ソファに座り、テーブルに積み上がっていた教科書とノートを引き寄せる。そうすれば、トーマは定位置の真横に座ってきた。私をおかずにして夕食を・・・何かニヤニヤしてるんだけど?深い意味の方のおかずにしようとしてる?


「何か楽しそうですね」


ちょっと怖かったけど好奇心に負けた。変なことはしないって信頼もしてるから聞けたっていうのもある。


「いやー、いいこと思い付いたんですよ」


・・・何だろう?いやらしいことじゃないよね?そう信じたいけど、この笑い方は絶対に悪いことを考えているとは思う。深入りしないほうがいいかな。

私の嫌がることはしないから、無理矢理、その、エッチするつもりじゃないだろうし。

体温が上がるのを感じる。頭に浮かんだことのせいだって分かってるから意識を変えないといけない。考えないようにして教科書を開いた。

以前はチンプンカンプンだった内容も、「よいこのまほう」のおかげで分かりやすくなっていた。先ずは学ぶべき魔法を定めよう。目次から探し出す。


「適度に休憩時間を作ってくださいよ」


「・・・大丈夫です。根を詰めすぎれば集中力が低下しますから、しっかり計画を立てています」


「で、休憩時間になったら口説かせてください」


「わか・・・駄目ですけど!?」


了承しかけた。何を言い出すの。そんなことされたらトーマに意識が向いてしまって身に入らないじゃん!


「駄目かー・・・手厳しいな」


彼を見れば、背もたれに体を預けて天を仰いでいた。緩んだ顔をしているから私の拒否を本気にしてない。まだその時じゃないって分かってる、はず。


(トーマのことばかり考えちゃ駄目でしょ)


今は魔法を覚える時間。しっかり身に付くように、教科書に視線を戻した。気になる魔法、使えるだろう魔法を複数選んで、選んだ中から一番早いページを開く。

隣にある温もりのことは意識しないように努めた。何かトーマを意識しないようにしてばっかりだけど、そうしないと甘えそうになるって分かる。

何でも頼っちゃいけない。自分で出来そうなことがあれば、自分が出来るようにしないと駄目だ。

感じる視線を気にせずに、私は魔法の理解を深めていく・・・───。






───・・・そうして二日ほど経った。

与えられた部屋で魔法の勉強をする日々。教科書を読み込んで、実践の繰り返し。高位の魔法を知るためには魔導書を読む必要もある。だから、魔法文字の勉強も始めた。前世でも英語を読むのはキツかったけど、魔法文字は更にキツい。意味不明で訳が分からなくて、一文字ずつ翻訳しながら覚えていくしかない。

トーマはそれをずっと近くで見ているし、休憩時間になると口説くことの了承を求めてくるし、キスも求めてくる。駄目出しすれば諦めてくれるけど、また言ってくる。

これは別にキツくないけど、同じことの繰り返しっていうのが疲れてきたっていうか、部屋にずっといることで息が詰まっている気がする。

思わず、溜め息が漏れてしまった。それに昼食を運びに来たメイドさんが目を瞬かせる。


「お疲れですか、お嬢様」


心配そうに眉を寄せた。気を使ってくれる彼女に心配なんてさせたくない。


「いえ、大丈夫です。ずっと文字を見ていたので一息付いただけですから」


「そう、お嬢はずっと勉強してるんだ。いい部屋にいるとはいえ、黙々と同じことをしてたら息が詰まるよな」


「まあ、そうでしたか・・・お嬢様、頑張りすぎては逆に効率が悪くなってしまいますよ」


「休憩はしています」


トーマとメイドさんに責められてる。もう少し休めって言われているみたいだけど、休憩はちゃんとしていた。だから、事実を言うんだけど、


「お嬢は真面目だから勉強を止めことを休憩って言ってるんだぜ?俺としては、ちゃんとした休憩させてやりたいんだが、何かない?」


「何か・・・」


私のことを無視して二人は考え始める。いや、当事者の私の話を無視しないでほしい。

何か言わないとって口を開いたら、


「そうだ!ピクニックなんてどうでしょう!」


メイドさんが明るい声で提案した。

ピクニック?私は屋敷から出られないんだけど・・・───。






───・・・青空に綿菓子みたいな雲が浮かび、ゆっくりと形を変えていく。風が優しく私の髪や肌を凪いで、背後にある樹木の枝葉が擦れ合う。鼻孔に青草の匂いが微かに届く。

私は、背の低い芝生の上にシーツを敷いて座っている。バスケットの中にあったサンドイッチは残り少ない。お皿一杯にあった果物も、ブドウが一房残るのみ。

私はピクニックをしているわけだけど、ここは高原でも湖畔でもない。部屋の窓からも覗けた屋敷の中庭だ。

メイドさんが気を利かせて中庭で昼食を取れるようにセッティングしてくれた。いつもと違い、開放的で自然と触れ合っている。気分転換になって食も進んだ・・・進んだけど、状況が良くない。

昔からあるオリーブの木の木陰に陣取ったんだけど、シーツに腰を下ろした私をトーマは後ろから抱き締めてきた。広げた足の間にすっぽりと体を入れられて、背中全体に温もりを感じながら、お腹に腕が回されている。

食べている間もずっと体勢は変わらなかった。好きな人に抱きしめられているって状態を続けながら、ドキドキしながらも、慌てふためかずに食事を取った私を誰か褒めてほしい。


「お腹は一杯になりました?」


右肩の方から彼の顔が覗き込んでくる。近い。今までも近いときはあったけれども、こう、真後ろから抱き締められながらって構図は心に負荷がある。ドキドキしすぎて心臓が破裂しそうなんだけど?

気分転換のつもりのピクニックで平静を保とうと必死にならないといけないとか、破綻している気がする。


「は、はい・・・もうお腹一杯です」


「勢いよく食ってましたもんね」


軽く笑いながら言ってるけど、私は上品に食べるように努めた。早々に食べたのは、あなたに抱き締められていることが気になりすぎたから!食事に意識を向けることで紛らわそうとしていただけですけどね!

私の気持ちなんて察して・・・いるだろうな。意識されてることを喜んでるようで、上機嫌とトーマはお皿のブドウを一粒取って食べた。

これ、私の気分転換というよりはこの人が楽しい時間を過ごしてるだけじゃない?

でも、嫌じゃないし、ドキドキしても体は預けられるって安心感があるから居心地悪くない。こうして許しちゃってるから積極的になっているんだよね。

お腹に回した手を、ちょっと動かせばエッチなこともできるのにトーマはしない。この状況が満足だってしっかり抱き締めて、私の肩に顎を乗せて見つめてくる。

このまま体を任せても大丈夫だって思えてしまう。もう気にしてもしょうがないんだ。離すつもりはないみたいだし、ソファの代わりにしちゃおう。

私にできるのは別のことをして意識をそらすことだけ。


シーツの上に無造作に置いていた本を手に取った。これは教科書じゃなくて冒険物の小説。この世界で有名な小説家の代表的な作品で、出版されてから十年くらい経っている。何度も読んでるけど、何度でも楽しめるからつい読んでしまう。

ページを開く。風に捲くられないように指先で押さえながら、物語に入り込もうとした。

あー・・・駄目だわ、トーマの視線が気になりすぎて読めない。


「あの」


ページから彼の方に視線を動かす。やっぱり私を見ていたから目が合った。


「暇じゃないですか?」


「全然、読書しているお嬢を見てるから暇じゃないです」


またブドウを取って食べる。

私の姿をおかずにおやつ食べてる。トーマは気分が良さそうだし、このまま我慢をするしかないんだ。


「その本好きですね」


「え?」


本を読み始めようとしたら、彼に話しかける。再び視線を向けると、その目は私の持つ本のページに向けられていた。


「何度も読んでいるでしょ?そんなに好きなんですか?」


流石だわ。ずっと側にいたからよく見てるし、よく覚えている。私も本へと視線を落とした。


「そうですね。この小説は少年が故郷を離れて世界中を巡る冒険譚なのです。様々な困難や試練を掻い潜った彼は世界を滅ぼそうとする魔王すら倒します。そこに至るまでの冒険は凄まじく、幼い彼を打ちのめそうとしますが勇気と行動力で打開する。それの勇姿が素晴らしくて、試練を攻略する場面にはハラハラもします。苦しみに耐えて立ち向かう姿に感情も揺さぶられるのです」


「ふーん・・・」


簡単とはいえ、オタク特有の早口気味に説明してしまった。引いてないかな?


「お嬢は冒険がしたいんですか?」


「え?」


次の質問がくるとは思わなかった。でも、トーマだから私の話を聞いてくれるつもりがあるとも分かる。否定は勿論、拒絶なんてされたことないもん。


「冒険がしたいとは思いません。そんな力も立場もありませんから・・・だから、こうした本で追体験をしているのです。困難な冒険に立ち向かう少年の姿を文章で追っている。勇気に触れて気持ちを高ぶらせて、出会いと別れに感動して、素敵な物語だと満足感に浸る・・・私もこのようなお話を書いてみたいって心が震わされる」


つい漏らしてしまった本音。誰にも言ったことがない私の望み。言ってしまったと口を閉ざしたけど、彼が聞き逃すはずがない。


「作家になりたいんですか?」


(なりたい。この世界、『ETERNAL MAGIC』のような人を引き付ける物語を私も書いてみたい)


私は、そのゲームの世界の悪役令嬢に転生してしまった。結末を知っているからゲームのように殺されず、平穏に暮らしたい。生き延びた先で夢をみたい、何かしらの作品を書きたい。それだけ思って奮起した。

その結果、物語と人々を変質させた・・・そう思ったけど、もしかすれば私が生まれ変わった時点で人も物語はおかしくなっていたのかもしれない。トーマもセルジュ王子も本来恋するヒロインを想わず、私を好きになっているんだから。

つまり私の知らない物語になっている。だから、これからどうなるか分からない。結末も分からない。夢を叶える以前に、平穏が訪れることすら叶わないかもしれない。


「トランス?」


「違います・・・ただ、色々と考えてしまいました。お父様とお兄様が私のために動いてくださっているのに、当人である私が暢気に過ごしていていいのか・・・本の世界にのめり込んで、夢を見ていいのか」


「別にいいだろ?お嬢だけが考えたって解決する問題じゃないんです。大体、何も悪くないんだから、お嬢が好きなように過ごしていても文句を言う筋合いは誰にもない」


きっぱりと言いのけられた。

トーマの腕に力が加わる。しっかりと私を抱き締めてくれた。彼の顔を見れば、優しい表情が浮かんでいる。


「作家になりたいなら書いてみればいい。やりたいことをすればいいんです。俺はお嬢が楽しそうにしてくれたら、それでいいんだからな」


「トーマ・・・」


その言葉が嬉しくて、私のことを見つめる顔と優しい声に胸がときめいてしまう。

ああ、やっぱりいい人。私の気持ちを尊重してくれて・・・なんて思ったら、


「俺っていい男だろ?これはもう、キスするしかなくないですか?」


「・・・しません!」


それさえ言わなければ最高だった。本当にどうしてもキスがしたいらしい。


「駄目かー」


へらへら笑って私の肩に顎を乗せる。瞬間、その顔が締まった。真顔は最高にイケメンだなーって思っていたら、耳元に囁かれてしまう。


「もう貴族の娘でもないんだ。誰にも従う必要もなく、やりたいことをやれるんです。作家になりたいのなら援助しますよ。それが夢だっていうなら、俺は叶えてやりたい」


「ありがとうございます。そこまで言ってくれるなんて・・・嬉しいですけど、申し訳ない気持ちもあります」


「リスベットに好きになってもらうなら何だってする」


「・・・」


下心があるから優しくしてくれている。私に献身的なのは自分の欲望を達成するため。とても分かりやすい理由。

納得もできる。だけど、そういう目で見られていると改めて自覚したから、体が熱くなっていく。


「まあ、王子との問題が解決して、農村に戻ったあとの話になるけどな。ここだとアシュレイの目もあるし・・・あーあ、早く帰りてぇな」


「あの、トーマはこのまま私と農村で暮らすんですか?」


「当然だろ・・・俺達はずっと一緒に暮らすんだ。誰にも邪魔はさせない」


トーマの頭が動いて、こめかみに柔らかいものが当たった。これは「チュー」に該当するんだろう。「キス」じゃないから、私の許しなんて必要のない。

キスをしたら、きっと私達の関係は先に進む。こうして抱き締められるだけじゃ終わらなくて、深く繋がるような・・・。


「そういう顔をされると理性が吹き飛びそうになる」


耳に息が当たる。言葉と吐息に体が震えて、思考も溶けそうだった。でも、このまま身を任せちゃいけない。


「私は信じています、あなたなら耐えてくれる」


「・・・嫌われたくないからな」


トーマは息を漏らした。

耐えないといけないのは私も同じ。愛を交わすなんて今は出来ない。これからどうなるか分からないんだから。

グッと堪えて彼の顔を見た。優しい顔はしていない。ギラギラした目を細めた彼に、口元を緩めた。


「農村といえば、ジャガイモ畑はどうなっているでしょう?雑草が凄いことになっていそうですね」


「あ?ああ、大丈夫ですよ。家の近くに警備担当の奴らがいたでしょ?実は俺の部下のアサシン達で、暫く戻れないから畑の世話を頼んでおきました」


「そうなんですか?」


「そうです」


フッと笑ったトーマ。目の色も変わって、いつもの穏やかな眼差しになる。


「本当にあなたは頼りになります」


「お嬢の大切な畑ですからね」


この人は本当に優しい。私に合わせてくれる。欲望があっても我慢をしてくれる。大切にしてくれていると分かる。

こんな優しい人にいつか報いたい。私を捧げることで満たされるのなら、決心がついたのなら、全てを差し出したい・・・───。

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